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10:番

「では、そろそろ中に入ろうか」 イリを抱き上げたまま、ターリャは馬車を降りる。その後をヒトラとライタが追いかける。馬車を降りて、イリは初めて周りの景色を見た。 大きなお城があって、その周りは緑豊かで。イリ達がいた国とははるかに違うものだった。 イリ達がいた国には、こんな緑は無かった。いつもキラキラと人口の光に溢れていて、自然がほとんどないといってもいいほどだ。 「どうしたのだ、イリ。そんなに今から住む城を見つめて」 じっと城を見つめるイリを、ターリャが不思議そうに見ている。しかし、あんまりターリャの気にすることではなかったのか、そそくさとその城の中に入って行く。 ターリャが中に入ると、城の中にいたメイド達が慌てたようにして出迎えた。何せ、ターリャは今日帰ってくる予定ではなかったのだ。 しかし、ターリャは出迎えが遅れたことを怒るような男ではない。 「ただいま。それから、すぐに俺の部屋に医者を寄越してくれ。イリの手当を頼みたい」 「かしこまりました」 「それから、イリと………そこのβ。名前を聞いてなかったな」 クルリとターリャはライタの方を向く。急な出来事で、ライタはピャッと身体を跳ねさた。しかし、すぐに自分の名前をボソリと言う。 「あの、ライタです」 「そうか。では、イリとライタの服の用意も頼む。イリに関しては、俺の番だ。それ相応のものをよろしくな」 ターリャの言葉に、イリは驚いたように目を真ん丸に見開いた。ライタも同じようにだ。しかし、ヒトラも他のメイドも驚いている様子はない。むしろ、そう言われるのが分かっていたような雰囲気だった。 「あ、あの!あ、α様」 イリの気持ちを代弁するかのように、躊躇いがちにライタがターリャに声をかける。 「どうしたライタ。α様ではなく、ターリャでいいぞ」 「えっと、その、ターリャ様。その、あの、イリが番って、えっと、」 「あぁ。今すぐ番にしようとしているわけではない。当たり前のことだが。ただ、俺の番はイリ以外考えていないということだ」 「そ、そういうことなんですか。で、でも」 「なんだ?」 ターリャが何だとライタに問いかけるが、ライタは顔をうつむけてしまう。ギュッと何かを言いたそうにしているが、言わずに耐えているようだった。 「――――――心配するな、ライタ」 「え?」 「俺はもう、イリをあんな目に合わせたりはしない。絶対にだ」 ライタの想いを、ターリャは気づいてくれた。もう、イリにあんな目にあって欲しくないのだ。言われなくても、ターリャは狼の獣人の中でも位は高いのが分かる。こんなお城に住んでいるんだから。 だからこそ、イリがターリャの番になってしまったら、妬まれるんじゃないかと。 「イリ。俺は必ずお前を守る。そして、誰よりも愛してみせる。だから、ゆっくりでいい。俺のことを考えてはくれないか?」 まだ目を丸くして驚いているイリに、ターリャはそっと笑いかけた。

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