4 / 7

過去の話 後編

父と母が出先から帰ってくると、家は真っ暗だった。 父が風呂に入るというので、その間に母は食事を作りつつ、兄に帰宅時間を確認するメールを送信したところ、兄の部屋から着信音が聞こえてきた。 家に居るのかと、部屋の扉を開けると、兄の身体は足元を浮かせて吊り下がっていたそうだ。 話を聞きながら、その情景を思い浮かべて気分が悪くなる。 人とは、こんなにあっさりと死ぬものなのか…。 兄の自殺の原因は、オレが「もう、こんな事はやめよう」と言ったからだ。 その後、話し合おうと言った兄を無視した。 たったこれだけの事だが、兄にとっては死に値する出来事だったのだ。 兄弟…けれど、本当は血が繋がっていない。兄はそれを知り、オレのことを好きだと言ってきた。オレも兄が好きだった。 しかし、家族の中で、オレだけが他所者。 もし、兄との関係が親に知れたら、オレが追い出される。それが、怖かった。 だから、幸宏との関係を終わらせたかった。 その程度の、気持ちだったのかもしれない。 なのに、今では彼は存在感を増し、一生、オレの心に棲み続けるであろう。

ともだちにシェアしよう!