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第6話

 気がつくと、小生は家にいました。  隣には、なぜか朱音さんがいました。 「あ……か……ね…………さん?」  小生が言うと、朱音さんは嬉しそうに笑います。 「目を覚ましてくれて良かった」 「……あの、朱音さん、どうして?」 「僕が君へのプレゼントを選んでいる間に、弟が失礼した」 「……どうして、家がわかったんですか? どうして、もっと早く助けてくれなかったんですか?」  どうして?  小生は、助けてほしかったんです。  プレゼントは要りません。  それより、約束を守ってほしかったです。 「いつも、そうです! そうでした! 朱音さんは、まるで、全部見ていたかのように! 遅れて来ます! 小生が、傷だらけになってからです!」  どうして……。  小生は、あなたに何か悪いことをしましたか?  出会ったのは、ついこの間でしょう? 「朱音さんは、何が目的なんですか……。怖いです。朱里さんが、小生(ボク)の名前を知っていることも、怖いです! どうして、タイミング良く、彼が現れたんですか!?」 「………………」 「怖いです……。朱音さんを、疑っている自分が……」  本当は、最初から。  全部、仕組まれていたことなのではないか、と。  そう思ってしまう自分が嫌です。 「教えてください、あなたは誰なんですか……? 何なんですか……?」  小生が訊くと、朱音さんはため息を吐きます。 「良いよ、もう。話すから」  そう言って、朱音さんは小生を見て、笑いました。 ⊿ 「まず、朱里なんて弟は存在しない。現実にはね」  朱音さんは、静かに言いました。  小生の目を見て。  その目は、何かに怯えているように見えました。  小生が、驚いていると。  朱音さんは、少し困った顔をして「葵には、難しいかな」と言います。 「朱里は、現実には存在しない。しないはずだけど、なぜかいつも僕の近くにいて、僕に対して過保護なんだ」 「よくわかりません……」 「僕にもわからない。ただ、僕は葵のことはとても大切に思っている、ということは解っていてほしい」 「………………」 「ごめん……」 「ち、違います。あの、謝ってほしいんじゃないんです」  それを言われて、小生はどうすれば良いのか。  何をしたら、朱音さんのためになるのか、わからなかったから、困ってしまっただけです。  謝ってほしいわけじゃないです。 「ぼ、小生(ボク)は、朱音さんのために、どうしたら良いでしょうか……」 「え?」 「……初めてできた友達です。そうではなくても、大切だな、て思う人のために、何かしたいって思うのは、おかしいことですか……?」 「い、いや、違うんだ。驚いてしまっただけで……」 「え?」 「……そう言ってもらえたのは、初めてだったから」  朱音さんは、嬉しそうに笑い、小生を見ます。 「じゃあ、その言葉に甘えようかな」 「はいっ」 「ずっと、僕の傍にいてくれないか?」 「? それは、友達だから、大切だから、当たり前ではないんですか?」 「っ! そう、だね」 「?」 「……葵は、知らないかもしれないけどね。人は、すぐにいなくなってしまうものなんだ。自分と違う。自分の周りと違う。それだけで、それを悪とし、排除しようとするんだよ」 「…………」 「葵が獣人だから、ということで酷いことされていたことと同じ。僕も周りと違うから、ということで――」  その次の言葉を、小生は聞きたくありませんでした。  だから、小生は朱音さんを抱きしめました。  でも、それから何という言葉をかけることが良いのか、判りませんでした。

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