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11:王子様
あの後、ターリャに大きな部屋にイリとライタは案内された。どうやら、ターリャの自室らしい。そして、あれよあれよという間にイリは傷の手当をされ、服を着替えさせられた。ライタも、この国の服に身を包んでいた。
「似合っているぞ、イリ」
着替えたイリの姿を見て、ターリャはこれでもかというほど褒め讃えた。ターリャだけではなく、ヒトラもライタも服を用意したメイドも褒めた。
褒められたことがほとんどないイリは、だんだんとそれに耐えられなくなって。終いには、赤くなった顔を隠すようにターリャに抱きついた。
イリから抱きついてきてくれたのが嬉しくて、ターリャの尻尾がブンブンと振れている。
「っ、!!!」
「ターリャ様、顔。顔を気をつけてください」
「っ、どういうことだ」
「ニヤケを隠すために、厳つい顔をするのをやめていただきたい。ほら、ライタが怯えていますよ」
イリが抱きついてきて嬉しい顔を隠すために、ターリャが厳つい顔をしているのを見て、ライタはただ怯えていた。何せ、不気味で怖すぎるのだ。
「だがな、これは無理だ」
そう言って、ターリャはいまだに抱きついたままのイリの背中に腕を回した。
「……………はぁ。ターリャ様。一応この国の王子なのですから、気をつけてください」
「分かっているが、無理なものは無理だ」
「………………おうじ?」
ヒトラの口から出た単語に、ライタがピクリと反応した。そして、同じように反応したイリがパッとターリャから離れる。
イリが離れたことを少し残念に思いながらも、ターリャは離そうとはしない。
「はい。ターリャ様は、狼の獣人族の王子様でございます。次期王になられる方ですよ」
「よろしくな、イリ。そしてライタ」
「おうじ、さま」
「そうだ」
「えらい人?」
「そうだな、ライタ」
位の高い人だとは思っていたが、王子だとは思っていなかった。
「驚いたか?イリ」
そうターリャが聞いてくるが、イリからすれば当たり前だった。なにせ、王子様なのだから。
しかし、それと同時にある物語を思い出していた。たまたま見てしまった、お伽噺。平凡な女の子が、美しい女性になって、王子様と幸せになるお話。
初めてそのお伽噺を読んだ時は、現実には起こらないと思っていたのだけれど。
今、自分自身にそのお伽噺と同じことが起こっている。
「ともかく、これからよろしく頼むな、イリ」
そう言ってイリの手を取ったターリャは、手の甲にキスを落とした。
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