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5:呼ばれた

「ここが、今回鳥の獣人の王が紹介しようとしている店のようです」 「ここがか」 ターリャは馬車の中から、朝だと言うのにキラキラとしている店を睨んでいた。ここが、Ωを商売道具にしている店だと思うと反吐が出る。 ターリャはΩを商売道具にするなど言語道断とオープンにしているはずだが、どうやら鳥の獣人の王は知らないらしい。 あぁ。この外交の仕事も、弟に任せてしまえばよかった。その方が、この国とも早く縁が切れたのかもしれない。 気性の荒く、ターリャよりも差別を嫌っている弟ならば、鳥の獣人の王にボロクソ言って帰ってきただろう。 「自分も、そんなことが出来たらいいんだが」 「ターリャ様?」 「いや、何でもないヒトラ」 宿に戻ろう。ターリャがそう言おうとした時だ。また声が聞こえた。昨日と同じ声だが、昨日よりも明確にだ。それも、今目の前にあるキラキラとした店からだ。 「ターリャ様?」 「声が聞こえる」 「は?ちょっ、ターリャ様!」 気づけばターリャは馬車を降り、その店の中に入っていく。店先にいたβがターリャを止めようとしたが、αのオーラにβが勝てるわけもなく。ターリャはズンズンと店の奥へと進んでいく。 「っ、これは!狼の獣人様ではないですか」 「お前は?」 「わ、私はこの店の楼主をしている者ですが、」 ペコペコと頭を下げてくる楼主のジロリとターリャは見たが、すぐにフイと視線をそらし歩みを進めた。 「あの、狼の獣人様!その、」 「うるさい」 ピシャリと楼主にターリャが言えば、怯えたように楼主は立ち止まった。そんな楼主のことなどターリャは気にすることなく、声のする方へと歩いていく。 聞こえてくる声に近づく度、それははっきりと聞こえてきて。 “たすけて!!!” そう、ハッキリと聞こえた瞬間、ターリャは走っていた。 そして見つけた。 大柄なβに囲まれた弱いβの男と、その男が守るようにして抱き締めているΩの姿を。 「何をしているんだ」 気づけば、怒りを滲ませた低い声を出していた。そこにいた者の視線がすべてターリャに集まる。 ターリャの姿を見たΩの瞳から、ホロリと涙が零れ落ちた。 あぁ。泣かないでくれ。 涙を流すΩに、ターリャはそう言いたくてたまらなかった。

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