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13:今日からよろしく
「な。言っただろう。この国には、差別するものなどいないと」
部屋に戻り抱き締めてくるターリャの言葉に、イリはコクリと頷いた。この国の人達は、本当にイリ達に優しかった。
国王である赤毛の狼の獣人のジマも、ターリャの弟でもあるシャールも優しく2人に声をかけてくれた。今日から家族だと、暖かく迎えてくれたのだ。
親に捨てられたイリ。唯一の肉親でもある親に捨てられて、もう家族なんて出来ないと思っていたのに。
自分は一生、あの店の中でαやβの暴力に耐え続けるだけの生活をすると思っていたのに。
今日、そんなイリに家族ができたのだ。
「イリ。これからは、幸せになることだけを考えればいい」
しあわせ?
イリは、ターリャの言葉に首をかしげた。
今も充分幸せなのに、これ以上の幸せを望んでいいのだろうか。
そう考え込んだイリが少し不安そうな表情を浮かべると、ターリャが額に優しいキスをする。
「イリ。これが、最上級の幸せだと思うなよ。俺の全てを持って、お前を世界一の幸せ者にしてみせる。なにせ、俺は今1番幸せ者だからな」
どういうこと?
ターリャにしか聞こえないイリの声に、ターリャは笑って答えた。
「愛しい存在に出会えて、今腕に抱いているんだ。イリ。お前がいるだけで、俺は世界一の幸せ者だ」
それは、嘘偽りのないターリャの本心だった。イリがいれば、どんなに窮地の状態であれターリャは幸せなのだ。
愛しい存在が隣にいて、一緒の時間を過ごせるのだから。
「イリはその、どうだ?俺は大丈夫だろうか」
今まで自信満々という感じの雰囲気を醸し出していたターリャだったが、少し不安そうにイリの顔を覗き込んできた。
ターリャのその表情を見て、気付けばイリは笑っていた。
「イリ。何を笑っている」
少しムスッとすると腕の中から身を乗り出して、イリは自分の額をコツリとターリャのそれと合わせた。
きょうからよろしくおねがいします。たーりゃさま
「様はいらないぞ、イリ」
……はい、たーりゃ
ターリャとイリは幸せそうに微笑み合うと、額を擦り合わせた。
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