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第8話

「僕がマーキングしたのに……」  リビングに戻ろうとした黒だったが、影で白が見ている事に気づいた。  気になって様子を伺っていた様だ。 「すまない。お前にマーキングして貰った頬とは別の方を出したのだが……」  それでもダメだっただろうか。 「あのライオンと一緒に何処に行くんです? 僕を置いて行くんですか? 折角戻って来たのに…… 今度は置いて行くんだ」  白は拗ねる様な責める様なそんな口振りである。 「どうやら不穏な動きが有るようだ。直ぐに戻って来るよ」 「どうしても行くというなら僕も連れていて下さい」 「だが……」  白は美味しそうだから、目を離したら直ぐに自分の配下に食べられてしまいそうだ。  王の大事な人間を食べてしまう配下は居ないだろうが、万が一にも我慢出来ずにと言う事も有る。  これこそ、セックスでもして強く自分の物だとアピールすれば安全だろうが……  白は同じ男だし、それにαである。 「やっぱりダメだ。直ぐに戻ってくる。この城も心配だ。待っていてくれないだろうか」 「絶対に戻ってくると言う保証は何処に有るんですか」 「俺がお前に嘘をついた事が有ったか?」 「無いですよ。でも、一緒に居た期間だって短いです。貴方にとってはそれこそ瞬き程度でしょ!」 「そんな事は……」  「黒なんてもう知らない! 僕の事なんてどうでも良いんだ!」  口論になり、白は思わずあのライオンが舐めた方の頬を強くビンタしてしまった。  白が黒に手を上げたのはこれが初めてである。   ハッとして手を引く白は、一瞬申し訳なさそうな顔をするが、引っ込みが付かず、踵を返すと黒の前を走り去り、自室に入るとドアを強く締めた。  黒は白が叩いた頬を抑える。  熱い……  白が自分に手を上げるなんて  「反抗期か?」  反抗期とは大人になる過程で必要な物だと聞いた。  これは明日は赤飯にするべきだろうか。  何しろめでたい事である。  黒はルンルンと鼻歌交じりで、キッチンに向った。  皿洗いをしないといけない。  白は酷く憤りを覚え、それがおさまらないでいた。  こんなに怒りを覚えたのは初めてだ。  黒が魔王だと言う事に驚いたが、本人は乗り気では無く、無理矢理やらされている感じがした。  ただあのライオンはずっと黒の側で、黒の幼い頃から側に居て黒の事を良く知っているのだ。それに黒もなんだかんだ言いながらあのライオンを心配し、飯などを出して……  『すまないな白、ラオンは良い奴なんだが心配性でね。白にマーキングするなんて、変わってしまったのだろうかと思ったが、全く変わっていない様で安心した。幼馴染なんだよ。昔はよく一緒にかけっこして世界を一周したりした。アイツは俺をいつも心配して支えてくれたのに…… 俺は黙って側を離れてしまったから。申し訳ないと思ってる。ただ嫌だったんだ。魔王なんてガラでもない。全部アイツに押し付けてしまった……』  そう、何処か昔を思い出す様な、寂しそうな笑顔を浮かべて話す黒に白は何処か胸がザワついて仕方が無かった。  そんな話は聞きたくない。  あんなライオンの事なんて気にしなくて良いのに。  そう思う白を他所に、黒はわざわざライオンの為に食餌を用意し、運んで行くのだ。  白は何故か気になって、黒とライオンの様子を伺ってしまった。  黒は簡単にライオンに頬を出し、舐めさせていた。  それを見たとき、白は目の前が真っ赤になった気がした。  黒は僕のなのに!  そう思った。  僕の……?  黒な僕のではない。  黒は僕を拾って育ててくれた。親? 兄? 家族??  でもどれもしっくり来ない。  僕は……  この気持が何だか解らない。  白はベッドに潜り込み、もうもうと悩むが、その答えはついに出ることは無かった。

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