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54.水族館①

 目的地の温泉街に着くと多くの乗客が席を立った。その人ごみに流されるようにして駅を出る。海沿いの駅前は年季の入った土産屋が並び、潮風が頰を撫でる。都心から一時間の場所なのに、随分遠くまで来たような気がした。 (なんか夢みたいだな)  隣で歩く白坂がいまだに現実感がない。会話はないが不思議と居心地がよかった。ガイドブックの地図を頼りに、徒歩五分の水族館へとたどり着く。  日曜日ということもあり、水族館の入り口は入場チケットを求めて行列ができていた。 「先に買っておいてよかった」  準備していた入場チケットを財布から取り出すと白坂はぎょっとしてこちらを見た。 「お前、チケットも準備してたのか」 「うん、混むと思ってたから」 「学生が無理すんなよ」  くしゃりと頭を撫でられた。周りにたくさん人がいるのに、そんな風にスキンシップをとってくるなんて驚いてしまう。  呆然と立ち尽くす奏太を放って白坂は先に歩く。その後ろ姿が少し照れてるように見えて、奏太は小走りでその後を追った。  水族館に来たのは何年振りだろう。  学校の行事以外で来たのは、小学生以来だと思う。館内の真っ青に染まった幻想的な空間に息を飲んだ。光に照らされた鮮やかな魚が巨大な水槽の中を悠々と泳いでいる。その光景に奏太はしばらく見とれていた。そんな奏太に白坂が声をかけてきた。 「水族館好きなのか?」 「うん。あんまり来たことないけど、来てみたかった。……シラマは? 水族館好き?」 「まあ、嫌いじゃねぇな。毎年のように校外学習で行くけど、不思議と飽きないし」  気に入ってくれたみたいでほっとする。  最初は物珍しさに目の前の水槽を必死になって眺めていたが、後半になってくると気持ちにも余裕が出てきた。すると一つ気づいたことがある。ガラスに手をついて魚を眺める奏太の一歩後ろから、彼の視線を感じたのだ。ガラス越しに見つめる彼は今まで見たことないほど優しい笑みを浮かべて自分を見ていた。しかし目が合うと、いつもの気だるそうな表情に戻ってしまった。それでもガラス越しに不躾な視線を送り続けていると、背後から頭を掴まれた。 「お前な」  呆れた声とともに、強制的に水槽に視線を向けさせられる。 「ちゃんと魚を見ろ」 「ごめん」  それでもにやにやしながら彼を見てしまう奏太に、ため息が聞こえた。並んで隣に立った白坂の顔を今度は直に眺めた。  青い水面に照らされた彼の横顔を目に焼き付ける。二度目の注意はなかった。白坂は奏太の視線に気づいているだろうが無視を決め込んだようで、素知らぬ顔で館内を回る。 「光る魚を見よう」と書かれたコーナーがあった。  先に行った白坂がビニール製の暖簾をめくって薄暗いコーナーの中を覗いた。 「おい、野田」  不機嫌な声で奏太を呼ぶと、白坂は先に中に入ってしまった。  そろそろ本気で怒られるかなと思いながら、その後を追った。

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