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*二丁目のホテル⑤

 奏太はキスが好きらしい。何かにつけ口づけをねだってくる。一度口付けるとなかなか唇を離してくれない。探るように舌で撫でて突いて吸われる。ゆっくり侵食してくるようなキスに溶けるような感覚になる。自分の中に彼という異質が混じっていく。 「ふ……っ、んんぅ……」  腰に回された手は背中や脇腹をさまよって、快感からは少し遠いくすぐったさを運んでくる。その焦ったさに、仰向けに寝転ぶ彼に己の身体を押し付けた。  白坂の性急さに奏太は少し笑ったような気がした。その指が背筋をなぞって腰へと降りていく。尻肉を柔らかく撫でられると、期待にその奥がきゅっと締まった。強がる声がわずかにかすれた。 「……っ、早くしろ……」 「たまには俺のペースでやらせてよ」  焦れったい奏太の愛撫がとろ火で煮込むように白坂を溶かしていくのを知っている。  しかし、今はそれに身を任せるのが怖かった。今は吐き出すだけの即物的なセックスがしたい。  白坂は身を起こすと、奏太の動きを中断させた。 「ちょっとゴム取るから」 「俺はいらないけど……痛っ!」  冗談か本気かわからぬ言葉に、白坂は拳で奏太の頭を叩いた。 「アホ」  ベッドから降りると備え付けのスキンとジェルを手に取る。ふと、冷蔵庫に目がいって、ついでのように酒の入った瓶を取り出す。戻った白坂がベッドの上で酒瓶の封を開けると、奏太は不満そうに眉を寄せた。 「飲みすぎたら感覚鈍るって聞いたことあるけど」 「別にいいだろ」 「飲まないとやれない?」  見透かすようなことを言ってくる奏太を無視して白坂は酒をあおった。半分ぐらい一気に飲んでから口を離した。アルコールの熱が体内に広がっていく。 「……怖い?」  瓶を下ろした白坂の腕をそろりと奏太がなぞる。その瞬間、テーブル脇に置いていたスマホが音を立てて震えた。驚く白坂に、奏太が低く囁いた。 「シラマ、俺だけを見て」  ベッドに寝転がった奏太がまっすぐ白坂を見ている。白坂はその視線に捕まって逃れられなかった。視線を結んだまま、ゆっくりと酒を取り上げた。そして彼の指にかけられて下着を脱ぐ。一糸まとわぬ格好で、白坂は奏太にまたがった。  舐めるような視線で白坂の身体を這わせた後、奏太はうっとりと目を細めた。 「綺麗だよ、シラマ……」  奏太の言葉が身体の中を反響して白坂を満たした。  白坂は使い切りのジェルの封を切ると、自分の手のひらにそれを垂らした。奏太がそれを広げるように手を重ねてくる。ねちねちと重い水音を響かせてジェルまみれになって二人は指を絡めた。  目が合うと、奏太は薄く笑う。  再びスマホが震えたが今度は気にならなかった。窓の外から聞こえてくる車のクラクションと同じのようにどうでもいい雑音のように思えた。

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