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11.体育館のトイレ①

 四限目の科学の授業が始まる。チャイムが鳴ると同時に白坂は教室に入ってきた。白坂はまだ休憩時間の気分が抜けない生徒たちに着席を促しながら、教壇にやってくる。 そして、黒板が前の授業のまま放置されていることに気づいた。 「おい、黒板消してないぞ。今日の日直……」  日直の名前に視線をやった途端、白坂は言葉を途切らせた。そこに奏太の名前があったからだ。鈴井が嬉々として奏太を振り返る。 「野田ー! お前ちゃんとやれよ! シラマが困ってるだろ!」 「いや、先生がやるよ……」  呟くように言うと彼は黒板消しを持っていそいそと黒板いっぱいに並んだ英文を消し始めた。奏太は早足で教壇まで駆け寄ると白坂の隣で黒板を消し始めた。 「昼休み、体育館裏のトイレに来て」  奏太が黒板に向かって小さく呟いた。ざわつく教室では奏太の呟きに気づく者などいないだろう。しかし、白坂を硬直させるには十分だった。彼の黒板消しを持つ手が止まった。  その間に奏太は黒板半分を消してしまい、黒板消しを置いた。 「……返事」 「わかった」  白坂は蚊の鳴くような声で返事をすると我に返ったように手を動かし始めた。  席に戻った奏太は白坂を見て薄く笑った。死人みたいな顔をした白坂の顔がより白く見える。  彼とこういう関係になってから、奏太は学んだことがある。  相手を従わせるには、先手と不意打ちが効果的だ。  考える隙を与えずに追い込めば、相手が大人であろうが簡単に手のひらで転がる。  奏太は鼻歌を歌い出しそうな気持ちを抑え、教壇で冷や汗を拭う白坂を眺めた。 *     昼休みを告げるチャイムが鳴ると、食堂へ向かう生徒に紛れて体育館へと向かう。教室を出るときに一瞬、白坂と目を合わせて、プレッシャーを与えておいた。  体育館のトイレは屋外に取り付けられており、外からでないと入れない作りになっていた。体育館からは一度靴を履き替えないといけない上、寒くて汚いので、使い者はほとんどいない。土足で入るトイレはお世辞にも綺麗とは言えなかった。床は砂で汚れているし、便器までどこか砂っぽい。  ステンレス製の扉を開けた白坂は、入るなり顔をしかめた。 「まさかここでヤるなんて言わないよな」 「そのつもりだけど」 「お前……、エスカレートしてるぞ。まともじゃない」 「断れる立場だと思ってんの?」  入り口に突っ立ったまま、動こうとしない白坂を仕方なく迎えに行く。奏太が一歩踏み出しただけで、彼の肩が緊張でこわばったのがわかる。かといって逃げ出す勇気もない男のネクタイを掴むと軽く引いた。 「ほら、早くしないと昼休み終わっちゃうよ? 俺、チャイムが鳴ったからって終わらせるつもりないから」  そう囁くと観念したように彼の体から力が抜けた。ネクタイを持ったまま奥の個室へ誘導すると、まるでリードに引かれる犬のように大人しくついてくる。二人で個室に入ると、向かい合うだけで圧迫感があるほど狭い。鍵を閉めると彼のベルトを爪で弾いた。 「脱げよ。汚れたら困るだろ」  白坂は一瞬、眉を上げたが、大人しく従ってスラックスを脱ぎ始めた。露わになる。 「こんなこと……いつまで続けるつもりだ」 「飽きるまで」  こんな明るい場所で白坂の素足を見るのは初めてで、奏太は思わず見とれてしまった。白くて肌触りの良さそうな肉付きに喉を鳴らしてしまう。白坂は衣服を壁際に置いて、奏太の足元に跪いた。  口淫をはじめようとする彼の肩を押して、やめさせる。 「俺が(シャク)ってやるから、パンツも脱げよ」  お前が……? と、白坂の目が意外そうにこちらを見上げた。彼は少し迷った後、下着も脱ぐと便器に座った。

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