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*35.警告②(白坂視点)
椅子の下にいる奏太は動きを止めてこちらを見ているようだが、表情が涙でぼやけてよく見えない。白坂は手を伸ばしねだるように彼のシャツを引いた。布を引くだけの緩い力だというのに奏太は立ち上がってこちらに引き寄せられた。白坂がその背中に手を回したところで、諦めたようなため息が聞こえた。
「あんたのそういうところ、本当狡いよな」
瞬きをして落とした涙が奏太の唇に吸われていく。そして直後に体内から白坂の敏感な場所を捉えて指で突いてきた。勝手に跳ねる腰を抑えるように陰茎を握り込まれ、先走りとオイルで濡れたそれが激しく扱かれる。逃げ場のない快楽に白坂は涎を垂らしながら、身悶えた。
「奏太……ぁ、アッ、もう……イく……ふっ……んんッ」
激しい快楽に逆らうことなどできず、白坂は身体を硬直させて絶頂した。
達する瞬間、奏太に唇を塞がれた。獣のような荒々しいキスだった。
自分がどこで何をしているかなど忘れて、夢中でキスをしながら快楽に身をまかせる。
引いていく絶頂の波の代わりに姿を現わした理性の砂浜。その砂浜に真っ先に浮かんだ疑問を白坂はぼんやりと考えた。
(こいつのセックス、なんでこんなに気持ちいいんだろう)
ティッシュを取る音が何度も聞こえてきて、夢の時間の終わりが見えた。
そして、それをどこか寂しげに思っている自分がいた。
奏太は窮屈そうなスラックスのベルトを緩めて、中から緩く立ち上がった自身を取り出した。そしてまだぼんやりとしている白坂の片手をとってそこに導いた。熱くなった陰茎が指先で触れると、ぴくりと動いた。
「もうちょっと付き合ってよ。手だけでいいから」
甘えるような声色だが、同意は求めていないようだった。奏太は白坂の手と一緒にそれを握り込むと緩く上下に動かし始めた。白坂も力を入れてやると、目の前の顔が嬉しそうに緩んだ。笑っているが、目は血走ったままだ。
「ね?」
奏太は同意を求めるように首を傾げる。その問いに答える代わりに、白坂はキスを受け入れた。唇を啄むようなゆっくりとした口づけのあと舌を絡め合う。緩い快感が心地よかった。
そんなぬるま湯のような快楽の向こうから、警鐘が聞こえてきた。
(このままだと、だめだ。早く……)
なんとかしないとと焦る気持ちとは裏腹に、手の中の奏太は大きく膨らんで、それに応えるように白坂も手を動かした。弾む息と苦しそうな顔を見ながら、強弱をつけて彼に奉仕する。やがて彼も絶頂を迎えた時、白坂も不思議な満足感に心を満たされていた。
そして直後に無視できないほどの焦燥感と後悔に苛まれた。
(何をやってんだ、俺は。早くなんとかしないと……戻れなくなる)
それは警告というより予知に近い。
このまま放っておくと大変なことになるに違いないという直感だった。奏太が手を洗いに席を立ったのを見計らって、白坂は真っ先にスマホを手に取った。
何通かのメッセージが届いていた。
白坂はその中の青木という男を開いた。
昨夜から何度かやり取りしている履歴が残っている。久しぶりだとか、最近どうだとか、どれも他愛のないものばかりだ。そして先ほど届いた青木の最新のメッセージを読んで、白坂は小さく笑った。
『誰かDK紹介してよ』
この男のこの言葉を引き出すためにわざわざ連絡を取ったのだ。白坂はまだ奏太が戻ってこないこと確認してから、素早くメッセージを送った。
『ちょうどいいのがいる』
そして、相手の返信を待たず、さらにもう一通メッセージを送った。
『やらせてやるよ』
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