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天使じゃない、女神様だ!

おバカ一途な美形×控えめ小動物な平凡 ―――――――――― 只今、屋上から自分のクラスを双眼鏡で盗み見中であります隊長。いや、まあクラスというか……窓際の机にうつ伏せになって寝てるあの子を瞬きもしないでガン見してるだけなんですが。って、うわ!ふにゃって笑ったんですけど隊長!!ちょ、鼻血出る…!つかなんの夢見てるんだよこんちくしょーっ!俺か?俺だよな!?絶対そうだ!ってああーっ!!なんの権限があって園田(そのだ)くんの頭撫でとんじゃ浜崎(はまさき)ぃぃ!!後でてめえの鼻ん中にからしとわさびをっ………やべ、そのぐずり方キュンだ。俺の胸はキュンキュンだよ園田くん!くっそお、ナイス浜崎っ! 「あー、マジかわいい超かわいい。冗談抜きで死ぬほどかわいいんだけど!つかギューッてしてえぇぇっ!!」 「うるせえよ阿呆」 俺が空を仰いで叫べば隣でしゃがみこんでマンガを読んでるノリの肘鉄を膝に受けた。あまりの痛さに俺は未練タラタラに園田くんから目を離すと、ずるずるノリの隣に膝を抱えてうずくまった。 「いてえよノリー」 「うるせえから黙らせたまでだ」 「むー、ノリは俺の恋路を応援してくれるんじゃねえのかよー、親友のくせにー!」 「はあ、誰も応援しないなんて言ってねえだろうが…」 ノリは読んでいたマンガを閉じるとぱしりと俺の頭を叩いた。俺はノリのその言葉にじわじわと嬉しさを感じ、キラキラとした瞳をノリに向ける。 「マジで?ノリ応援してくれる?本気でマジでガチンコで応援してくれる?」 「ハイハイ、適度に応援してやるよ」 ノリは苦笑しながらそう言ったが俺は応援してくれるということだけで嬉しくて、両の拳を空に突き上げて立ち上がった。 「うおぉぉーっ!俺頑張るぜぇ、しゃかりき頑張るぜえー!!」 「あーあー、一々叫ぶな馬鹿」 ノリはタルそうに立ち上がると、さっきのとは比にならないくらいの強さで俺の頭をマンガでぶっ叩いた。 「いっでええぇぇっ!!」 「うっせえ、教室戻んぞ阿呆んだら」 「うおぉぉ…っ」 ノリは悶絶している俺のネクタイを無理矢理引っ張り、問答無用で教室まで連行していった。頭も痛いし首も痛いよお。 ―――――――――― 「はーい、今日は席替えすっぞー」 隊長、いつもはこのゆるーい声にイラッときてた俺だけど、今は超好きです。抱擁までならしてやってもいいって思えるほどです。 今の園田くんと俺の席は対角線、つまり一番遠い席だった。これで園田くんの方が前の席だったら授業中もジーッと見ることも出来ただろうに、生憎俺の方が前だった。 毎日毎日怨みの念を送り続けた甲斐があったぜ!オー、ジーザス!! 俺はぐるりと後ろを向き、隣の列の一番後ろに座ってまたマンガを読んでいるノリを熱心に見つめる。その視線に気づいたノリがこちらへと視線を向け、きょろきょろと辺りを見回し事態を把握すると無言で親指を立てた。俺はそれに満面の笑みを浮かべて親指を立て返した。 「んじゃ今からくじ引いてもらうぞー。百合丘(ゆりおか)から順に引きに来ーい」 「ラジャー!」 俺は兵隊のようにピッと立ってビシッと敬礼をした。教卓の前まで歩いて行き、ゴクリと唾を飲み込む。いざ!と気合を入れて紙袋に手を突っ込み、沢山の折り畳まれた紙が手に触れるが俺はまだ引かない。 どれだ、園田くんの隣になれるくじはどれだーっ!? 瞬間、一枚のくじに触れるとビリッと指先から全身に電撃が走った。 「こぉ、れぇ、だああぁーっ!!」 ズバッとくじを引き、番号を見ずに担任に手渡す。担任は悠長に俺からくじを受け取るとくじを開き、黒板に書かれた席番号とくじとの番号を照らし合わせる。 「えーっと、百合丘はここなー」 そう言って軽快な音を鳴らして黒板に名前が書かれた場所は、ちょうどノリが座ってる席のとこだった。 俺は大きく一つ頷き、教卓をあとにして自分の席から椅子を持って真っ直ぐノリの席へと向かう。なぜかクラスメイトが爆笑していたがそんな事気にも留めず、ノリの隣にピッタリ椅子を寄せてその上で正座をし姿勢を正す。 「ノリ」 「なに」 「遠足前の小学生みたいな気分。心臓破裂しそうなくらいドッキンコしてんだけど」 「あっそ。とりあえず神頼みでもしとけば?」 「おう!」 俺はすぐさま両手を合わせひたすら園田くんと隣になれるよう祈った。神よ!ゴッドよ!俺の一生分の頼みを聞いてくれー! ―――――――――― ◇ (ノリ視点) 周りからは何やってんだ百合丘とまた笑われているが、これでも本人はいたって真面目というから質が悪い。俺はチラリと視線を窓際へ移して園田を見れば、園田も楽しそうに笑っているのだが当の本人は自分に一杯一杯過ぎて気づいていない。 惜しいな、オン。 そう思いながらまたピッタリと隣で椅子に正座して祈っているオンを見る。何事かをブツブツと呟いているが周りがうるさくて聞き取れない。 オンはクラスのムードメーカー的存在なのだが、本人は鈍すぎ天然ボケ野郎だから全く気づいていない。告白されてもラブではなく全てライクで捉え、問題が起きたこともしばしば。そんな事の尻拭いをするのが俺の役目。オンとは生まれた時からずっと一緒なのだから、もうとことん一緒にいて尻拭いでもなんでもしてやろうと決めてここまで来たが、やっと、本当にやっとオンに好きな奴ができた。 これが正真正銘、オンにとっての――初恋。 しかも男と来たもんだから驚きだ。そんな奴がどんな行動をとるのかと思えば、少し…いやかなり変態じみていた。一歩間違えればストーカーになりかねない。 まあそんな奴だが俺の親友だ。適度にアドバイスをしてやって頑張ってもらおう。 この恋が実るかは俺のアドバイス次第かもしんねーし? 俺はほくそ笑んでくじを引くために席を立った。 ◇ ―――――――――― ノリがくじを引きに行ったのを感じながらも園田くんが隣になるよう祈りは止めない。 お願いします神様!園田くんを俺の隣にっ、いや前でもいいです!どうかどうかどうかっ、お願いしますっ!! 「オン」 「なんだいノリくん」 「俺お前の前の席」 「そうかい」 「おう」 ノリは俺の前かあ、これで園田くんが隣になったら俺は幸せ者だな!……ん?ノリが前の席?前の、席……。 「なぬうぅぅーっ!?ノリが前の席っ!?」 「うっせえなぁ、そうだよ」 「うおーっ!嬉しすぎる!嬉しすぎるぜ祝人(のりと)くん!!俺らクラスはずっと一緒なくせに席は小5のときに前後になっただけで全然近くの席になれなかったのに…っ!なんだ、これは愛か?俺らの愛の力か!?」 「あー?愛とかキメェ」 「ひどっ!鞭はいらないから飴をください!」 「ほらよ」 「ん?」 ポイとノリから投げられたものをとっさにキャッチして中を見てみると、いつもノリが舐めてるミルクの飴が一つ手に乗っていた。 「飴?」 「飴」 「……」 「…な、なんだ」 俺は感情のままにガバリとノリに抱きついた。 「愛してるぜノリーっ!!」 「うぐっ!離せやボケナス!!」 またマンガで頭を殴られ、プラス胃の辺りをグリグリやられた。ノリくん吐いちゃう。俺吐いちゃう。 クラスメートからもイジられながら時間は過ぎていき、残すは園田くんの前の荒巻(あらまき)と園田くんのみになった。 そして奇跡的に空いている席は3列目の前から2番目と、俺の右隣の席。 「ジーザス!」 「急に叫ぶなボケ」 ああ、頼む荒巻くん!俺の隣にはならないでくれっ!いやっ、荒巻くんのことが嫌いなわけでは決してないからね!?でも園田くんへの愛に比べたら…あっ、違うよ!?園田くんと比べたら月とすっぽ、いやいやいやなんでもないなんでもない。うんっ、頼むから園田くんを俺の隣にしてください荒巻さま!! 「はーい、荒巻はここなー」 ゆったりとチョークを握って担任が書いた場所は――。 「オン、見すぎ」 「……え、と」 「ぐふふー」 やった…、やったよ母ちゃん!そそそそ園田くんが、おっ俺の隣!隣に…っ!ぐはぁっ、かわええ、クソかわええ。全然こっち見てくんないけど横顔もどちゃんこかわええっ! 「ごめん園田、もうちょい我慢してくれ」 「う、うん…」 つーか、席移動し終わって園田くんになんて話しかけようか迷ってたら、園田くんから話しかけてくれたんだよ!これからよろしくって!かっわええ笑顔付きで!!マジでありがとう神様!ニタニタも園田くんへの愛も止まらねえぜっ!! 「……いい加減にしろよてめえ」 なんかドス黒いオーラを感じたと思ったら鼻を摘まれてぐいーっと引っ張られた。 「いててててっ」 「お前ガン見しすぎなんだよ」 ノリにそう小声で指摘され、鼻を解放してもらえた。 「だーってカワイイんだもん」 「だもんとかキメェ」 「しかも園田くんさー、照れてんのか目ぇ合わせてくんないだけど。あー、そんなとこも控えめでいじらしくてまさに大和撫子!いい嫁になるに違いないっ」 「ハイハイ。でもな、オン」 「ん?」 ノリが少し疲れた感じで自分の目にかかる前髪をくしゃりと掴んだ。そして真剣な目で俺を見た。 「園田は照れて目を逸らしてるんじゃないからな」 ………ん?それじゃあ、 「恥ずかしいからか!」 「……はぁ」 ノリは何を言っても無駄だというように頭を振り項垂れたが、そんな事気にしないでまたかわいい園田くんを見つめる。するとまた鼻を摘まれてノリとにらめっこ。 「俺ノリじゃなくて園田くんを見たいんだけどー」 「一方的にジロジロ見られて気分がいい奴なんかいねえだろうが。見る前に園田に言うことあんだろ?」 「言うこと…」 ――そんなの、一つしかない! 「園田くん!」 「っ!?は、はいっ」 びくって跳ねたのかわいい!小動物みたいでかわいすぎるっ!てか、目合ってる!今園田くんと目が合ってるー!! 火が出そうに顔が熱い。なんか鼻息も荒くなってる気がするけど多分気のせいだと園田くんの小さな手を両手で包み込む。 「おい、」 「好きです!これから末永くよろしくお願い申し上げます!!」 「……へ?」 ノリが呼んだような気がしないでもないけど、俺は一世一代の告白をして頭を思いっきり下げる。 やっべ、言っちゃった、とうとう言っちゃった!告白半端ねえー!!心臓爆発するっ!顔熱すぎて溶ける!!……今、園田くんどんな顔してんだろ? 好奇心に負けて顔を上げようとすると、本日何度目かになる衝撃が後頭部を襲った。 「いだあっ!!」 俺はその場に崩れ落ちた。園田くんの手も離れてしまって悲しい。でも頭痛い。さすがに角は痛いよノリくん。 「誰が告れっつったよボケが!!よろしくってだけでいいってわかんねえのかよ、ああ?」 「だって園田くんに言うことなんてそれしか浮かばなかったしー!」 涙目で鬼の形相なノリを見上げて言えばまたマンガで叩かれた。でも今度のは角じゃないし、そんなに痛くもなかった。 「とことん馬鹿で阿呆で単細胞な奴だなテメエは。……園田」 「…あ、はいっ」 「こんなんだけど、ちょっとでも仲良くしてやってくんね?」 ……じーん。 やば、なんも言えねえ。なんも言えねえっ!俺の親友優しすぎ最高!ちょっと手癖悪いけど心根の優しいノリに祝福あれ!! 改めて親友という存在に感動しつつ、園田くんを見上げる。困ったように眉が下がってるその顔もかわいい。でも果たして俺と仲良くしてくれるのか、ちょっと…いや、めっっちゃくちゃ返事が怖くて唾をごっくん飲み込む。 「えっと、あの、好き?とかはわかんないけど……僕も仲良くは、したい、です…」 にこっ。 ――くらり。園田くんの笑顔に一発KOされた俺は鼻血を出しながら後ろにバッタン倒れた。 「百合丘くん!?」 やばい、天使だ。天使がいる。そうか、ここは天国なんだ。それなら天使がいても不思議じゃない。ああ神様、天使を好きになった俺は罪人になるのでしょうか…? 「わっ」 「いいや!罪人になろうともっ、俺は園田くんのことが好きです!」 「!?」 勢いよく起き上がり、俺の事を心配して隣にしゃがみ込んでいた園田くんの手をまた握る。園田くんは目をおっきくさせて俺を見ていたけど、段々とその頬がりんごみたく赤くなってきた。やだもう、この子かわいすぎてツライ!俺の心臓何回も爆発しちゃうっ! 「……あはっ、百合丘くんのカッコイイ顔が鼻血で台無しだよ?とりあえず、これあげるね」 園田くんの小さな手から渡されたのは、なんて事ないポケットティッシュ。でも、これは、まさにこれは…っ! 「園田くんからの初プレゼントっ!大事に使います!てか勿体なさ過ぎて使えません!!」 「だったらさっさと保健室行って鼻血止めて来いや」 「いたいっ、痛いって!俺のケツがもっと割れちゃうから優しくして!ちょ、いてっ、あいたー!」 ノリにケツを蹴られながら教室を出る前に、振り返って園田くんを見る。園田くんはあの天使な笑顔で楽しそうに笑ってて、一瞬にして蹴られてるケツの痛みなんて吹っ飛んだ。 「園田は天使じゃない、俺だけの女神様だ!!」 「うっせえ、黙って歩け阿呆」 「いだいっ」 __End__

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