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エイデン

ディエゴが去り数日が経った── 一人での庭の管理もだいぶ慣れ、一日の過ごし方も定着してきた。やはり最初に思った通り、庭の手入れや勉強などをしていないと退屈でどうにかなりそうな程、この場所は静かで穏やかだった。 朝、自然に目が覚めた時間に起床し朝食を済ませる。のんびりと小屋の掃除をし、散歩がてら庭を見て植物の勉強をした。適当で大丈夫だとディエゴは言っていたけど、この庭を見る限りきちんと管理され綺麗な状態が保たれている。ミケルはそれを崩してしまう事はどうしても出来ないと思い、一生懸命勉強をし毎日植物の世話をしていた。 この日は少し肌寒かった。 昨晩は雨が降っており、生い茂る草木に付いた雫が朝日を浴びてキラキラしていた。 ミケルは雨上がりが好きだ。花や葉に残る雫が光に反射し綺麗なのも勿論、地面から僅かに香る雨の匂いが好きだった。これは何処にいても同じ匂い。 「……あれ?」 庭園の一番奥。いつも座って一休みをし読書をするミケルのお気に入りの場所。その場所の方からいつもと違った匂いがした。 ミケルが近付くにつれ、気配はどんどん強くなる。そして目の前に見えたのは、ベンチに腰掛け遠くを見つめているひとりの男の姿だった。 レノと同じくらいの歳の頃だろうか。肩にかかる長めの髪。でも健康的な褐色肌のレノとは逆で肌は白く、白金にも見える綺麗なプラチナ色の髪は風に揺れてキラキラしていた。ミケルは彼の美しい佇まいに一瞬にして目を奪われる。思わずその場で見惚れていると、その男はゆっくりとミケルの方に顔を向けた。 「誰かそこにいるのかい?」 思いがけず声をかけられ慌てたミケルは、一歩後ろに下がってしまった。でも一歩引いてしまったのは驚いたからだけじゃない。初めてレノを見た時と同じ、僅かな悪寒……威圧感のようなものを感じてしまったから。 「もしかして……ミケル?」 男はこちらを見ているようで見ていなかった。ミケルはじっとその男を見ても目が合わないことに違和感を覚え、すぐに目が見えていないのだと気がついた。 「はい。あの……もしかしてエイデン様で?」 恐る恐るそう聞くと、男の顔がパッと明るくなった。これ以上ないくらい嬉しそうに「そうだ!」と返事をすると、そのまま立ち上がり歩き出そうと足を出した。ミケルはそれを見て慌てて駆け寄り体を支えた。 エイデンは目が不自由だと聞いていた。何故、どうやってこの場所に来たのかもわからない。誰か御付きの人間が一緒だったのだろうか? それなら今エイデンは何故一人でここに残されているのだろう? ミケルにとってはわからないことだらけで混乱する。思わず駆け寄りエイデンの体に触れてしまったけど、失礼だったのではないかと不安になった。でも目の前で転ばれても困る。怪我でもされても自分には責任が取れない。様々な事を頭の中で目まぐるしく考え、自分のしたことは間違ってない……とミケルは無理やり結論付けた。 「急にびっくりした……ミケル?」 「あっ! 失礼いたしました! いや、だって……」 ミケルの慌てようにエイデンはクスクスと笑う。 慌てているわりにミケルはエイデンから離れようとしない上に、それでも体に触れていることが失礼にあたるのではと遠慮気味に支えているのが面白かったらしく、わざと体を寄せてきてミケルを困惑させ揶揄った。 「大丈夫だよ? 実はね、ここ最近見えるんだ。あ……見えると言っても正確には光を感じる程度だけど。でもミケルが思ってる以上に僕はちゃんと見えているから安心して」 そう言いながらエイデンはまたベンチに腰掛け、ミケルも隣に座るようにと掌で座面を叩いた。

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