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過去の話 前編
家の前に、警察の名称が書かれた黒いラゲッジボックスを乗せたカブと自転車が数台停まっている。
玄関扉は開いており、中に向かって「ただいま」と震える声で呼びかけた。
「いつか、幸宏が……死んじゃった…」
事情を聞いているのだろう警察官の前で、父に肩を抱かれながら、母がオレに伝えた。
「嘘だろ…?なんで…」
喉の奥から胸の辺りまで締め付けられるような感覚に、言葉を発するどころか、呼吸さえも辛くなってくる。
警察が現場検証し、医師免許を持つものが死亡を確認し、事情を聞かれるなどして一通り終えると、自殺ということで、警察官たちはあっさりと帰って行った。
薄暗い幸宏の部屋に横たわる遺体。
そこでやっと、彼の顔を見る事ができた。
首を吊ったらしい。
よく首吊り死体は舌が出たり、排泄物が出たりなど聞くが、そんなことは全くなく、首の鬱血痕以外は、まるで寝ているかのように綺麗だ。
「兄ちゃん…」
いつもの呼称で幸宏を呼ぶ。
「なんで死んだりなんか…」
泣き腫らした目の母が疑問を口にする。
昨夜、オレは幸宏と身体を重ねていた。
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