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4:声
「今日は、狼の獣人の王子がこの店に来られる。皆、粗相のないようにな!」
朝早く店の者達を皆呼び出した楼主は、それだけ言うとそそくさとどこかに消えた。お偉いさんが来る場合、自室から出ることを許されていないイリには関係ない話だった。
ほら。ニタニタと笑みを浮かべながら、イリのことをよく思っていないβが近づいてきた。もちろん、イリを部屋に閉じ込めるためである。
勝手に出ないように、首輪をつけ、鎖を部屋につなげるのだ。こんなことをしなくても、イリが勝手に出ることはないのだが。
もしも何か粗相があれば、すべて楼主の、店の責任になる。それが恐ろしいのだ。
「おら!今日もてめぇを繋いでやるよ!」
そう言ったβの男が、イリの腕を強く握った。そして無理矢理引きずっていく。無理矢理引きずられたことで、昨日の暴力により出来た傷が酷く痛んだ。
だから、いつもは抵抗しないのに抵抗してしまった。
自分の腕を掴むβの手を払い除けてしまったのだ。
「―――――おい、薄汚ぇΩ。何お前みたいなのが、俺に逆らってるんだ。あぁ!」
「っ、!!」
怒り狂ったβは、イリの腹を思いっきり蹴った。その勢いで飛んでしまったイリに、これでもかというほどの暴力を振るう。
大丈夫。このまま耐えていれば、いつかは終わる暴力だ。大丈夫。大丈夫。そう思いながら、イリは暴力を耐えていた。
しかし、耐えても耐えても、一向に暴力が終わることはない。終いには、傍観していたβも加担していた。今のイリは、日頃αに虐げられているβのストレスを発散させるにはちょうどよかったのだ。
βの暴力を受け入れながら、イリは死ぬかもしれないと思った時だ。
「っ、やめて!!!」
βとイリの間に割って入るようにしてライタが来たのである。ブルブルと身体を震わせながら、ライタはイリを庇うようにして抱き締めた。
やめて。このままでは、ライタにもβの暴力が及んでしまう。
そう言いたいのに、イリの口から言葉がこぼれることはない。
ライタがイリを庇ったことにより、さらに怒りを顕にしたβが、ライタを殴ろうとした時だ。
「何をしているんだ」
聞いたことのない低音が、イリの耳に届いた。
その声は、イリの身体を震わせるほど甘く、狂おしいほど愛おしく聞こえた。
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