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見送り

「レノ様……そろそろお時間……」 寝ているレノの側に寄りそっと声をかける。眠りが浅かったのかすぐにパチリと目を開けたレノはミケルをジッと見つめた。やはりその視線に耐えられず目を逸らすミケルにレノは黙って両手を差し出した。 「………… 」 「……早く。起こして」 悪戯っぽく笑うレノに対してミケルはどうしたら良いのかわからない。両手をこちらに出しているし横になったまま「起こして」と言っているのだからそういう事なのだろうと察しはつくのに、どうしても体が言うことを聞いてくれなかった。 「もう! そんな怯えるなよ」 痺れを切らし、レノは自らミケルの手を取り強引に抱きついて来た。慌てて体を起こしてやると「いきなり取って食おうなんざ思わないから心配するな」と耳元で囁かれ、またその耳に掛かる吐息に言葉が詰まり、全身に緊張が走ってしまった。 「じゃ、ジイさんによろしくな」 そう言ってレノは小屋の扉を開ける。ミケルは「送ります!」と慌てて上着を羽織るが「大丈夫だ、構うな」と言われてしまいそのまま扉の前で立ち尽くしてしまった。 レノが出ていった途端、ミケルは腰が抜けたようにその場にへたり込んでしまう。 「やっぱり……わかってるんだ」 自分がΩだということがレノには勘付かれている。来て早々、もう次の職を探さないといけなくなるとは想定外で、否応にも気分が落ちた。 それにしてもどうして勘付かれてしまったのだろう。ディエゴや屋敷の執事には気付かれなかったはず.……体質が変わってしまい、余計なフェロモンが漏れ出てしまっていたのか、それともレノのα性が他の同種より優れていてバレてしまったのか。後者ならしょうがないと思うだけだが、前者だった場合抑制剤を少し強いものに変えなければならず病院に行く必要も出てくるので面倒だった。 「はあ……参ったな。でも、とりあえず様子見……だな」 ミケルは一人になりやっと動悸も治り深呼吸する。なんとなく先程までレノが寝ていた布団の中に入るのは気が引けた。それでも入ってしまえば仄かに残るレノの香りに心地よさを感じ、複雑な気分で眠りについた。 翌朝ディエゴに起こされミケルは起床する。 「昨晩はさっさと寝ちまって悪かったな。後片付けもありがとよ。レノ様はあれからすぐ帰られたか? あんま遅くなっちまっても心配かけちまうから……」 ミケルはレノは三十分ばかり仮眠してから一人で屋敷に戻ったと伝え、自分が送ろうとしたら断られてしまったことも説明した。 「ああ、レノ様はそういう人さね。気にすんな……あ、起きて早々悪いんだけどよ、俺はそろそろ出るから……これからはお前さん一人だけど、頑張れよ」 ミケルは急いで身なりを整え、ディエゴと一緒に通用口まで向かった。 見送りは先日挨拶に来た執事とミケルの二人だけの寂しいもの。それでもディエゴは二人と屋敷に向かって深々と頭を下げ一人故郷へと帰っていった。 一日二日しか一緒に過ごしていないものの、ミケルにとっても他人と共に過ごすのは滅多にないこともあり、この別れはとても寂しく感じ、思わず目頭が熱くなってしまった。

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