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夜の街

 食事を終え、レストランを後にすると二丁目の街を二人で歩いた。一見ただの飲屋街だが、一歩脇に入ればディープなバーが軒を連ねている。  仲睦まじく手を繋いで歩く男性カップルを奏太が無遠慮な眼差しを送っていた。  きっと驚いているのだろう。同性の二人がカップルとして堂々と歩く世界があることに。  自分がこの街に初めて来た時もきっとこんな顔をしていたのだろうな。と、感慨にふけっていると、背後から無遠慮な声が飛んできた。 「マコ! マコじゃないか!」  振り返ると、明るく髪を染めた男がこちらに向けて手を挙げた。骨ばった痩せ型で、奇抜な服装をしている。 「青木……」  彼こそ、奏太を紹介するとけしかけた相手であった。  白坂は露骨に嫌な顔をした。彼とはここで会う予定ではなかったからだ。しかし彼は構わず話しかけてくる。 「ずいぶん、久しぶりだな。また遊びに来るようになったのか」 「今日はたまたまだよ」  素っ気ないこちらの返事も意に介さず、彼は視線を奏太に向けた。その視線には値踏みするようないやらしさが混じっている。 「デート?」 「わかってるなら、声かけてくるなよ」  はっきり言ってやると青木は耳元に顔を寄せて小声で呟いた。 「そう言うなよ。どんな顔か見ておきたかったんだよ。……なかなかいい子じゃん」  そんな言い草に気持ち悪さに鳥肌が立つ。硬直しているこちらを放置して、青木は「また飲みに行こう」と言い残して去っていった。 「仲良いの?」  白坂たちのやりとりを黙って見ていた奏太が不機嫌そうに呟いた。彼の視線は小さくなっていく青木に向けられている。 「別に。声かけられただけだろ」 「だって、マコって呼んでたし」 「まあ……、昔な」  白坂は苦々しく答えた。  誠だからマコという安直な名前を使っていたのは、若い頃だ。白坂はこの街で遊びまわっていた。あり余る性欲 を知らない男と散らし、その場限りの情事にのめり込んでいた時期があった。というより、結婚前までそうだった。  さすがにそれを教え子にしられたくはなかった。 「……マ……」 「お前は呼ぶなよ」  口を開こうとした奏太をぴしゃりと遮った。そして焦りを隠すように早足に歩き出した。 「さっさとホテル行くぞ」

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