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26カラット~初舞台の音~

午後2時になる少し前 会場へと向かっていると 途中でフェルドとカルトが慌てている姿を目にした・・・ どうやら俺を探していたようで  俺を見つけると走って此方にやってきた 「ルーク王子!?お願いです!どうか!今日の試合・・」 フェルドが息を切らせながらそこまで言うと 「やめませんよ?昨日言いましたよね『黙って見ていて下さい』と・・・」 そこへ同じように試合会場に行こうとしていたスティンクが俺達を見つけ声を掛けてきた 「おお!これは!これは!ルーク王子!今日はよろしくお願い致します。こっちの騎士は今日ルーク王子のお相手をさせて頂きます。私の息子の【カイザー】でございます」 「ルーク王子とは一度、儀式の時にお会いしておりますが あの場ではご挨拶出来なかったので 改めてご挨拶させていただきます。私は第一騎士団団長を務めております【トーケル・スティンク・カイザー・メイ】でございます。本日は宜しくお願い致します。」 カイザーは俺の前に跪き挨拶をするとフェルドとカルトに顔を向けた 「おや!?これは驚いたな!今度の戦争まで、あと一ヶ月しかないと言うのに こんな所で団長と副団長がそろって遊んでいるとは!第七騎士団は もうあきらめて死を受け入れたのですか?しかし・・・それはいくら何でも一緒に行かれるルーク王子に失礼じゃないか?」 「なっ!?俺達はその戦争の為に今回参加してんだ!少しでも質の良い多くの武器なんかを揃えたいからな!その資金集めに来てんだよ!!」 「ルーク王子も第七騎士団と一緒だなんて同情いたしますよ・・・せめて私の第一騎士団と一緒ならば次の悪魔との戦争に勝利し・・もちろん王子も無傷でお城にお帰しする事が出来ますのに・・・」 「おい!聞けよ!」 フェルドが横でギャアギャア騒ぎ立ててるのも お構いなしにカイザーは俺の方を見てペラペラと話していた。 「えっと・・・第一騎士団の団長ということは、騎士の中で一番お強いという事ですよね・・僕なんかじゃカイザー様の足元にも及びませんが・・第一騎士団の団長さんとお手合わせ出来る貴重な機会なんて そうそう無いと思いますので、今日はカイザー様を見て騎士の戦い方を学(まな)ばさせて頂きます」 「(ほ~お・・・他の王子達とは、また毛色が違うな・・・)私もルーク王子のお相手が出来て光栄でございます。ところで・・・ルーク王子は剣の方はどうなのですか?他の王子達は3、4歳から専属の騎士に教わっていたようですが」 「ええ、僕も木剣を使って教えていただいてます。ただ・・剣の方は僕にはあってないみたいで・・・」 「ルーク王子には剣より光魔法の方のお力を伸ばしていってほしいですね。あれだけの光属性の力を持ったものは、そうは居(お)りません・・・それで?・・ルーク王子に剣を教えている騎士と言うのは・・まさか・・・」 カイザーはフェルドとカルトを見て言ったので 俺は首を横に振って答えた 「いえ、僕は騎士の方には教わってはいません・・・僕のお世話や教育のほうもすべて執事の方が一人でお世話をしてくれているので・・・剣の方もその人に教わっております」 「「「え」」」 俺の言葉に この場にいる三人の騎士の顔が驚きの表情に変わった  え? 俺なんか変な事言ったか?  俺はカイザーに顔を向けて首を傾げると、少し引きつった笑顔でカイザーがゆっくりと口を開いた。 「あの・・・お世話というと・・・まさかルーク王子は・・・ケルベロス様に剣を習っているという事ですか・・?」 ん?ケルベロス様・・・? あれ?ケルベロスって騎士より偉いんだっけか? 「え・・?はい、そうですが・・えっと・・どうかなさいましたか?」 そう言って騎士達の顔をみると  フェルドとカルトは何だか気まずそうな顔をしていて  カイザーは先程とは打って変わり忌々しいものを見るように俺を見た 「そうでしたか!あのケルベロス様に教えを受けているのでしたら 手加減など無用という事ですね!この試合!全力で行かせて頂きますので!では、私はお先に会場でお待ちしております!それでは失礼いたします!」 カイザーは投げやりな感じで言うと  そのまま踵を返して早足で去って行った  スティンクも俺に頭を下げて その後ろを慌てて追って行った。 俺は急にカイザーが豹変したので 訳が分からず呆然とその後姿(うしろすがた)を見送った後  フェルドに聞いてみることにした。 「あの・・一体どういう事ですか?」 「あ~・・それはですね・・・以前カイザーとケルベロス様は剣の勝負をしたのですが・・・ケルベロス様に呆気なく負かされて以来 彼はケルベロス様を恨んでるんです・・・まあ、自分から喧嘩吹っかけといてボロクソにやられてましたからね・・・」 「え!?勝ったんですか!?第一騎士の団長に!?・・・ケルって強かったんですね・・・知らなかったです・・・だけど、そんなに強いなら騎士になればよかったのに・・・」 そう、俺が言うとゆっくりと首を横に振り今度はカルトが答えた。 「いえ・・・あの方は、魔法も剣も恐らくはあの城で一、二を争うくらいの強い力をお持ちですが・・今はルーク王子に仕(つか)える為だけに、この国に留まっておられるので、それはありませんね・・・全てにおいて能力が高い故、国王が自分の側近にと何度もお声を掛けられたそうですが、ずっとお断りして・・ルーク王子のお世話を一人でしたいと国王にお願いされたそうです・・その条件に・・」 「カルトもう、そこまででいいだろ時間が無い・・ルーク王子・・貴方が傷を負って帰れば恐らくケルベロス様はお心を痛められるでしょう・・・それを見越してカイザーは死なない程度に王子を痛めつけるつもりなんです!今からお城へお連れしますので一緒にこの会場から出ましょう!」 フェルドが俺の後ろへ回り車椅子を押し始めたので 俺は慌ててそれを止めた 「えっ!?ちょっ!?待って!待って下さい!!お二人は僕が負けると思ってるんですね・・・ケルが勝ったのなら教えを受けている僕だってきっと大丈夫ですよ!それなりにやれると思います!それに考えてみて下さい、こんな子供に第一騎士の団長が大勢の前で負ける姿を・・・ちょっと面白いとは思いませんか?ケルに負け その報復をしようと僕をボロボロにして負かす筈が、車椅子に乗った たかだか4歳の子供に負けるんですよ?カイザー様が負けた時、どんな醜態を晒してくれるのか楽しみじゃないですか?あの人【プライド】高そうですし・・・それともし、お二人共この試合の賭けに参加する時は、どうか僕に全額掛けて下さいね!決して損はさせませんから・・・では、僕はもう行きますので観客席で見ていて下さい・・あ!それと、もし試合が終わってもカイザー様が僕に剣を向けてくるようでしたら その時は止めに入って来て下さいね」 俺は二人にニッコリ笑みを向け会場へと向かった。 「プラ・・ド?カルト今、王子は何が高そうって言ったんだ?」 「わからんが・・王子があれだけ自信を持って言ってるんだ、もしかしたら何か策があるのかもしれん・・・カイザーがやり過ぎだと思ったら試合の途中だろうが俺達が止めに入ればいいだけの事だ」 「オイオイ!いいのかよ行かせて!」 「うるさい・・・いいから俺達も行くぞ、俺は全額王子に賭ける・・お前はどうするフェルド?直接会って話をしてみて俺は第七王子が噂されている様な、役に立たない只の病弱な弱い子供だとは思えなくなった・・あの王子もしかしたら」 そこまで言ってカルトはクツクツと笑い出した。 「そんな楽しそうなお前久しぶりに見るな・・・そんなにルーク王子が気に入ったのか?じゃあ、俺もルーク王子に賭けるかな!さすがに全額は無理だが・・・」 そんな会話をしながらフェルドとカルトも会場へと向かった。 ---------------- 「さあ!ご注目!!お次の試合は何と!!?我が国最強の騎士と名高い第一騎士団団長!トーケル家のカイザー様と!我が国の第七王子で その小さな体には巨大な光の魔力を秘めておられると今!噂さのルーク王子でございます!!」 え・・・? 何?そんな噂が流れてんの? 誰だよ!俺の力をパアパア流してるバカは!! いや~・・・それにしても、こんな大舞台こっち来てから初めてだな こんな大勢に注目されるのは久しぶりだ あ~・・・こういう場所で思いっきり歌いてぇ・・・踊りてぇ・・・ 「しかし!今回の勝負は剣技ですので魔法は使えません!ルーク王子の剣の腕前を見る事が出来るのは大変貴重でございますよ!さあ!皆様はどちらに賭けたのでしょうか?結果は-----・・・おっと!?これは圧倒的でございます!皆様カイザー様にお賭けになったようですね!やはり、この国最強の騎士!大勢の方が期待されているようです!それでは!お待たせ致しました!お二人とも準備が出来たようなので、試合を開始して下さい!」 司会者の合図で試合が始まると、 それを待っていたかのようにカイザーは剣を抜き俺の方へと向かってきた。 俺も借り物の剣を抜きカイザーが振り下ろしてくる剣を受けた 暫くカイザーの剣を受けていて、まさかとは思っていたが・・・ 間違いない!! なんだ!?この騎士ビックリする程弱いぞ!!!? まだコイツは全力じゃないのかも・・・とも思ったが・・ この形相からして奴は本気で俺に斬りかかって来ている・・・ オイオイ・・・マジかよ・・・ こんなんで騎士のトップかよ・・・ガッカリだぜ・・・ん? 待てよ・・・?という事はだ・・・アイツらって・・・ 俺は最前列の観客席で此方に向かって 「何でこっちを見てる!?前!前を見て下さい!」 「危ないですからカイザーから一旦離れて!」 と、騒ぐ騎士二人を見て少し不安になった・・・ あれ…?来月の戦争って・・・もしかして結構ヤバイのか・・・? この男より弱い騎士二人と、その部下を引き連れて戦争って・・・ いや・・でも、もしかしたら悪魔って実はそんなに強くないのかもしれないし・・ ん~・・まあ・・ちょっと心配だから、出来る準備はしておいて・・・ あとは悪魔と戦いながら対処していくしかねぇかな・・・ 「何て事でしょう!!!これは!凄い!カイザー様の怒涛の攻撃を全てルーク王子が、かわしているー!!!」 あ・・・そうだった試合中だったな・・・先にこっちを対処しねぇとな! 司会の男の声で俺は今カイザーと勝負していた事を思い出し、 俺は両手で強く剣を握り横へと振り抜きカイザーの剣を弾いた。 カイザーの剣は思っていたよりも勢いよく飛んで観客席へと落ちていった。 カイザーは飛んで行った剣の方を呆然と見ていたので 俺はその隙にカイザーの顎の下に自分の剣先を突きつけた。 「っ-----!」 「おおっ!?これは勝負がつきました!!!ルーク王子です!ルーク王子の勝利!!この試合!なんと!!ルーク王子の勝利でございます!」 司会の男が俺の勝利を告げると観客席から歓声があがった。 カイザーはこの状況が信じられないかのように会場を見回したりスティンクの方を見ていたが  そのスティンクが両膝をついて頭を抱えている姿を見て カイザーは自分が負けたのだと・・・眉間に皺を寄せ、焦りの表情をした。 「い・・いや!これは!参りましたね、それだけ剣が使えるのでしたらルーク王子は将来立派な騎士になれますよ!」 カイザーが大きな声で俺に・・・と言うより観客席に視線を泳がせながら言った。 この後、恐らくカイザーは『子供だから』とか『王子だから』とワザと自分が負けてやったと、 この流れからすると言う気だろうが・・・ そうは行かねぇよ? 「カイザー様は第一騎士の団長なのに、とても弱いのですね凄くガッカリ致しました。この程度でしたらケルに手も足も出ずに負けたのが良くわかります・・・そんなに弱くて、この国を守れるのですか?」 「っ・・!何を・・」 「先程、将来立派な騎士になれると仰いましたが・・・僕は貴方のような騎士なら絶対になりたくはありませんね。だって弱くてカッコ悪いじゃないですか・・・そういえば前に実力ではなくお金をたくさん積んで騎士になっている方が居ると噂で聞いた事がありましたが・・・あれはどうやら本当だったようですね」 「・・・どう言う意味だ」 「貴方もお父上にお願いして、お金をたくさん払ってもらい騎士になられたんでしょ?ですが・・・第一騎士の団長になるには幾らくらい払ったらなれるんですか?良かったですね、親が貴族のお金持ちで・・・ああ、それとケルベロスには今後喧嘩を吹っ掛けないでもらえます?彼はとても忙しいので貴方の様な小物を相手にしてる時間はないんですよ」 「このっ!!!・・・ガキがっっ!!!」 俺が言い終わるとカイザーが俺に向かって蹴りを入れてきた、 その衝撃で車椅子ごと倒れ地面に投げ出された その後はカイザーに何度も強く蹴られた 「俺はなあ!第一騎士団団長に『実力』でなったんだ!!だから俺は一度だって負けた事なんてねぇんだよ!お前の執事の時も!今も手ぇ抜いてやってたに決まってんだろうが!!あんなのはお遊びだ!俺より強い奴なんていねぇんだよ!!」 「何をしてる!?やめろ!!カイザー!そんな事をしたら・・・グェッ!?」 スティンクが慌てて止めに入ったがカイザーに殴られノックダウンしてしまった。 スティンクを殴る時もカイザーは俺から目を離さず一心不乱に俺を蹴り続けていた。 「「ルーク王子!!!!」」 先程から声はするのに中々助けに入ってこないフェルドとカルトに目を向けると 観客達に揉まれて身動き出来ない状態だった。 うわっ~・・・使えねぇ・・・ まあ多少痛いが、あの二人が助けに来るまで我慢するか 傷は後で治せばいいし・・・って!? おい!?それはちょっと無理!!我慢出来る自信がねぇ!ってか死ぬ! 今まで蹴り続けていたカイザーが蹴るのを止めて俺が持っていた剣を拾い上げた 「散々好き勝手言いやがって!ぶっ殺してやる!!!」 クソッ!!仕方ねぇ!とりあえず剣をかわして反撃するか! カイザーが俺目掛けて剣を振り下ろそうとしたので避けようとしたら 俺とカイザーの間に夜が入ってきた。 「!?・・・あ!バカ何やってんだ!」 俺は咄嗟に夜の尻尾を掴んで思いっきり引っ張ると 夜はカイザーの剣の届かない場所まで転がって行ったが、 これ俺ヤベェ・・・よし!ここは真剣白刃取りだ!! 両手でパシッと取ってやるぜ!大丈夫!俺なら出来る!! 俺ならきっとやれる!!と自分に言い聞かせ、 かなり一か八かの選択をした時だった カイザーの振り下ろした剣を短剣で受け止めた男がいた・・・ それはフェルドでもカルトでもなく  この試合を進行していた男だった 「カイザー様、勝負はもう付きましたのでそれ 以上おやりになりますとお手持ちの札(ふだ)を没収、及び今後の【金幸際】への参加は出来なくなりますが・・」 「邪魔すんじゃねぇ!!!このガキをぶっ殺すまで待ってろ!札でも金でも好きなだけ持ってきゃいいだろーが!!今はこのガキを!!」 「では貴方は今後【金幸際】への参加を禁止、それと札の返却をして速やかにこの会場から出て行っていただきます。それから試合終了後の第七王子への行いは大勢のお客様が見ておられますので、今後の自分の身の振り方を考えたほうが宜しいかと存じますが・・・」 「なっ!?・・・・」 カイザーは今初めて事の重大さに気づいたようだ  こんな大勢の居る前で王子を試合が終わったのにもかかわらず 暴行を加えたわけなのだから、 本人だけならまだしもトーケル家にも処罰がいくかもしれない 第一騎士の団長にまでなったのに 解任もありうる。 そう思ったカイザーは悔しげに、そして少し焦りの表情をしていた 「っ・・・!クソッ!」 そう言って俺を睨み続けるカイザーにしかわからないように 『バーカ』と声には出さず口だけを動かし その後ベーと舌を出すとカイザーは再び暴れだしたが、 会場のスタッフに連れて行かれ退場した。 「助けに入るのが遅くなり申し訳ございませんでした」 そう言って俺の顔の前に手が差し伸べられた。 その進行役をしていた男の顔を間近でみて 俺はこの世界で初めて白髪の人間を見た・・・ 以前読んだ本に、この世界では 白髪の子供が産まれると縁起が良いと書かれていた。 眼鏡の奥の瞳の色は薄い黄緑色で 一見優男なイメージだが… なんか俺的にはこういう奴にあんまし関わりたくねーなぁ… それにしても、試合の時のアナウンスとはテンション違いすぎだろ。 まったく…意外なところから助け舟が出たもんだな… 「いえ、あの・・・助けていただいて助かりました、ありがとうございます」 そう言って男の手をとると「失礼致します」と男は俺を抱きかかえ 倒された車椅子を元に戻して俺を座らせた 「治療を行いますので 救護室までご案内させていただきます」 「あ・・いえ、自分で治療出来ますので大丈夫です・・・それより、あの・・この試合って・・・僕の勝ちでいいんです・・よね・・」 おずおずと聞いてみると 男はニッコリと笑みを向け答えた 「はい、ルーク王子の勝ちでございますよ、おめでとうございます素晴らしい試合でございました」 「あの!でしたら!僕はあそこに居る奴隷をこの試合で勝ったら貰えるはずなのですが・・・いただけるのは、いつでしょうか?このお祭りが終わってからですか?」 「あ、いえ試合の前に此方でトーケル家スティンク様から奴隷の鍵を預かっておりますので、こちらをどうぞ これであの獣の奴隷はルーク王子のものでございます。それにしても・・驚きましたよ、奴隷が人間の命令もなしに あんな行動をとるとは・・・長年ここの司会を務めておりますが、こんな事は初めてでしたよ・・・えっ!?ルーク王子!?口からだいぶ血が出ております!やはり救護室で治療なさって下さい・・これだけ酷い傷ですとご自分で治療するのは大変でしょう」 そう言う男に俺は車椅子をおされ、移動させられそうになった時だった 「「ルーク王子!!」」 フェルドとカルトが今頃現場に到着した・・・ それを見て俺は車椅子の後ろを振り向き男に言った 「あの・・・後はあのお二人に連れて行っていただくので大丈夫です・・貴方は自分のお仕事を続けてください。先程は助けていただいて本当にありがとうございました」 バタバタと騎士二人が駆け寄ってきたかと思うと 俺の前で二人とも膝まずいた 「お助け出来ず!申し訳ございませんでした!」 「あ・・いや、いいですから立って下さい」 そんな俺達のやり取りを見ていた男が車椅子から手を離し俺の横に立った 「では 後は騎士の方にお任せして、私は失礼させていただきます。ああ・・・それと今回のカイザー様の件で恐らく・・・いえ・・・どうぞこの後も金幸際をお楽しみ下さい。そしてまた来年も参加していただけるのを楽しみにしております。」 男は優しい笑みで俺に言うと騎士の二人に 「それではルーク王子の治療をお願い致します」 と男は去ろうとしたがフェルドが男を呼び止めた 「待て!カイザーの件の話が途中だったろ、何て言おうとしたんだ?」 「・・・いえ、まだハッキリ決まった訳ではありませんのでお伝えするのはどうかと思ったのですが、恐らく試合が終わったにもかかわらず攻撃を続けたカイザー様を直ぐにお止めすることが出来なかった我々にも非がございますので・・・特例(とくれい)としてルーク王子に謝罪として何かしらあると思うのですが・・」 「え!?あの・・僕は大丈夫なので特例とかは止めていただけませんか?」 「そうは参りません、私共の仕事の信用にもかかわりますので・・恐らくですがカイザー様の札の中身全額がルーク王子の札に入られるかと・・私の予想では思うのですが・・・まだハッキリとは・・」 「何故今回は止めに入るのが遅れた?今まではなかったんだろ?」 カルトが男に問うと男は困ったように答えた 「ええ、今まではこんな事は一度だってありませんでした・・ただ今回は止める役の係りの者が他の件で動いておりまして・・・カイザー様を止められそうな人間が司会役の私ぐらいしか・・・」 「全員居なかったってのか!?・・・止める役割の奴は毎年腕の立つ奴が20人は居ると聞いていたんだが・・全員他の仕事に行ってたってのか?」 フェルドが言うと男は溜め息をついた 「ええ・・・そうですね、正確には今年は18人いるのですがほぼ全員同じ件で出てしまっていて・・・」 「全員同じ件だと?おいおい一体何があったってんだ?」 「それが、どうやら昨日二人の男が暴れたらしく・・・係りの者が6人で押さえ込んでも逃げられてしまったらしいんです」 「まだソイツら捕まってねーのか?で?何したんだソイツら?」 「私が同僚から聞いた話だと、どうも参加者の若い男を追い掛け回しているらしくて・・・性的嫌がらせを受けていると 昨日、被害を受けている方から直接助けて欲しいと言われて係りの者が直ぐに取り押さえに行ったのですが・・・その中の4人が何があったのか、とても怯えていて仕事が出来る状態ではなくなってしまいまして・・・今もまだ医務室にいるそうです。その他の方達はまだ昨日の二人組みを探していると思いますが・・・中々腕の立つ二人のようなので、どうぞお三方もお気をつけ下さい。こちらも、お客様にこれ以上被害が及ばぬよう全力でその二人組みを捕まえますので」 「「・・・・」」 「・・・・」 その話を聞いた騎士二人がスッと俺の方を見たので、 俺はその視線から逃れるようにスッと顔を二人から背けた。 やべぇ・・・【若い男】ってもしかして俺か・・・? この騎士二人を撒く為に昨日受付に言いに行った俺の事か!? うっ!・・・そんな責める様な目で俺をみるな!ちゃんと弁解すっから! 「あ・・あの・・・多分その被害者は僕なので・・・係りの方達にもう大丈夫なので通常のお仕事に戻っていただくようお伝え頂けませんか?」 「?・・・えっと・・どういう事でしょうか?」 俺は男にこの騎士二人を撒くのと部屋を知られたくなかった為に 受付で嘘を付いたことを言うと男はため息をついた。 「スミマセン・・・」 「いえ、そういう事でしたらスグに係りの者に伝えなくては・・・ちょっと失礼致します」 男は複数の石が付いてる腕輪の赤い石の上に指を置いて それに向かって話し始めた 「男二人組みを捜索にあたっている者は自分の仕事に戻って下さい。被害のあった方に話を聞いた所間違いだったそうです」 男が話し終わるとフェルドが俺を見て苦笑いしながら 「まったく・・昨日は本当に参りましたよ、変質者扱いされて こっちの副団長さんがブチ切れて大暴れで止めるのに苦労しましたよ」 「なっ!?フェルド!お前だって2人殴り飛ばしてただろうが!俺だけが暴れたみたいに言うのはやめろ」 「まったく・・うちの係りの者が敵わないわけですよ・・・相手が騎士のお二人ではね」 フェルドとカルトを見て男が言った。 俺は3人に謝罪し今回の事は自業自得なので先ほどの特例とかは止めて欲しいと男に言った 「まあ、その件に関しましては私個人で判断する事は出来ませんので、後ほど上の者にお伝えしておきますが・・・あの、ルーク王子先程から気になっていたのですが・・・ずっと治療用の魔法を使っておられませんか?」 「え?ああ、はい・・・ですが中々治らなくて・・・」 「もしかして、ルーク王子は他人の怪我を治せても自分自身の治療は出来ない体質なのでは?」 「「「え!?」」」 驚いて俺とフェルドとカルトが目を見開いて男を見た 「私の知り合いにも、そういう方が何人かいるので もしかしたらと思いまして・・・」 「・・・本当ですか?ルーク王子」 フェルドが俺を見て聞いてきたので 俺は少し首を傾げながら答えた 「・・・あの、わかりません・・・治療魔法を自分に使うのは今回が初めてだったので・・・でも・・・そうですね、治らないところを見るとそうなのかもしれません」 「ルーク王子、私も治療魔法が使えますので私に王子の怪我を治させてはいただけませんか?この試合が本日最後でしたので、この後 私は大して仕事はございませんので」 「あ・・・いえ、これくらいの怪我でしたら その内自然と治るので大丈夫で「「「いけません!!!」」」・・す・・?」 この後・・・ 3人にちゃんと治療しろという内容でグチグチ言われ 面倒になった俺は夜を連れて自分の部屋で治療を受けることにした。

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