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第6話

 黒がキッチンで料理をよそっている時であった。  シールドを破られた気配に気付いた。  ライオンの奴、やっぱり白を奪いにやって来やがったな。  玄関の扉が開く気配、地下室の存在はきっとバレないから安心だが、俺の白に勝手にマーキングしやがった落とし前はつけてやらなければ……  いや、俺のでは無いけれど……  黒は足早に玄関に向かった。 「王!」  玄関に立っていたのは間違いなく知り合いのライオンであった。  悪いが名前まで覚えていない。 「俺はお前を家に招いた覚えはないが」  黒はライオンを睨む。 「不躾に申し訳有りません。どうしても貴方に戻って来て頂きたくて……」  ライオンは黒の前に跪き、頭を下げた。 「俺は戻るつりはない。それから俺の物に勝手に触れるな。次は無いと思え」  黒はガルルと、牙を見せ、ライオンを威嚇する。 「あの人間ですか? 申し訳有りません。御食事用にしては…… その……」  ライオンは少し冷や汗を浮かべつつ困惑した様に黒を見つめた。 「食事用ではない。人間を食べるのはよせ。人間を食べずとも問題ないのだから。大根を分けてやろうか?」 「大根ですか? いえ、結構です。王、お話ししたい事が……」  ライオンは懇願する様に黒を見つめ、思わず手を伸ばす。 「黒に触れるな!!」  振り下ろさせる刃物に気づき、咄嗟に間合いを取るライオン。 「貴様!」  白を睨み、唸る。 「白を威嚇するのはよせ! お前がいくら白を嫁に欲しいと言ってもやらんからな!」  ガルル! と、黒もライオンを威嚇し、白を庇うように抱きしめた。 「いえ、私はただ…… その食料から王の匂いがしましたので、貴方の居場所を突き止めようと…… 王の食料にマーキングするのは無礼だとは思ったのですが……」  ライオンは誤解を解こうと口を開く。ライオンは全く白に興味はなかった。 「だから食料では無いと言っているだろ!」 「では?」 「え? では?」  改めて聞かれると難しい。息子? 兄弟? 友人? 「か、家族? だ」 「家族ですか……」  しっくりは来ないが、家族と言う事にしておく。一緒に住んでるんだし家族だろう。うん。家族だ。 「黒さん、もしかしてこのライオンとはお知り合いなのですか?」  黙って黒とライオンの会話に耳を傾けていた白が口を開いた。  黒の知り合いならば突然刃物を向けたのは悪かったと思う。だけどコイツ、人間を狙おうと画策していた首謀者であるし……  それにさっきら気になっているが『王』と呼んでいる。それを黒はすんなり受け入れているし、それに、そもそもライオンが探していたのは魔王である。  まさか、やっぱり黒は魔王なのか??  こんな優しいのに??  白は混乱した顔で黒とライオンを見ていた。 「知り合いと言う程ではない。顔を知っているだけだ」  黒は白をずっと抱きしめたままだった事に気付き、離してやる。 「王、それは酷いではないですか? 私は貴方の側近でしたでしょ!」  「俺が求めた訳では無いだろ。あと、お前名前何だったっけ? ライオンか?」  「ラオンです! あと此方からも質問なのですが、先程からそこの食材は貴方を黒と呼んでいるは何なんですか!」  「俺の名前だ」  「貴方の名前はミーハトです!」 「ミーハト、覚えにくいな。俺は黒が気に入っている。改名した」 「何を勝手な事を言っているんですか、貴方のお父様が考えられた立派な名前ですよ!」 「悪いが何も覚えてない。そんな昔の話は忘れた。もう、帰ってくれ。疲れる」  あれやこれやと声を荒げるラオンに黒は疲れてしまった。 「そう言う訳には行きません。人間は我々を滅ぼす為に今、事を起こそうとしているのです。先手を打たなければやられるのは此方、貴方の力が必要なんです! 私と一緒に帰りましょう。皆も貴方を待っているんですよ」  ラオンは必死に黒を説得にかかる。もはや土下座する勢いである。 「俺はそう言うのに興味が無いんだよ。そもそも勝手にお前らが俺を祭り上げ魔王なんて呼ぶだけで、俺は何もしてない」  黒は困った様に溜息を吐く。 「王! 貴方は王なのですよ!」  「勘弁してくれないか?」 「いいえ、私は引きません。貴方が私と帰ると言うまで此処に居座ります!!」 「解った。そこまで言うなら勝手にしてくれ」  頑固なラオンに黒は面倒くさくなり、勝手に話を止め、踵返す。  白に危害を加える気はない様だし、問題ないだろう。  そもそもラオンは人間を食料としか見なしてないタイプの魔物だ。   俺がマーキングした白に手を出す様な奴でもない。  それに夕食がまだだ。白は仕事をして帰ってきたのだし、腹を空かせているだろう。  早くご飯にしてやりたいのだ。 「白、飯にしよう。リビングで食べようか」  もう地下室に行く必要も無いだろうし、いつもの様にリビングで食べれば良い。 「……はい」  白は気になる様にラオンを見たかったが、直ぐに視線を外し黒の後ろにつく。  ラオンはただ白を威嚇する様に睨むのだった。 「おいライオン。お前、肉以外も食えるのか?」  不意に黒がラオンに話しかける。 「え? ええ…… はい。あの、ラオンです」  それに同じ猫科の貴方だって肉以外も食べるだろうと思ってしまうラオン。 「解った」  黒は返事を返すとそのまま白を引き連れ室内に消えるのだった。  

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