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幸せの終わりは痛みと共に
ズキズキする。痛い。痛くて、熱い。
どこかが痛むのは分かったけれど、それが頭なのか、心なのか、喉なのか。そんな簡単な事ももう、オレには分からなかった。
待っている間に帰り支度は済ませていたらしくて、鞄を手に幼馴染はオレの前で首を傾げる。ああ、早く何か言わないと、心配させてしまう。
ガキの頃、おもちゃを奪われたオレが、本当は悲しくて悔しくて堪らなかったのを見抜いてくれたのもコイツだった。
本当は青い車よりも、大きなぬいぐるみを欲しがっていた事に気が付いたのも、コイツだけだった。
そういう事には鋭いんだ。「恋愛に冷めてる」「ちょっと冷たい性格」なんて周りから言われるクセに。今昔みたく「何かあったんすか?」なんて聞かれたら、間違いなく泣いてしまう。そしたら、ずっとずっと隠していたこの想いだって、バレかねない。
それだけは避けたかったから、どうにかこうにか、
「ああ、帰ろうぜ」
それだけ返した。
多分、いつもと同じように言えたと思う。少し不思議そうな顔をしていたアイツも、すぐに首の角度が戻ったから。
そんな単純な言葉を、いつもみたく返すだけで、オレは凄く疲れたけど。
見慣れた帰り道を、いつものように並んで歩く。一緒に学校に行って、一緒に帰る。10年以上続いていたオレ達の日常だけど、それももう、今日で最後だ。足が重い。このまま家に着かなければ良いのにとか、ここで世界が終われば良いのにとか、そんなバカげた妄想がズキズキするオレの頭に、浮かんでは消えていく。
10年以上続いていた事。もはや「当たり前」の「日常」だけど、オレがこの時間に幸福を感じなかった時なんて、1度もなかった。おもしろい話なんてしなくたって、隣にアイツがいれば、それで。
だけど、今は。
幸せなはずの時間が、終わって欲しくないとさえ思った帰り道が、とても、とても重苦しかった。少し上にあるアイツの横顔が、別人のように見えた。
もう別人なのかもしれない。オレの幼馴染で親友じゃなくて、どこかの誰かの彼氏になろうとしている男の顔。
ズキズキ。
そう思った途端、痛みが更にひどくなる。もう萎み切ってしまったように思う肺を強く搾られて。心臓なんてとうに張り裂けているのに踏み潰されて。ぐちゃぐちゃに混乱する脳を、素手でかき混ぜられているみたいな。
痛くて、苦しくて、くらくらする。
最後の帰り道の終わり。
いつも通り隣の家に消えていくアイツに別れ際、いつも通りの言葉を返せたかなんて、痛み朦朧とする頭では分からなかった。
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