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*27.前と同じ部屋⑦

 奏太は少しでも奥で欲望を吐き出そうと、白坂と繋がったままぎゅっと後ろから抱きしめた。不快なはずの湿った汗と熱い体が奏太にはとても心地よく感じた。その首筋に顔を埋めながら満足そうに息を吐いた。  自分自身が彼の中でびくんびくんと跳ねながら、達しているのがわかる。我慢していた分、絶頂が長く感じた。 「は……シラマ……」 「ひっ……なんか、入ってくる……ッ、ぁ、いや……ふぁ……ッ」  違和感を感じた白坂が身をよじったが、奏太は許さなかった。最後の一滴まで彼の中で吐き出し、ゆっくりと引き抜いた。  抜く頃には抵抗もやめてぐったりと身を伏せていた白坂が肩越しに振り返る。まだ目が赤くぼんやりしていた。 「中出しされたの……? 俺……」 「そうだよ」  薄く笑って答えてやると、彼は無表情のまま自分の尻に手を回した。奥の方で吐き出したので垂れてはいないが、本人にはそれがわかったのだろう。心底嫌そうに吐き捨てた。 「マジかよ……、最低だ」  顔を歪めて毒づく彼を見ても不思議と何も思わなかった。  この顔を見るためにわざわざホテルに呼び出したというのに。  この時の奏太の中にあったのは、セックスに対しての深い満足感だった。今までのどのセックスよりも気持ちが良かった。  奏太が白坂に向けて手を伸ばしたのと、彼が備え付けのデジタル時計に視線をやったのはほぼ同時であった。 「なあ、シラマ……」 「ああ、帰らねぇと」  彼に向かって伸ばしていた手が止まり、奏太は言葉を途切らせた。 ――なあ、シラマ、今度いつ会える?  そんな言葉が口に出そうになったことに自分自身驚いた。復讐のために抱き潰して苦しめてやろうと思っていたはずなのに、これではまるで自分が白坂を求めているみたいだ。 「好き勝手やりやがって……」  奏太の内心の戸惑いなど気づくそぶりもなく、白坂はだるそうに体を起こしている。腕を縛ったままのシャツを取ってやると、無感情の瞳がこちらを射抜いた。 「なあ、お前、ちゃんと金あるのか?」 「あるけど」 「ホテル代、出さないからな」 「……わかってるよ」  最初から期待などしていなかったが、こんな風にはっきり言われてしまうと白けてしまう。彼からすればレイプも当然なのだから、当たり前といえば当たり前なのだが。  白坂は怪しい足取りでベッドから立ち上がるが、すぐにその場でへたり込んでしまった。小さな唸り声とともに彼の内股に白いものが伝ったのが見えた。 「大丈夫?」  奏太はとっさに彼の背中に手を添えるとその体を支えようとした。 「風呂場まで一緒に……」 「俺に触るんじゃねぇ」  白坂に添えようとした手はそのセリフとともに弾かれた。  わずかな隙もない硬い声だった。感情のこもらない瞳が奏太を映す。  ――お前とこれ以上関わりたくない。  その目はそう言っていた。  奏太が離れると、白坂はやはりふらふらとした足取りで、壁に手をつきながら、浴室へと消えていった。  彼の姿が消えると、先ほどの満足感も跡形もなく消えていた。  自分が傷つけたのだから、恨まれて当然だ。  頭ではわかっていても、心が追いついてこない。  こんなことをしておきながら、本当はもう少し普通に話がしたかったのだ。 「つまんねぇの……」  奏太はベッドに仰向けで寝そべると小さく呟いた。天井の模様が涙でぼやけるのに気づくと、誤魔化すように瞼を閉じた。  遠くでシャワーの音が聞こえる。彼は大丈夫だろうか。そう心配しながらも、さきほどの拒絶が頭から離れず、結局一歩も動けなかった。そして気づくと眠りに落ちていた。

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