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*7.化学準備室②

 白坂は椅子ごと奏太に体を向けると深々と頭を下げた。 「頼む。大ごとにしないでくれ。金なら払う」 「金なんていらない」 「お、お前だって困るだろう。こんなことが公になったら進学に響くぞ。今後の学校生活にだって支障が……」 「支障が出たらどうなんの?」  白坂の言葉を遮って、奏太は凄んだ。顔を上げた白坂にキスができそうなほど近い距離に迫ったが、二人の間に甘い空気はない。至近距離で怯える瞳を覗き込みながら、奏太は続けた。 「苛められんの? 授業中にハンバーガー買わされに行ったり?」 「あれは……、お前、腹減ってたんだろ?」  白坂は芝居めいた引きつった笑みを向けてくる。  教師があの状況でいじめに気づかないはずがない。なのに、それをかたくなに認めようとしないこの男に心底腹が立った。奏太は怒りに任せて地団駄を踏んだ。 「お前って呼ぶなって言ってるだろ!」 「頼む……。奏太……、家族がいるんだ。この通りだ。頼む」  白坂は椅子から崩れ落ちるようにして、床に膝をついた。額を床に擦り付けるようにに背中を丸める様子は彼のプライドが潰れる姿そのものだった。 「お前の土下座なんて興味ねぇよ」  奏太は荒っぽい言葉遣いとともに、その髪を掴んで顔を上げさせた。そしてその顔を自分の股間に押し付ける。 「……お……、俺に何させたいんだ」 「わかるだろ?」  白坂はじっと奏太の目を見つめた。許しを乞うような目だった。しかし、それも無駄だと悟ると、彼は目の前のベルトを外し始めた。ジッパーを下ろす手がガタガタと震えている。  乾いた手で奏太の陰茎を取り出すと、白坂はそれを口に含んだ。 「……ふっ……ん……」  彼は舌で柔らかく先端を受け入れると、丁寧に裏筋を舐めていく。  相変わらず、彼の口淫は上手い。  巧みな舌遣いに奏太は熱い息を吐いた。耐えるように眉を寄せて懸命に頭を動かす彼を見ると、自然と口元が緩む。 「……なあ、シラマ、美味しい?」  返事はない。彼はただ懸命に口淫を続けている。  ただそれだけで激しい憎悪が奏太の腹の底に渦巻いた。白坂が自分を軽んじているように感じたのだ。 「美味しいかって聞いてんだよ!」  廊下まで響くような大声に白坂の体がびくりと跳ねた。そして大きな目を動かして、周りを見渡している。誰か入ってこないか警戒しているようだった。 「……お、美味しいよ……、美味しい……」  か細い声で奏太を肯定する白坂。機嫌をとるように引きつった笑いまで浮かべている。そしてまたすぐに奏太のものに舌を這わせた。  爽快だった。  この服従こそが奏太が求めていたものだ。 (お前を使えるだけ使って、捨ててやるんだ……! お前が俺にそうしたように)  奏太は込み上げてくる笑いを肩を震わせてなんとか堪えた。それでも顔がにやついてしまうのまでは、どうにもならない。  「ふぅん、じゃあ、全部飲んでね」  目を細めて言うと、その口内で腰を打ち付けた。喉奥を突かれた白坂は苦しそうに呻いたがなんとか耐えている。それでも芯を持ち始めた陰茎に歯を立てることはなかった。  目尻に涙を浮かべながら、必死にしゃぶりつく姿は健気にさえ見える。  なんとか射精を堪え、昼休み時間いっぱい使って楽しもうと考えていたが、早く終わらせたいであろう白坂が吸い付くように射精を促してくる。  そんな攻防をして勝つのは当然白坂で、奏太は彼の口内で欲望を吐き出した。 「……くっ……」 「……んん……ッ、ぐぅ……っ」  白坂のくぐもった声と喉を鳴らす音が響いた。飲みきれなかった白濁が顎を伝って彼のスラックスに染みを作った。彼は丁寧に竿に残った精液まで吸い出して飲み込んだ。そうしてようやく口を離した。その場で座り込みたくなるような体のだるさを覚えて、奏太は満足そうに息を吐く。そして俯いて息を整える白坂の髪を掴んで無理やり顔を上げさせる。 「全部飲めって言ったのに」  抵抗も反論もなく、白坂はただ虚ろな目を向けただけだ。奏太はその輪郭に伝った白い液体を指で拭うと、彼の唇に運んだ。彼は何のためらいもなくそれに舌を這わし、吸い付いた。まるで毛づくろいをする猫のように差し出した手を舐め続けた。従順な態度に奏太は満足して手を離す。 「まあ、いいや。許してあげるよ。……またね、シラマ」  そう言って、奏太は科学準備室を後にした。彼が扉を開くまで、背後では物音一つしなかった。

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