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サリヴァン家の兄弟

次の日、ディエゴに言われていた通り朝食の後二人で街におり少し買い物をした。植物のことはあまり詳しくないと言うミケルにディエゴは色々と親切に教えてくれた。荒らさなければいいとはいえ、何もしないわけにもいかない。出入りも自由で仕事も楽ときたら、間違いなく退屈な毎日になるだろう。知識をつけるために本も買い、短い時間ながらミケルは出来る限りディエゴから庭のことを学んだ。 庭に戻ってからも二人で話をしながら庭園を回る。よく見ると草木や花の他に、美味しそうな果実も沢山実っていた。たまに屋敷の者がベリーなどを採りに来たり、休憩をしに訪れるということも教えてもらった。 「向こうの人間がこっちに来ることがあっても、こっちが屋敷に行くことはまず無いからな。気楽でいいだろ?」 「そうですね……ちょっと体がなまってしまいそうで心配ですが」 ミケルがそう言うと「そっか、若い奴にはしんどいか」とディエゴは笑った。 少しして屋敷から使用人を取り纏めているという執事が顔を出し、ミケルの若い容姿を見て驚きながらも正式にここで働くことを許可してくれた。屋敷にはここの主人と息子が二人、長男は少し体が不自由だからあまり外出はしないが詮索はしないようにと釘を刺された。詮索しようにもこちらから屋敷に出向く事がないのなら会うこともないだろう、とミケルは執事の話を適当に聞いていた。 「あの……そういえば街に到着してすぐ、露店の店主が 呪われた領主様なんて根も葉もない噂だ と言っていたんですが、初耳だったんでちょっと、その……驚いてしまって」 執事が屋敷へ戻りディエゴと二人きりになったのを見計らって、ミケルは思い切って聞いてみた。もしかしたら怒られるかもしれないと構えたけど、ディエゴは笑いながら説明をしてくれた。 「ああ、それな。さっきも言っていた通り、ご長男のエイデン様はちょっとばかり体が不自由なのさ。それも生まれつきじゃなくて突然な、目が見えなくなっちまったんだと…… つい最近、そうさね……ここ一年、二年ってところか。街の奴らはほら、噂とか好きだろ? 急に目が見えなくなったってんで色々臆測が飛び交って「呪われた」ってなったんだろ。お前さんもそういう噂話とか好きなんか?」 「いえ……噂話ってのはどんどん膨らんで大きくなって広がりますから。それが正しいとも限らない……でも実際はどうなのかなって」 二人の御子息はミケルと同じ年頃だとも教えてもらった。長男のエイデンと、弟のレノ。そして一人っ子だった体の弱いエイデンの弟に、と養子に貰ったのが弟のレノだということも……目が見えなくなって回復の兆しのない兄に代わり、弟のレノが父親に目を掛けられるようになったとも教えてもらった。 「義兄弟って言ったって本当の兄弟みたいに仲はいいぞ。レノ様がエイデン様にえらく懐いててな……渾身的に身の回りの世話をやいているって話だ」 「そうだったんですか…… でも突然目が見えなくなるって、エイデン様……どんなお気持ちなんだろう」 今まで見えていた世界が突然闇に包まれるなんて…… ミケルはこれほど恐ろしいことはないと、まだ見ぬエイデンに想いを馳せた。 「まあ、あんま詮索すんじゃねえよ? ……って言ったって、ご本人様がここに来ることもねえけどな」 ディエゴは笑ってそう言うと「そろそろ晩飯の時間にするか」と腰を上げた。

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