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6:初めてのぬくもり
狼の獣人の登場に、β達は立ちすくんでいた。そんなβを気にすることなく、狼の獣人はイリに近づいてくる。
誰もが、αのオーラに逆らうことが出来なかった。
「大丈夫か?」
狼の獣人の手が、イリの頬をそっと撫でた。フワフワとしているがガチッとした手は、見た目に反してとにかく優しかった。
イリを傷つけないように、瞳からこぼれる涙を拭う。
「俺が来たから、もう泣かなくていいぞ」
未だに少し震えているイリを傷つけないように抱き締めると、狼の獣人はそのままイリを抱き上げた。いきなりのことで驚いて、イリの瞳からこぼれる涙はピタリと止んだ。
涙が止んだイリの姿を見て、狼の獣人はホッと頬を緩ませた。
「じゃあ行こう」
イリを抱き上げた狼の獣人は、ゆっくりとした足取りでその場を後にしようとした。しかし、イリはこの場を離れるわけにはいかなかった。
きっと自分がいなくなれば、残されたβ達の怒りの矛先はライタに行く。それは、イリの望んでいることではない。
降ろしてと、バタバタと狼の獣人の腕の中で暴れる。
「どうした?そんなに暴れて、」
覗き込んでくる狼の獣人をジッと見つめたと思えば、イリはそのまま視線をライタへと向ける。狼の獣人も、イリの視線を辿りライタを見た。
「あぁ。そこのβも一緒に来い」
狼の獣人に言われ、慌てたようにしてライタが駆け寄ってきた。ライタが来たのを確認した狼の獣人は、また歩みを進めた。
店にいる誰もが、何も言わずにイリ達を見ている。そんな視線を気にすることなく、狼の獣人は歩いていた。
「もう、涙は止まったか?」
確認するように、狼の獣人がイリの顔を覗き込んできた。ブルーのキレイな瞳に見つめられて恥ずかしくなったイリは、プイと顔を逸らしながらも頷いた。
「そうか。では、早くこんな場所から出ていこう」
そう言った狼の獣人は、グルルと笑うと少しだけイリを抱きしめる力を強くした。
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