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発情期
次の日もエイデンはベンチに一人座っていた。
また次の日も、また次も……殆ど毎日、ミケルは一日のほんの少しの時間をエイデンと共に過ごした。
ミケルはエイデンと過ごすこの時間が楽しみになった。他愛ない話も勿論だし、これといって会話がなくても不思議と気まずさも無い。ただエイデンと同じ空間、同じ時間を過ごせるだけでこの上なく幸せだった。
ミケルがこの屋敷に来て二度目の発情期──
いつものように薬を飲み早めに休む。ベッドに横になり、窓に当たる風の音に耳をすます。野生の勘のようなものが働き、何故だかこの夜は落ち着かなかった。
「今夜は荒れそうだな……」
窓を打つ風の音が激しくなる。落ち着かないのはこの天候のせいかと思いながら、ミケルは一旦起き上がりミルクを温めた。温めたミルクから上る甘い匂いに心を落ち着かせる。不安な気持ちを誤魔化すようにカップを両手で持ちひと口啜った。
突然部屋の中に冷たい風が入り込む。ぎゅっと心臓を掴まれたような感覚に陥り思わずカップを落としてしまった。
「レ……ノ様?」
振り返った先にいたのはレノだった。レノは真直ぐにミケルに向かって歩いてくる。ミケルは理由もわからぬ恐怖で動けない。言葉も上手く紡げない。自分に向かってくるレノをただ見ていることしかできないでいた。
「やっぱりだ……お前、Ωだろ?」
目の前まで来たレノは、足元に落ちたカップを拾い上げるとテーブルに置きミケルの頬を撫でた。
「匂うんだよ……違うか?」
「………… 」
「言え!」
ミケルの頬に一筋涙が落ちる。今までαの人間と対峙したことも無いわけではないのに、ここまで体が竦んでしまって怖いと感じたことはなかった。格が違うのは一目瞭然。もう誤魔化せないと諦め、ミケルは小さく頷いた。
「申し訳ございません……レノ様、私から離れてください……今、発情期中 で……その、匂うのは……そのせいかと……」
抑制剤を飲んでいるとはいえ、レノには匂いがわかってしまっている。自分のフェロモンが強くなっているのか、薬が効いていないのかはわからない。でもこのままαのレノが自分の側にいたら匂いにあてられてしまうのではないかと気持ちが焦った。
「はっ? お前は俺の心配をしているのか? ナメんな! お前如きのフェロモンで俺がどうにかなるとでも? 俺をそこらのαと一緒にされちゃ困る」
レノは怯えるミケルの顎を掴むとずいっと顔を近づける。
「フェロモンにあてられるのはαだけと思うなよ」
レノがそう言ったと同時に、ミケルは爪先から頭のてっぺんまで一気に何かが溢れ出す感覚に襲われた。
「あ……ああ……や……やだ」
足に力が入らない。全身が火照り息が上がる。自分の意に反し、猛烈に体が疼き目の前のレノが欲しくて堪らなくなった。
フェロモンにあてられるのはαだけじゃない。Ωもまたα独自のフェロモンにあてられ発情 が促進される事がある。今まで抑制剤がよく効いていたこともあり、自身の発情に慣れていないミケルはあっという間にレノの腕の中に抱かれてしまった。
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