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20・5:羨ましい
幸せそうに微笑み合うターリャとイリの姿を見ながら、嬉しいと思う反面少しだけ羨ましいとライタは感じていた。
ターリャと幸せになっているイリが羨ましい訳では無い。
αと幸せになれるΩが羨ましく感じたのだ。
Ωだったら、αの子を孕める。それに、番にだってなれる。
番は、一生を約束するための誓いだ。
前までは、Ωが羨ましいなんて思いもしなかった。だってライタ達の国では、Ωは大切にされるべきものではなかった。商売道具にされ、発情期でさえ弄ばれていた。
でも、この国ではとても大切にされている。皆が皆、互いのバースを尊敬しあっている。
だからこそ、自分がβだということをライタは誇りに思うようになったのだが。
「どうした?沈んだ顔をして」
「シャールさま、」
いつの間にかライタの隣に立っていたシャールが、ズイっと顔を覗き込んできた。自分的には笑顔でいたつもりだったが、どうやら表情が沈んでいたらしい。
ダメだ。こんな幸せな時に、こんな顔をしては。
「――――何でもないです、シャール様」
少しだけ切なくなった気持ちを心の奥に隠し、ライタは笑った。これ以上、黒い部分に誰も踏み込んでほしくないからだ。
しかし、シャールがそれに気づかないわけもなく。
「――――――変な顔をするな、ライタ」
「おわっ!」
ギロリと睨みをきかせると、シャールはライタを抱き上げた。急なことに驚いたが、慌てて首にすがり付けばケタケタと笑われた。
「シャール様!」
「うるせぇ。騒ぐなよ」
「だって!」
ライタを抱き上げたシャールは、スタスタと歩いていく。止まってほしくて何度も名前を呼ぶが、シャールが止まるわけもなく。
「ったくよ。何に落ち込んでるか知らないけどな」
“お前は笑ってろ。ライタ。俺はその方が好きだ”
きっと、シャールにはあんまり意味の持たない言葉だろう。好きだと言っているが、きっとみんなにも言っている。
これは、自分だけが言われている言葉ではないはずだ。きっと。
それが分かっているのに。好きと言われて嬉しくて。
どうか。シャールが肩を濡らす涙に気づきませんように。そう願いながら、ライタはシャールに擦り寄った。
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