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第11話

 翌日。  夕方四時。  今頃、朱音さんは同窓会でしょうか。  小生には、あまり縁がないものです。  帰ってきたら、どんなものなのか聞いてみよう。  そう思いながら、家で過ごしていました。  いつも通りご飯を食べ、ぼんやりと過ごしていると。  急にお腹に違和感を感じました。  昨日、たくさんヤったからでしょうか。  と、思っていると、今度は吐き気を感じました。 「何……?」  小生は、小生に何が起きているのかわかりません。  とりあえず、お医者様に行くことにしました。  が。  あまりにも気分が悪く、動けそうにありませんでした。  だから、救急車を呼びました。  少しして、救急車が来て、小生を運び出しました。 ⊿  行き先は、幼い頃からお世話になっているお医者様のところです。  医院に着くと、お医者様が心配そうに小生のところに来ます。 「気分が悪いって、どうした? 何か食べたかい?」  お医者様の問いに、小生は首を横に振ります。 「けど……、おクスリ……、やられました……」 「クスリ?」 「発情……催促…………」 「何だと……!?」  お医者様は驚き、そして、怒って、呆れてしまいました。  ため息を吐き、お医者様は言います。 「あれは、無理矢理発情させる薬だからね。君のように、身体が弱い子には、やってはいけないものなんだよ」 「ぇ……?」 「それに、ただ発情させるんじゃあない。診てみないと判らないが、妊娠の可能性もある」 「…………」 「覚悟しておいた方が良い。ただでさえ、獣人のオメガは妊娠しやすいのに……」  お医者様の言葉に、小生は言葉を失いました。  妊娠。  それは、子供が出来ること……です。  朱音さんとの……子供…………。 「怖い…………」  何かがとても怖いと感じました。  朱音さんは、そのこと、知っていたのでしょうか。  何も知らないで、だったら。  小生は、どう言えば良いのでしょうか。  何もわからなくて、ただ怖かったです。 ⊿  診断の結果は、妊娠でした。  たった一日で判ることなのか、と疑問に思い、訊いてみると。  そこが、人間と獣人の違いだそうで。  獣人は、人間よりも早く成長し、早く成長が止まり、長く生き続けるそうで。  それは、胎児の頃から、そういうものらしいです。 「良い? ストレスには気をつけるんだよ? 発情催促剤による発情期によっての妊娠は、私は初めてだし。前例なんてない。何が起きるか判らないんだ」 「わかりました……」 「相手には、ちゃんと言うんだよ。本当なら、ここに来てもらいたいんだけどね」 「…………はい」 「…………」  はあ、とお医者様はため息を吐きます。 「何かあったら、すぐに連絡してくれよ」 「はい……」  小生は返事をし、礼をし、診察室から出ました。  支払いをしよう、とすると。  お医者様が、首を横に振りました。 「え? どうして?」  小生が訊くと、お医者様は「被害者から金は取らん」と言います。 「望んで、ということではないだろ? 子供を望むなら、事前に色々話があるはずだ。それがないから、無理矢理だったか。徐々にだったかだ」 「…………」 「悪いのは、君に一服盛ったやつ。君と君の子は悪くなんかない」  じゃあ、とお医者様は言いました。  ありがとうございます、と小生は深くお辞儀をしました。 ⊿  その帰り道です。  日が落ちてきた、午後六時。  家の近くの公園で、朱音さんを見かけました。  きっと、同窓会が早く終わり、帰ってきてくれたのでしょう。  小生は、早速、妊娠の話をしようと思いました。  朱音さんの近くに行き、声をかけようとしましたが。  彼の隣には、とても綺麗な女の人がいました。  二人は、とても仲良さそうに話しています。  会話は聞き取れませんが。  二人の指と指は絡まり、近くのベンチに腰をかけます。  ゆっくりと、二人の距離は縮まり。  二人は。  朱音さんと、その知らない女の人は。  身体を重ねました。 「っ!」  小生は、驚き、そして、何か別の真っ黒な感情に押しつぶされてしまいそうになりました。  慌てて、その場から離れ、家に向かって走りました。

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