7 / 21
第7話
――こういうとき、どんな言葉を言うんだろう。
考えていると、朱音さんが「ありがとう」と、小生を抱きしめてくれました。
とっても優しく。
「あ、えっと……」
小生が言葉を探そうとすると、朱音さんは「良いんだ」と言います。
「何も言わなくて良いんだ」
「…………」
「ありがとう」
今にも消えてしまいそうな声で、朱音さんは小生に言います。
「好きだよ」
「え……」
「ずっと前から、好きだったんだ」
「でも、小生 は、人ではありません……」
「関係ない」
「オメガです……」
「関係ないよ」
朱音さんは、少し離れて、小生をじっと見ます。
「そんなこと関係ない。僕は、葵、君だから好きになったんだ。君だから愛しているんだよ」
「っ」
「葵、好きだ。大好きだよ。ずっと、君と一緒にいたい。君を傷つけるものから、君を守るから」
「…………嬉しいです」
嬉しいです。
本当に、とても嬉しいです。
信じられないくらい、嬉しいです。
夢でしょうか、これは。
「小生 ……、朱音さんのことになると、ドキドキします……。心の奥が、熱くて、苦しくなります。とっても大切だ、と思います……」
「っ! な、なら――」
「だから、信じられません」
こんな夢なら。
早く覚めてほしいです。
夢の中だけ、こんなに幸せっていうのは、悲しいじゃないですか。
辛いです。
「ごめんなさい」
「…………」
「朱音さんの言葉は、とても嬉しいです。嬉しいから、です」
小生は、そう言って、朱音さんから離れます。
が。
ぐいっと腕を引っ張られて、押し倒されてしまいました。
「え……?」
小生の上に、朱音さんが覆いかぶさります。
「嘘じゃない。僕は、君だけを見ていた」
「…………」
「君だけしか見ていない。ずっと」
「あ、朱音さん、怖い、です」
「葵、君は忘れているかもしれない。だから、言うけど。君に、葵という名前をつけたのは、この僕だ」
朱音さんは、怖い顔をしながら、小生を見下ろします。
小生は、ガタガタと震え、朱音さんに対し、恐怖心を抱きました。
⊿
「どういう……ことですか……?」
震えながら、朱音さんに訊きます。
小生の名前は、両親がつけてくれた名前のはずです。
名前は、そういうものでしょう?
「小生 と、朱音さんは……、ついこの間、出会ったばかりです……よね?」
「…………」
「小生 は……、あなたに出会っていたんですか? 昔に」
「……はあ」
朱音さんは、深くため息を吐きます。
「本当に忘れているんだ、葵。思い出してほしいよ、ちゃんと」
「え」
「どうしたら、思い出せる? 葵」
朱音さんは、小生の腕を左手で押さえます。
それが、怖くて。
でも、抵抗はできません。
「怖がらないで、葵。これで、思い出せるかもしれないだろう?」
「ぃ、ぃゃ……」
「嫌がらないで、葵」
怖くないよ、と朱音さんは、小生にキスをします。
「僕から、もう逃げないでね」
「っ」
離れたいです。
怖くて、恐くて、逃げ出したいです。
だけど、朱音さんの長い舌が、小生の舌を絡めて、放してくれません。
「ぅ、ん」
嫌です。
怖いです。
小生は、怖くて目を瞑ります。
だけど、朱音さんは「僕を見て」と言います。
「僕を見ろよ、葵」
低くて、怖い声で、朱音さんは、言います。
「この僕を見ろ!」
「ひっ」
「お前の唯一の友達だよ? 僕は!」
「ち、違いますっ! 朱音さん、は、怖い人ではありません! 違います! 嫌です! やめてください!」
「っ、うるさいなあ!」
黙れ、と朱音さんは、朱音さんによく似る男は、小生の口を手で押さえます。
「印象良くしようって、無駄に演技したのが悪かったな。慣れねえことはするもんじゃねえよ」
「っ」
「折角だから、教えてやるよ。葵」
男は、ニヤリと笑って、小生に言います。
「今までのは、全部嘘だ」
ともだちにシェアしよう!