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第5話
夕方前の三時。
小生は目を覚まし、家を少し掃除しました。
元々掃除をしていたから、そこまでしなくても平気です。
が。
小生は、あることに気づいてしまいました。
そろそろ夏毛になる頃です。
掃除をして、綺麗にしても。
小生の髪が、生え変わりで、抜けてしまい、すぐに汚れてしまいます。
「う……」
汚い、と言われて、嫌われてしまうかもしれません。
朱音さんに、嫌われたら、小生はとても悲しいです。
だから、何としてでも綺麗にしなければいけません。
小生は気合を入れ、約束の時間に間に合うまで、掃除をしました。
⊿
夕方の四時。
小生は駅前にいました。
朱音さんは、少し遅れているみたいです。
――はあ、緊張する。
ドキドキしながら、小生はパーカーのフードを深く被り、息を吐きます。
人がいるところで、一人、誰かを待つなんてしたことがありませんでした。
また、初めてです。
朱音さんは、小生にたくさん初めての経験をくれます。
それが、とても嬉しくて。
好きだな、て思います。
好きという言葉では足りません。
大好きでも足りません。
「こんな気持ちは、どう言うんでしょうか……」
朱音さんは、まだでしょうか。
フードを少し外して、周りを見てみますが、彼はまだ現れません。
はあ、とため息を吐き、フードをまた深く被ろうとすると。
誰かに、腕を掴まれました。
痛くて、振りほどこうとします。
が、上手くできません。
「こんなとこで会うなんてなあ、獣人」
その声を聞き、小生はビクッとします。
朱音さんに、とてもよく似ています。
が、違う、別人です。
その人は、朱音さんの弟さんの朱里さんです。
朱音さんとは違って、とても怖い人です。
「兄さんが出掛けるから、何かと思ったら。君は、兄さんとどういう関係なの?」
朱里さんは、とても怖い顔で、声で言います。
「怯えているだけ? ふーん。つまんねえ」
「……あ、朱音さんとは、友達です。昨日、友達になってくれたんです」
「友達? は? 笑わせんなよ」
朱里さんは、そう言うと、小生を思いっきり殴ります。
「んな訳ねえだろ! クソが!」
「痛っ、やめて! やめてください!」
「っ! その……、被害者面しているのが、気に食わねえんだ!」
朱里さんは、小生を押し倒します。
地面に、小生は頭をぶつけて、とても痛くて、涙が出ました。
「君は! 被害者ではない! 加害者だ!」
朱里さんの言葉に、小生は心当たりがありません。
全くありません。
だけど、もしかしたら、小生は何かをしてしまったのかもしれません。
「聞いてるのか? 何か言ってみろよ!」
朱里さんは、小生の胸ぐらを掴み、殴ります。
痛い。
悲しい。
わからない。
そう言いたくても、小生にはそんな力が残っていません。
このまま、死んでしまうのかもしれません。
それなら、それで、仕方がないのかもしれません。
最後に、朱音さんに会いたかったです。
好きだ、と伝えたかったです。
「あ……かね……さ……」
どこかで、助けに来てくれると思っていました。
でも、そんなことはありませんでした。
――好きです、朱音さん。
小生が目を閉じると、朱里さんの口から、声から小生の名前が聞こえました。
あれ……?
小生、名前を言ったっけ……?
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