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第4話
それからは、毎日。
朱音さんは、小生と一緒にいてくれました。
時々、怖い顔をしますが。
小生を見る時は、とても優しい顔をしてくれます。
だから、怖くないです。
怖くないですが。
小生のことが、もしかしたら、本当は鬱陶しいと思っているのではないか。
そう思ってしまいます。
朱音さんは、小生に対する雰囲気と、他の人に対する雰囲気は違います。
とても気になりますが、昔、誰かに聞きました。
人間は、相手によって雰囲気が変わるものだ、と。
だから、朱音さんのは普通です。
普通のはずです。
「葵? どうかしたのかい?」
小生がドキドキしていると、朱音さんは心配そうに声をかけてくれます。
「また酷いことをされたのか……?」
「あ、いや、違います。されていないです」
「それは良かった」
朱音さんは、そう言うと立ち上がります。
「ここ最近は、特に変わったことはないみたいだし。もう安心だね」
「え?」
「葵は、一人でも平気でしょ? 人間と獣人が、いつまでも一緒にいるわけにはいかない」
「ま、待ってください! ぼ、小生 は――!!」
ただ、あなたに傍にいてほしい。
そう思ってはいけませんか?
好きだと感じて、一緒にいてほしいと感じては。
獣人だから、それは許されませんか?
「朱音さん!」
小生が呼ぶと、朱音さんは冷たい目で見ます。
「一緒にいられるわけがないだろ? いい加減にしてくれよ。お守りは、もうやりたくない」
「っ!?」
「じゃあね」
彼の言葉は、胸に突き刺さって。
小生は、痛くて涙が止まりませんでした。
⊿
ハッとし、小生は目を覚まします。
目覚まし時計が鳴る、一時間前。
小生は、つい先程の出来事が夢だったことに安心し、ホッと息を吐きます。
「良かった……」
朱音さんと、友達になったのは昨日。
彼は、小生と同じ大学に通っています。
年齢は三個くらい上で、身長はうんと高いです。
とっても綺麗な赤くて、長い、ポニーテイルで。
かっこよく、鋭い空色の吊り目。
小生とは大違いです。
小生は、銀髪で、赤紫のような色の垂れ目ですから。
朱音さんのような、かっこよさ、小生も欲しいです。
「はーあ」
小生は、大きく伸びをしてから、もう一度寝ます。
そういえば、今日は日曜日ですから、学校はお休みです。
そんな日は、家でのんびり眠るのが一番です。
好きな布団にくるまって、ぬくぬくと感じながら。
ドキドキ感じる、朱音さんのことを思いながら眠ります。
と、眠ろうとすると。
携帯電話が鳴りました。
見ると、朱音さんからです。
「あ、はい!」
小生が返事をすると、彼はクスッと笑います。
「ごめん、寝てた?」
「えっと、これから二度寝をしようかな、と思っていました」
「そうなんだ。悪いね」
「い、いえ」
ドキドキが止まりません。
このドキドキが、きっと、彼に伝わっているとしたら。
彼に、伝わってしまっているなら。
どうすれば良いのでしょうか。
「ど、どうかしましたか?」
「大したことじゃないんだけど。葵は、今、年齢は二十歳を超えているかい?」
「ええ、超えています」
「お酒は?」
「日本酒なら飲めます。あと麦焼酎です」
「良かった。先日、知り合いから貰ったお酒があってね。量が多くて困っていたんだ。良かったら、一緒にどう?」
「良いんですか?」
「良いんだよ。君と飲みたくて、取っておいた、というのもある」
「嬉しいです! あ、えっと、でも、場所は……?」
「駅で集合して、それから僕の家へ、というのはどうかな?」
「あ、朱音さんの……? でも、あの、弟さんが……」
「あー、そうか。じゃあ、葵の家は?」
「良いですよ」
「ん。じゃあ、夕方の四時に駅前ね」
「わかりました!」
失礼します、と小生は電話を切りました。
とてもドキドキします。
楽しみです、友達とお酒。
いつもは、一人で飲んでいたりしますから。
友達と。
朱音さんと。
二人で飲む、というのはどういうことでしょうか。
きっと、朱音さんは普通なんです。
だから、意識しないようにしよう、と思いました。
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