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23カラット~狼の音~
戦争まで後一ヶ月・・
俺は今【金幸際 】というのに参加する為
城の隣にある大きな建物に来ていた。
【金幸際 】とは、王族や貴族が年に一度集まり
自分の奴隷を戦わせたり賭け事をしたりして
一番賭けで稼いだ者に毎年国王から優勝商品の宝石が貰えるらしい…
毎年殆どの人が交流を深める為だったり
ただ賭け事を楽しんでお遊び感覚で来ている人達ばかりだったが、
今年は宝石よりも価値のある金 が貰えると言う事もあって
会場は熱気に包まれていた。
本来なら俺は呼ばれる事のない行事だが・・
次の戦争に参加する王子と言う事で一目 見てみたいと言う人が何人か居たらしく、
参加するようにと国王から手紙が届いた。
この会場まではケルベロスに馬車で送ってもらったのだが・・
まあ・・大変だったぜ・・最近ケルベロスは俺と一緒に戦争に行く為
寝る暇も惜しんで大量の仕事を必死でこなしている・・
今回の【金幸際 】行きも
「お一人では危険です!私もお供致します!」などと言って
ギャアギャアとこの話が来てから此処に着くまで ずっと煩かった・・
「ルーク様やっぱり私も・・」
「大丈夫・・挨拶がすんだらずっと部屋で寝てるから・・本も持って来たから3日間部屋から出ないで本読んでる・・それより部屋は余り人が来ない所にしてくれた?ケル」
「はい、会場から一番遠い建物の端のお部屋は毎年誰もお使いになりませんので大丈夫です・・それと食事も部屋の掃除などもお断りするよう手配しておきました。」
「ありがとう・・じゃあ行ってくるねケル・・仕事頑張って」
「ルーク様もお気をつけて、3日後の夕方6時にまた此処でお待ちしております。」
ケルベロスは左手を腹部に当て礼をすると再び馬車に乗った・・
「んじゃ!アゲハあと頼んだぜ!」
「はい!お任せ下さい!」
俺は留守の間アゲハにケルベロスに見つからないように
ケルベロスの仕事の邪魔をするように頼んでいた。
戦争にケルベロスと一緒に行ったらまた
「危険です!お止め下さい」などと言って煩そうだからな・・
「さて、どうするかな・・とりあえず泊まる部屋を見てみるか」
会場で貰った案内地図で自分の泊まる建物を確認すると此処からかなり距離がありそうだった。
「おや?もしかして、そこに居られるのは第七王子ルーク様ではありませんか?」
俺が声がした方に振り返ると杖を持った恰幅 の良い
いかにも金持ってそうな親父がこっちへ向かって歩いてくる。
「はい・・えっと・・」
「いやいや、これは急に声を掛けて驚かせてしまいましたかな?私はトーケル家の【スティンク】と言う者です、どうぞお見知りおきをルーク王子・・ところで・・お一人で来られたのですかな?」
「はい・・あの・・何か僕に御用ですか?」
「ハハハ!そんなに怖がらないで下さいルーク王子、私はただ貴方と話がしたかっただけなのですよ」
スティンクは俺に近づき右耳の後ろで一つに束ねていた俺の髪をその手ですくった。
「美しい・・クリストファー家の方は何故こんなにも美しい金の髪をしているのだろうね・・国王様に似て輝いていて本当に美しい髪ですね・・是非ルーク王子のお顔を拝見したい・・前髪をあげてもよろしいですかな?」
「僕の・・髪を褒めて下さってありがとうございます・・でも・・目に光が入ると痛むので・・その・・ごめんなさい・・」
「そうですか・・それは残念です 聞いていた通りルーク王子はお体が余り丈夫ではないのですね?」
「ええ・・今も余り体調が優れないので・・部屋で休もうと思っていたところです・・あの一つお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「はい何でしょう?」
「そちらの方は?」
俺はずっとスティンクの後ろに居る
金色の目に黒い髪が肩まである褐色の肌の色をした若い男が気になっていた・・
あの黒い耳と尻尾・・
首と両手両足には枷・・
俺は初めて人間と一緒に居る奴隷を見た。
「ああ!これは家で飼っている奴隷ですよ・・ルーク王子はご覧になるのは初めてですかな?」
「はい・・話には聞いていましたが・・見るのは初めてです・・あの・・もし、よろしければ其方の奴隷の方を暫くお借りする事は出来ませんか?僕はこの通り車椅子ですので・・扉を開けるのも一苦労なのです・・それに初めて奴隷の方を見るもので・・もっと良く見てみたくて・・駄目でしょうか・・」
「ハハハ!どうぞどうぞ!ルーク王子のお役に立てるのならば奴隷位いつでもお貸しいたしますよ!」
「本当ですか!ありがとうございます!スティンク様はお優しい方なのですね」
「いやいや!その代わりと言っては何ですが・・体調がよくなりましたら、是非私と賭けをして遊んではもらえませんか?ルーク王子」
「はい!もちろんです!では・・申し訳ありませんが、僕はそろそろ部屋で休もうと思いますので 失礼させていただいてもよろしいでしょうか?」
「おお!そうでしたな!体調が優れないところ引き止めてしまって申し訳ありません」
スティンクは後ろを振り向くと黒い獣の男に
持っていた杖で強く背中を叩き付けた
「オイ!お前!私が居ない間はルーク王子の命令を聞くんだ!くれぐれも失礼のないようにな!ルーク王子が帰れと言ったらお前は【奴隷置き場】で私が呼ぶまで待機していろ分かったな!…ではルーク王子、この奴隷は貴方の言う事なら何でも聞きますので、どうぞお好きにお使い下さい。必要なくなったら『奴隷置き場へ帰れ』と命令して下さればルーク様の前から居なくなりますので…それでは、私もルーク王子と賭け勝負をする時の為に たくさん稼いでおかなくてはなりませんので、これにて失礼させていただきます」
スティンクは俺に頭を下げると 会場へと戻って行った。
俺は黒い獣の男に地図を渡して
この部屋まで連れて行ってほしいと頼むと彼は地図を見ながら歩き出した。
暫くして建物に入り部屋の前まで来て男は止まった。
「えっと…そこが僕の部屋ですか?」
俺が尋ねると男はコクリと頷いた
「あの…扉を…開けていただけませんか?」
そう俺が言うと男は眉間に皺を寄せ少し困惑した表情をした。
そして俺を指差したあと 地図をピラピラ振り、手で四角を作って今度は扉を指差した。
ああ!なるほど…
地図と一緒に貰ったカードがないと開けられないって事か…。
会場に入る時に全員自分の名前と家紋が入っている札 を渡された。
賭け事をすると、そのカードに賭けの内容と現在所持している金額が表示されるようだ。
このカード…部屋の鍵の役目もしてたのか…
俺はカードを男に渡すと少し驚いた表情をしてたが
カードを受け取りドアノブの石にカードをかざすとガチャっと鍵が開く音がした。
男が扉を開けてくれているので急いで車椅子で部屋に入ると階段や段差が多いい部屋で
ベットはロフトになっていた・・・
ケ~ル~ベ~ロ~ス~!!
あの野郎!自分の仕事が終わらねぇからって!俺の部屋探し手ぇ抜きやがったな!
こっちは車椅子なんだぞ!あの野郎覚えてろよ!とケルベロスに対し怒っていたが
ふと振り返ると男は扉を開いたまま動かないので俺が部屋に入るように言うと
扉を閉めて俺の後ろまで歩いてきた。
「あの…お話をしたいのですが・・喋れますか?」
「ああ…話せるが、あのジジイの命令で喋る事が出来なかった…勝手に命令に背けば この錠の力で全身に激痛が走る」
「今は喋って大丈夫なのですか?命令違反になるのでは?」
「大丈夫だ…お前が俺と話したいと言ったからな・・アイツが居ない間はお前の命令を聞くように命令された…それより、お前は変わったガキだな・・普通は自分の持ち物を・・特に金の入った札を獣に渡すなんてありえない」
「そう・・なんですか?それより立ち話も何ですから座って話しましょう 今何か飲み物を出します・・か・・ら・・」
俺はそう言ってキッチンへ行ったが・・高い!・・手を伸ばしてもコップすら取れない・・・
俺は少し考えて黒い獣に全ての部屋の窓布 を閉めるように頼んだ
「言われた通り全部閉め終わったぞ、閉める事に何か意味あったのか?」
「まあな・・」
俺は黒い獣が閉め終わるのを待ってから車椅子を降り
踏み台を持ってキッチンで飲み物と果物を皿に乗せて机に並べソファーに座った
「ん?どうした?座って飲んでみろよ俺が作った紅茶意外といけるぞ!お好みでミルクと砂糖をどうぞ」
目を見開いてつっ立ったままの獣に俺が言うと
「お前・・どうして・・足・・それに喋り方も・・なんかさっきと違くないか?」
戸惑ったように黒い獣は言った
俺は車椅子に乗ってる経緯なんかを話すと
「そういう事か・・まあ・・何だ・・色々とお前も大変なんだな・・ところで・・お前さっきあのジジイには奴隷は初めて見るとか言ってたが・・実際はどうなんだ?」
「ん?いや・・奴隷を見るのはお前が初めてだが・・」
「ウソだな」
「いや、マジで」
「じゃあ何でお前から獣の匂いがするんだ?」
黒い獣は俺の隣に座り確認するように俺に付いた匂いをかいできた
「それは・・」
「お前も獣の奴隷がいるだろう・・それも少なくても3人はいるな・・厄介者の王子とはいえ・・さすが王族と言った所か・・こんなガキに随分力の強い奴隷を与えているみてぇだな・・匂いからでもわかる・・」
「あー・・そりゃ多分1人は間違いなくリオンだな・・けど奴隷じゃないな・・こんな枷してねーし」
俺は隣にいる黒い獣の手首の枷を指でトントンと叩いた
「リオン?」
「ああ、城の近くの森に住んでる金色のライオンだ・・知ってるか?一応・・獣の王らしいぞ」
「なっ!?獣の王!?お前!いくら子供とは言えよくもそんな嘘を!よく聞け!獣の王って言うのはだな、気高く強く美しい俺たち獣族の頂点に立っている獣だ!その身にある深紅の宝石の美しさ大きさに魅了されない者はいないと聞く!その姿を一目見るため捜し歩いて一生を費やした獣もいたらしい!お前の言っている獣は今俺が言ったのに当てはまってるか!?獣違いじゃないのか!?」
「あははは!!何それ!!超ウケんだけど!!リオンってそんなに獣達から崇拝されちゃってんのかよ!そういやー【ノアール】も最初はそんな感じだったけど・・今じゃ結構言い合ってるから忘れてたなー・・そうだな・・赤い宝石があるのは間違いないが・・気高い・・って言われるとな・・自信ねーな・・こないだなんか俺が唐揚げ作って持って行ったら私のぶん食べた!食べない!ってノアールと二人で揉めてたからな・・あいつ結構つまんねー事で切れるし・・ちょっと気高いとは・・う~ん・・」
【ノアール】とは竜に会いに行った時に会った黒い虎の名前である。
「まあ、そんな事より・・お前さ その枷外したい?」
「何をいきなり・・あたり前だろ」
「んじゃ外してやるよ・・ほら手よこせよ」
俺が獣の手首を掴むと黒い獣はとっさにその手を引いた
「何を馬鹿な事を言ってるんだお前・・この枷の鍵を開けるには あのジジイが持ってる鍵じゃないと開かねーんだよ・・」
「いや・・そんな事ねぇと思うけど・・ん?その首のだけ他のと何か違うな・・ちょっと見ていいか?」
俺は獣の返事を聞く前に獣の膝の上に座り
獣の顎を上に向かせ首の枷を調べた
「お・・おい!何やってんだ!お前!」
「おい!下向くなよ!見えねーだろーが!ジッとしてろ!・・チッ!前髪が邪魔だな・・オイ!手かせ・・そのまま押さえてろよ」
俺は獣の手を取り掻き上げた前髪をそのまま俺の額の上で押さえさせた
「あ・・何だカギ穴が四つ付いてるだけか・・・」
俺は無属性の力でピンを出して竜の時のように全属性のそれぞれの力を流し込みながら
鍵穴にピンを入れ4つ全ての鍵を開けた
「・・っと!あぶねぇ・・」
最後の鍵を開けた瞬間
首の枷が落ちてきたので俺はそれをとっさにキャッチした
「は・・?」
獣は俺が持ってる枷を見ると
自分の枷がはまっていた首を何度か確かめるように触っていた
「何をしたんだ・・・お前・・これは・・俺は・・夢を見てるのか?・・」
呆然としている獣に構わず 俺は他の手足の枷も外した
「よっと・・うわっ・・結構重いな・・」
俺は獣に付いていた枷を持って部屋の隅へと置いた
「おいおい・・嘘だろ・・?」
獣を見るとまだ信じられないと言う感じで
自分の手足を見ていた
「おいガキ!どうなってんだ!これは!」
「いや・・どうって言われても・・外したいって言うから外してやったんじゃん?」
「どうやって外した!あのジジイの持ってる鍵以外開ける方法なんてあるわけが・・」
「それは企業秘密です♪それよりさー・・獣の姿になってくんない?見たかったんだよね駄目か?」
「・・いや別にいいが・・普通、獣の姿は人間は嫌うから獣の奴隷は大体人型にさせられるのに・・お前は変わってるな」
「おお!お前!狼!?しかも黒の!うわっ!カッケーじゃんよ!おーヨシヨシ良い子だなー♪」
黒の獣が人型から狼の姿になったのを見て俺は黒い狼に抱きついて撫で回した
「子って何だ!お前のが子供だろうが!いい加減もう離せガキ!」
「おお!悪かったないきなり、それよりガキって呼ぶのはよせよ俺はルークだ・・お前も名前とかないよな・・とりあえず【夜(よる)】って呼ばせてもらうわ」
「おまえ!勝手に何・・!」
「で?夜は元々どこに住んでたんだ?」
「俺の話聞けよ!・・まあ・・もういい・・俺は【深紅の国】の森で暮らしていたが40年前に捕まって奴隷にされた」
「ん?あれ?【深紅の国】って・・・」
「ああ・・そうだったな確か【クリスティーン家】の第一王女はお前の母親だったな」
「【深紅の国】じゃあ・・ここから距離結構あんな・・お前一人で帰れるのか?」
俺がそう言うと夜は眉間に皺を寄せ
「お前・・何言ってんだ?まさか・・俺が此処から逃げてもいいって言うのか?」
「あ?夜こそ何言ってんだよ枷も外れたんだから もう自由だろうが とっとと自分の住処に帰ればいいだろうが」
「お前・・分かってるのか?俺が此処で逃げればお前があのジジイに疑われるぞ・・俺は奴隷の中でも珍しいほうの奴隷だからな・・これでもかなり高額の値段が付いたんだ・・それが居なくなったとなればお前が責任を負うことになるぞ」
「別にかまわねぇけど・・お前も変わった奴だな・・獣は人間嫌いだろうが それを・・俺の心配をしてくれるとはな・・俺の方は何とかなるからお前は気にせず自分の居た場所に帰ればいいさ」
俺がそう言うと夜は暫く黙った後 辛そうな顔で
「俺に居場所なんてねぇ・・自由になったところで黒い獣の居場所なんて・・!帰ったところで他の狼共からまた全てを奪われるだけだ!何でだ!何で俺だけがこんな色で産まれた・・!」
「俺はお前の黒い毛並みキレイだと思うけどな・・・」
「何を馬鹿な・・そんな訳ねーだろう!こんな色の獣!」
「俺の一番好きな色は黒なんだが・・さっき言ってた森に【ノアール】って言う黒い虎が居るんだけどよー・・まあコイツがすっげー人間嫌いで中々触らせてくれねーんだよ・・そんで毎回喧嘩になって俺傷だらけよ?・・だからさ・・行く場所がないなら森へ行けよきっと楽しいぞ!そして好きな時に俺に触らせろ!」
そう俺が言うと 夜は少し呆れたように笑い
「何だ?それは・・そんなにも触りたいのか?」
「おう!お前カッコいいし触れば癒されるぞ!黒い狼最高!」
「ははっ!お前は本当に変わったガキだな・・」
「それじゃあ森の場所を・・」
俺が話してる途中で扉ほうからカーンカーンと音がした
「何!?何の音!?」
「誰か来たみてーだ・・」
「げっ!マジで!?」
俺は大きな声で扉の向こうに居る人物に向かって「何か御用ですか?」と尋ねたが
返事が返ってこなかった
「無駄だ 此方の声も外の奴の声も聞えはしない 全ての建物の部屋がそう作られている」
「そうなのか?ったく!面倒くせぇな!よっと・・」
俺は急いで車椅子に乗り夜に窓から出て森へ行くように言ってから部屋の扉を開けると
この会場の従業員の服を着た男が一人立っていた
「第七王子ルーク様、お休みのところを失礼いたします。トーケル家のスティンク様から闘技場にて奴隷同士の戦いに参加する為 スティンク様の奴隷を連れて来るよう仰せつかりましたので奴隷のご返却をお願いいたします。」
「えっと・・・奴隷のかた・・ですか・・それなら」
俺が「奴隷置き場に帰した」と言う前に
俺の横を再び枷をはめた夜が通り過ぎていった
「え・・?」
俺がどうしてと言う視線を夜に送ると夜は少しだけ笑みを見せ
部屋から出て行った
「ルーク様お休みのところを申し訳ございませんでした。それでは失礼いたします」
バタンと俺の前で扉が閉まり俺は一人部屋の中で呆然と閉まった扉を見つめていた
「え・・?何であいつ・・まさか俺の為に・・?」
俺は夜が何故あんな行動をとったのか確かめるために闘技場へ向かった。
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