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6 months 前編

早いものでウェルを引き取ってから半年もの時間が過ぎていた。 「ウェル、しっかりと体を洗え」 「うん!」 「その後は、肩まで湯船に浸かったら、ウサギの宝石屋さんの歌を一緒に歌ってから出るぞ」 「あいっ!」 長い髪を洗い終わり、頭頂部でお団子にしたウェルが立派な返事をして湯船に飛び込む。 邸宅に造られた風呂は大人が悠に五人ほどは入れる広さだ。 溺れないように、段差の所に座ったウェルは俺の言いつけを守って、帝都で流行りの歌を口ずさむ。 しっかりと温まったあと、俺とウェルは風呂を出ると横に並びタオルを手に持った。 そしてまるで息を合わせたかのように背中、腹、腕、足を拭き──徐に俺達は互いを見た。 「……ふっ。なかなか様になってきたな」 「ウェル、きれいきれい一人でね、できるよ」 「まだ甘いがな! この俺様のように手早く、一人で、服を着れるようになってから、偉そうなことを言え!」 「──っ!」 ウェルが見ている前で、片手でぱっと服を着る。 実はこれ、魔法である。自力で着るのが面倒なのもあるが、最近のウェルは何かと「一人でね、できるよっ!」と五月蝿くて自慢したがりだ。 ここらで調子に乗っているウェルをぎゃふんと言わせるために俺は魔法を使った。 ウェルが口と瞳を大きく開き背後に「ガーン」と文字が浮かび上がりそうなほど驚愕し、衝撃を受けている。 俺は悠然と微笑み、腹の底ではくつくつと笑っていた。 子供は子供らしく甘えていればいいんだ。 「ラン様すっかりと溺愛していますね」 「なんのことだ?」 「ウェルのことですよ」 「からかって楽しんでいるだけだ。馬鹿なことを言うな」 「ウェルが一人でやりたがるから拗ねているそうではないですか。ウェルは貴方に褒めて欲しくて一人で挑戦しているのですよ、大人になってください」 「っ、だからなんの事だ!」 バンッと机を叩き、思わず腰が浮かびかける。 ぐっと堪えて座り直すと、忌々しいシュアを睨めつけた。 「そんなことよりシュア。例のものはどうだ」 「本日の夕刻に商人が屋敷へと来るようです」 「そうか。では、お前が選べ」 「おや、いいんですか? 後から文句を言われても受け付けませんからね」 いちいち癇に障る男だ。 シュアはわざとらしく眉を上げて、慇懃無礼にお辞儀をする。 俺はそんなシュアの揶揄いを無視すると、羽根ペンを羊皮紙に走らせた。 ウェルと生活を送るのは吝かではない。だが、ここ最近の宮廷ではこの俺があの子供を溺愛しているだの、父親のようだのと好き勝手に噂されているらしい。 ウェルの面倒を見るのは責任があるからだ。 陛下に任されたのだから最後まで面倒を見るのが道理だろう。 何よりもウェルに問題がある。 未だに俺や俺の周りの大人以外は恐怖の対象らしく、外に連れていく時はベッタリとくっついていて離れない。 胸元に顔を埋めて絶対に周りを見ないのだ。 誰かが善意で声をかけたとしても、ウェルは尻尾を逆立て「ゔゔーっ! やっ」と威嚇してしまう。 これもまたゆっくりと慣れていくしかない。 ウェルに拒絶されているというのに、貴族達が集う定例会議に一度連れて行ってからというもののウェルは貴族に人気だ。 「いつか宰相様のように甘えてもらえるのが目標ですぞ」なんてことを言っていたな。 だからこれは教育であり、仕方なく一緒に居るということだ。そもそも冷酷無比だと恐れられている俺が、子供にデレデレしているだなんて外聞が悪いだろう。 咳払いをしてそう言った俺に、シュアはニヤニヤと腹の立つ微笑みで返したのだった。

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