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第5話
白は顔を丁寧に洗ってから帰路についた。
顔がまだ気持ち悪い。あのクソライオンめ。どういう積りだ。
白はいまだムカムカしつつも、境界線付近から魔物の大群を追い払う事には成功したので、取り敢えずは安心だ。
「ただいま」
「あぁ、お帰り白、今日は…… マーキングされてるのか!」
畑で取れた大きな大根を抱えながら出てきた黒は、ビックリして大根を落としてしまった。
「マーキング?」
「しかもこの匂い……」
「匂い?」
ガシッと肩を掴まれ、白の頬に鼻を近付ける黒は、その匂いに心当たりがある。
「今日の仕事でライオンに舐められましたが、それですか? ちゃんと洗ったんですが……」
「何!?」
アイツに襲われたのか!?
クソ…… あの野郎!
「え? あっ…… えっ??」
白は頬に当たった感触に驚く。
え? 黒さん??
「あ、すまない…… マーキングしなおした。兎に角部屋に行こう」
「は、はい……」
黒に頬を舐められましたと認識するまで、結構時間がかかってしまった。
ソッと自分の頬に触れる白。熱い……
あのライオンに舐められた時は吐きそうな程に気持ち悪かったのに……
黒さんにならもっと舐められても良いなぁと思ってしまった。
黒が白の腕を引きながら連れてきたのは近室である。
なんでこんな所に? と、白は思った。
「すまない白、しばらく外に出るのは危険だ。ここは上の部屋よりシールドが厚い。見つからない様に暫くここに隠れていてくれ」
「どう言う事ですか?」
「おそらく、お前はライオンに気に入られたんだ。マーキングをすれば、お前が何処に居ても解ってしまう。だからマーキングし直したのだが…… 焦って説明を忘れてしまった。すまない」
黒は申し訳なさそうに白を見た。
「そうなんですか。えっと、あの…… じゃあ僕も黒さんにマーキングしても良いですか?」
白は黒を見つめる。何でそんな事を言ってしまったのか解らなかったが、黒さんにマーキングしたいと思ってしまったのだから仕方ない。
「え? でも、人間はマーキングの能力は無いだろ?」
「ええ、多分。マーキングしても黒さんの居場所は解らないと思うけど、したくなったんです……」
「毛むくじゃらだから気持ち悪いと思うんだが……」
「僕はしたいんです!」
困惑する黒の腕を引きよせ、白は頬に口付けした。
心なしか黒は赤面して見えたので、何だか白も赤面してしまう。
僕は何でこんな事を……
そんな事を考えるが答えは出ない。ただ気分は満足だ。
「えっと、晩御飯を持ってくるから待っていてくれ」
黒はハッとして白をソファーに座らせると、部屋を出た。
白は言われた通りにソファーに座って待つ。
しかしあのライオンの事を思い出しても、全く好意を寄せられていた様には見えなかったが……
それに魔王がどうとか……
確か、以前の魔王は半獣の黒豹……
そこまで考えて白はハッとした。
黒が魔王と同一人物とは思えないが、同じ半獣の黒豹ともなれば匂いも似るかも知れないと。
ライオンの狙い自分ではなく、黒。黒の匂いが僕からしたから、マーキングして居場所を突き止めようとしたのだ。
白は反射的に立ち上がり、部屋を飛び出す。
僕はなんて迂闊だったのだろう。
そうとも知らずにノコノコ此処へ帰って来てしまうなんて。
どうか間に合ってくれ。
白は黒の向かったキッチンへと急いだ。
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