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きっと、いつもと違う朝になる
「……遅いっすねぇ」
小学校に入学してから10年以上登下校を共にしている。一緒に過ごした時間は入学前からだから、それよりもう少し長い。軽く15年以上の付き合いはある。
だから幼馴染が朝に弱い事なんて、とっくの昔に知っていた。朝は上手く頭がまわらなかったり、頭痛がしたりするって、辛そうにしている幼馴染がオレに教えてくれた。
熱を測ろうとした小さな手を、オレより少し小さな手が制して「もう少しすれば大丈夫だから」って言われた事も、よく覚えてる。
と言うか、幼馴染と過ごした時間を忘れるはずがない。全部オレの大切な思い出。ちょっとクサイ言い方をすれば、宝物なんだから。
まあ、ガキの頃から朝には弱い幼馴染ではあるけれど、同時にガキの頃からのしっかり者。
朝に弱い自分をしっかり受け止めて、余裕を持って支度を終え、ベッドの中でくるまって動けない時間も踏まえて起きる時間を決めているのも、オレは知っている。
だから遅刻なんてした事はないし、オレが迎えに行っても家から出てこないなんてこと、10年以上1度もなかったのに。
確かに今日は、そんな風に10年以上重ねた「いつもの朝」じゃなくなると思っていた。良くも悪くも。いつもの朝をオレの手で壊す覚悟をやっと決めたのだけれど、これはちょっと違う。
まあ、アイツも人間っすからね。寝坊くらいするでしょ。
……そう片付けることも出来た。そう思う方が自然なのかもしれない。でもオレはそう思えなくて。
覚悟を決めてからずっと抱いていた緊張なんて忘れるくらいに、何故か無性に嫌な予感がした。礼儀だの常識だの、そういうのは全部置き去りに目の前のチャイムをひたすら連打する。
間をあけずに何度も何度も。すっかり心や頭に広がってしまった嫌な予感を掻き消すように。不機嫌な幼馴染が「朝からうるせぇよ」なんて言って、少し焦った幼馴染が「わりぃ、遅れた」なんて言って、家から出てきてくれる事を願って。
オレの願いは通ったのか、果たして玄関の扉は開いた。
でも、オレの願いは叶わなかったのか、出てきたのは幼馴染じゃなかった。
「……あれ? なんで貴女がいるんすか?」
出てきたのは女性。会うのは久しぶりだけど、ちゃんと覚えてる。幼馴染の母親だから、オレも10年以上の付き合いの中で、何回かは世話になってる。
仕事が忙しい人だから、中学に上がってからはほとんど会っていない。でも、幼馴染の母親を忘れるはずなんてない。
だけど彼女の姿は、オレの記憶と大きくかけ離れていた。そもそも朝早くに出掛けるこの人が、オレ等の登校時間になっても家にいる事がおかしいんすけど。
そんな困惑は嫌な予感と重なり、言葉になって出てきた。「少し失礼な物言いだったかも」なんていう考えに至っている余裕はなくて、母親の方もそれに気が付くだけの余裕は、なさそうだった。
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