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もう会いたい
「君の話はレノから聞いてるんだ」
エイデンはミケルがこの屋敷にきてからというもの、早く会いたくてそわそわしていたと嬉しそうに話した。ディエゴが屋敷から去る日はレノと一緒に挨拶に来る予定だったのが、急な発熱で行けなくなってしまいとても残念だったと寂しそうに言った。
目が不自由だからだろうか? 隣に座るエイデンの距離が近くてミケルは落ち着かない。風に揺れるエイデンの髪が時折頬に触れ、ほのかに香る甘い匂いにドキドキした。レノの時と同様、話してみれば最初に感じた威圧感は無く、こうやって同じ時を過ごしていることに喜びを感じ嬉しく思う。ミケルは今まで孤独に生きてきたと言いつつも、仕事を通して他人と接することも多々あった。それでもここまでの喜びを感じるなんてことはなく、これは相手がα性が故のΩの本質なのかもしれないと、なんとなくそう思った。
「仕事の邪魔をしてしまったね」
一頻り喋ったあと、そう言ってエイデンはベンチから立ち上がる。仕事も何も、散歩がてら植物の様子を見ていただけで何も邪魔されたとは思っていない。寧ろもっとエイデンと一緒にいたかったしもっと話を聞きたかった。
「そんな事はございません。エイデン様とお話ができて嬉しかったです」
ミケルは立ち上がるエイデンに手を差し出そうとするものの、助けが必要かどうか判断しかねてしまい戸惑う。側に寄り添いながらもあたふたとしているミケルにエイデンはまた揶揄うように笑い、そっとその腕を取り自分に引き寄せた。
「ミケルは優しいね……さっきも言った通り、ここにもよく通っていたし見えていなくても不思議とちゃんとわかるんだよ。でもまだミケルと一緒にいたいから……そうだ、屋敷の入り口まで僕を送ってくれるかい?」
ミケルより少しだけ背の高いエイデンは覗き込むようにしてそう言った。甘い吐息が顔にかかった瞬間ミケルは全身の毛が逆立つような感覚に一瞬体が強張ってしまった。
「も、勿論です。えっと……お体には触れても……?」
「うんありがとう。支えてくれる?」
自分より背の高いエイデン。それでも大きめの着物から覗く手首や首元、手を回した腰周りがとても華奢でちょっとでも力を入れたら壊れてしまいそうで怖くなる。
それにしても、本当に目が見えていないのだろうか? そう思ってしまうほどエイデンの足の運びはしっかりとしていた。
「凄いね。ミケルが側にいるって思うだけで不思議と全然怖くない。こんな気持ちになったのは久しぶりだよ。心なしか光も大きくなったような気がする……」
終始機嫌よく話していたエイデンは、屋敷の前まで来るとミケルの手をぎゅっと握り「ありがとう」と笑顔を見せ、帰っていった。
必要だったとはいえ、こんなにミケルが他人に触れたり触れられたりするのは初めてだった。
ぼんやりとミケルは自分の小屋まで戻り椅子に座る。エイデンと別れてまだ数分しか経っていないのに、もう会いたくてしょうがなかった。
こんな楽しい気持ちになったのも初めてで、どうしようもなく頬が緩んでしまうミケルは、適当に庭の手入れを済ませて早々に寝床についた。
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