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8:初めての笑顔

「着いたぞ」 優しく声をかけられて、イリはゆっくりと目を覚ました。パチパチと瞬きをすれば、ターリャが愛おしそうに頬を撫でてきた。 こんなに優しく自分に触れてくれる手は、ライタ以外は初めてで。イリは、少し恥ずかしそうに顔をそらした。 「お前は、本当に可愛らしいな」 ターリャにそう言われて、イリは首をかしげた。可愛らしいなど、自分に1番似合わない言葉だからだ。 自分が平凡な見た目をしていることは、イリ自身が1番よく知っている。 もしかしたら、ターリャは目が悪いんじゃないだろうかと心配になってきた。 そう考えているのが表情に出ていたのだろう。ターリャが面白そうに笑った。グルグルと喉を鳴らし、目尻にシワを寄せる。 「何だ。お前は、俺の目が節穴だと言いたいのか?お前のことを可愛らしいと言うから」 ターリャの言葉に、イリはコクリと頷いた。 「ハハッ!生憎だが、俺の視力は人間の倍以上あるぞ。獣人をなめるでない」 それなら、尚更自分のことを可愛らしいと言うのはおかしいはずだ。 そういう意味を込めて、イリがターリャにじっと視線を送れば、やっぱり面白そうに笑われた。イリからすれば、ターリャが笑う理由が全然分からない。なにせ、当たり前のことを言っているのだから。 平凡な自分を可愛らしいと言うのはおかしい、と。 「1つ言っておくがな。どんなにお前が醜くても、俺は可愛いと言い続けるぞ。何せ、一目惚れだからな」 ターリャの言葉にイリがキョトンとすれば、愛おしそうに頬を撫でられた。 「一目見た瞬間から、俺にはお前が輝いて見えた。愛おしく、可愛らしく見えた。だから俺は間違ってなどいないぞ」 初めてだった。他人からそんなことを言われたのは。 前までは、他人に褒められて喜ぶ人らを見て不思議に思っていたが。やっと、喜ぶ理由が分かった気がした。 ターリャに可愛いと言われるだけで、イリの心がポカポカと暖かくなってきて。 「――――――ほら、かわいい」 イリから自然と零れた笑みを、ターリャはただ愛おしそうに見つめた。

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