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30カラット~毒の音~1
俺の部屋へ入るとガードナー以外のメンツが俺の方を向いた。
「わっ!?」
急に車椅子を押していたカルトに後ろから抱き上げられ
高く持ち上げられた俺はゆっくりと後ろを見下ろすと
怖い目をしたカルトと目が合った
「ル~ク王~子~よくも俺を見捨てようとしてくれましたね~?」
「ルーク様!酷いですっ!私はルーク様とご一緒に戦場へ赴くため!今日まで頑張ってまいりましたのにっ・・・!私を国王様に売りましたね!?」
「ルーク様!私は国王様の仕事の手伝いをする為に、貴方のもとへ来たのではありませんよ!しかも!白髪である、この私を!よくもオマケ扱いしてくださいましたね!?私はケルベロス様のオマケではありませんよ!」
「ルーク王子!あんなに兵士を減らしてどうするんですか!?あんな人数で行ったら瞬殺されますよ!今からでも国王様のところに行って撤回して来て下さい!」
「ルーク王子!お願い致します!私も戦場へ行かれるよう国王様にお願いしていただけませんか!?必ずお役に立ってみせます!この命に代えましてもお守りすると誓いますので!」
カルト、ケルベロス、カール、フェルド、アルトが一斉に騒ぎ立てるのを
俺は面倒くせぇ・・・と思いながら聞いていた。
「ルーク王子!聞いているのですか!?」
ああ、カルト君やめて・・・酔いそう・・・
俺を前後にプラプラと高い位置で揺すらないであげて・・・
「何をしているのだ!お前たちは!先ほどから見ていれば何と無礼な!」
ガードナーがカルトから俺を奪い取り
俺はガードナーの腕の中へと移動した
「ルーク王子大丈夫でございますか?どこか痛めたところはございませんか?」
「はい、大丈夫です・・・でも、怖かった・・・です」
そう言って震えながらガードナーの首に腕を回し
ギュッと抱きしめスンスンと泣き真似をした
「まったく!恥ずかしくはないのか!?こんな幼子に大の大人が寄ってたかって!しかも、この国の大事な王子なのだぞ!」
ガードナーに叱られた全員が声を揃えて
「申し訳ありません・・・」と言うとガードナーは俺の後頭部を優しく撫でてくれた。
おお!このダンディな騎士優しいな!
へっ!怒られてやんのぉ、こんなイタイケな子供を苛めるからだぞ!馬鹿者共め!
「ガードナー様ありがとうございます、どうぞ其方の椅子にお座り下さい」
俺をそのまま抱きかかえてガードナーはソファーへと腰をおろした
「ケルは もう国王様の所へ行ってきて・・・8時までは帰ってきたら駄目だよ」
「え、ですが・・・あの・・・怒っておられるのですか?ルーク様」
「怒ってないよ、ただケルを国王様の所に行かせたいのは ケルに王様の仕事を覚えてもらいたいからなんだ・・・僕が国王になった時、困らないように ちゃんと王様がしてる仕事を覚えてきて・・そして、将来国王になった僕を助けてほしい・・・お願いできる?ケル」
「・・・っ!もちろんでございます!ルーク様!私を国王様の所に行かせるのには、そんな理由があったんですね!私の考えが浅はかでございました・・・それでは行って参ります!カール後の事は頼みましたよ」
感極まったようにそう言ってこの部屋をケルベロスは出て行った。
「貴方ならば、きっとよい国王になられますよ」
俺を膝に乗せているガードナーが微笑んで言った
「え?国王になんてなりませんよ?なれると思えませんし、なりたくもありません」
「え・・・ですが、今ケルベロス殿に・・・」
「ああ言っとけば彼が気持ちよく仕事に行けるでしょ?」
俺はそう言いながら前髪を上げてピンで留めながら言い
最後にガードナーに向かって「ねっ!」とニッコリ笑って言うと
若干引きつった笑みで「そ、そうですね」と彼は答えた。
「フェルドさんは兵士の皆様に戦場へ行かなくてよくなりましたよ、と急いでお伝えして来てあげて下さい。ご家族もきっとご心配なされているでしょうからね、あ!一緒に行く兵士30人は適当にフェルドさんが決めて下さい」
「あの、王子本当に兵士30人で・・・?」
「はい、幸運でしたね!兵士を大幅に減らせた上に資金は十分手に入り、僕自身も貴方がたの治療がとても楽になりましたからね!」
「そう・・・なんでしょうか・・・?」
俺の言葉に困惑しているフェルドがカルトにチラッと目線を向けると
カルトが顎を少し上げて「いいから、行け」と合図していた
「わ、わかりました それでは兵士に伝えてまいりますので失礼させていただきます」
フェルドが部屋を退室したのを確認してカールとカルトに声をかけた
「カールこの部屋の窓布(カーテン)を全部閉めてくれる?」
「畏まりました」
「カルトさんは僕の車椅子を持って来てもらえますか?」
「わかりました」
「アルトさんも此方へ、ガードナー様の隣にお座りください」
「はい、失礼いたします」
隣に座ったアルトとガードナーの顔を交互に見た
「顔も似てますが、眼の色が一緒ですね・・・とても綺麗な緑色です」
髪の色はガードナーが赤とアルトが金と違う色だが2人ともよく似た綺麗な顔立ちをしている。
俺の言葉にガードナーとアルトが互いに顔を見合わせ微笑むと
2人共俺を見て「「ルーク王子の方がお綺麗ですよ」」と声を揃えて言った。
ぎゃー!!何!?この美形親子コワッ!ここはホストクラブかっ!?
とりあえず、今すぐこの店で一番高いお酒持って来て!
「瞳の色がお母様によく似てとてもお綺麗です」
俺の目をジッと見つめ笑顔でアルトが言う
「それに、この髪も国王様譲りでしょうが・・・国王様よりも輝いていて美しい・・・私は今までここまで美しい金の髪は見た事がありません」
続いてガードナーが言った。
よし!わかった、この店の高い酒を全て持って来い!・・・って!もう破算するから、その顔で口説こうとするのは止めてちょうだい!
「ルーク様 全ての窓布、閉め終りました」
そこへカーテンを閉め終わったカールと車椅子をテーブルの横へ移動してきたカルトが来た。
「少し部屋が暗いですが、お2人にお話したい事があってここに来てもらいました」
「わかっております、ルーク王子・・・息子には私からよく言っておきますので」
「ルーク王子お願いします!どうか戦場へ私も一緒に連れて行っていただけませんか!?」
「アルトいい加減にしないか!」
「あ、いえ・・・その話ではなくてですね・・・別の用件があったのですが、あの・・・申し訳ないのですがアルトさんは戦場へ連れて行くことは出来ませんよ」
「何故ですか!?第一王子の専属騎士になって戦場に出る事がなくなった今でも!剣も魔法もフェルドやカルトには負けない自信があります!必ずルーク王子のお役に立ってみせます!どうか、お願い致します!」
「すみません・・・本当にこれ以上人数が増えるのは困るんですよ、なので諦めて下さいね」
「そ、そんな・・・」
俺が言うとアルトは俯き肩を落とした
「あ、それで本題なのですが、お2人のお家はどこでしょうか?」
「「は?」」
俺のいきなりの質問に2人はキョトンとした表情をしたが、ガードナーが慌てて答えた
「ああ、えっと・・・噴水広場の右の道を・・・と言っても王子は この城から出た事が無いから分からないか・・・えっと、そちらに居るカルトのノヴァ家の家と近い場所にありますが、何故そんな事を?」
「今夜、奥様と娘さんにお会いしてこようと思うのですが・・・お邪魔しても宜しいでしょうか?」
「会うって・・・え?ルーク王子がですか?」
「はい」
「それは、無理でございますよ 余程の事がない限り王子が外出など・・・」
「ルーク王子、タイラー家なら俺が案内できますよ?今夜何時ごろ来られますか?俺で宜しければご案内いたしますが?」
俺とガードナーが話していると俺達が座っているソファーの後ろでカールと待機していたカルトが俺に声をかけた
「本当ですか!助かります、では深夜1時に噴水の前でお待ちしていますので案内お願いできますか?」
「わかりました、それから直接見ていただきたいものがあるので ついでに家にも寄っていただいても宜しいですか?」
「はい、わかりました」
俺とカルトの会話を聞いて困惑した表情のガードナーが口を開く
「カルト何を言っているんだお前は王子がそんな夜更けにに外出出来るはずが・・・」
「それより、どうして家の母親と妹にお会いになろうとお思いになられたのですか?」
アルトの言葉に俺は少し険しい顔をして答えた。
「お2人の容体(ようだい)が心配なのです・・・」
「容体・・・で、ございますか?母は確かに病を患っておりますが・・・もう一人とは・・・」
「妹さんです」
「なっ!?そんな話は私共は知らされておりません!何故【ナディ】が!?どういう事です!ルーク王子!?」
顔色をかえたアルトが立ち上がり俺を見下ろし問い詰めてくる
「アルト!気持ちは分かるが少し落ちつかんか!・・・ルーク王子それは一体誰からお聞きになったのですか?」
ガードナーが少し俯いていた俺の顔を覗き込み俺を抱いている腕に力が込められた。
俺は金幸際が終わった後、タイラー家の事を【キング】から聞いたんだが・・・う~ん・・・
でも、さすがに地下に居るドラゴンから聞いたとか言えねぇよな・・・
「それは、今は言えませんが・・・そういう話が僕の耳に入ってきました・・・あの申し訳ありませんがお2人は少し僕が呼ぶまで退室していていただけませんか?」
カルトとカールに向かって言うと少し渋った顔をしたが「畏まりました」と言って2人は部屋を出て行った。
それを確認すると俺はガードナーの目を見て再び口を開いた
「国王様から薬をいただいていますよね」
「ええ、妻の事が国王様のお耳に入ったようで・・・良い薬があると定期的に薬を我が家へ送っていただいておりますが」
「それ・・・毒ですよ・・・そんなものを飲めば悪化する一方です」
「「―――毒っ!?」」
「そんな!馬鹿なっ!?っ・・・!何故そんな・・・毒?あの薬が毒だと!?では!今まで妻はっ――!」
「ガードナー様が国王の専属騎士になられる前に奥様はご病気になられたのですよね?」
「そうです・・・それで、良い薬があるからと・・定期的に我が家へ届けてくださると仰っていたので・・・私は専属騎士になることを了承したのです・・・その薬が!そんな・・・っ!まさか本当に・・・?医師だって何も・・・」
ガードナーは今だ信じられないと表情で俺に問いかけてくる
「奥様はご病気になられる前、何か王家の者から食べ物・・・口にするものを送られて来ませんでしたか?」
「そ、そんな物は・・・っ!ああ・・・そうだ・・・そういえば・・・果汁の入った高級なお酒をいただいたな」
「恐らく、それに最初の毒が仕込まれていたのでしょう」
ガードナーを見て俺がそう言うと、アルトが俺の肩を掴んできた
「そ、そんな・・・!?ですが!何故ナディ・・・妹までが!?」
「薬と一緒に何か送られているものはありませんか?」
「薬と一緒に?・・・っ!ある・・・この間、第一王子が薬と一緒に菓子も送ったと言っていた事があった・・・まさか、それにも毒が?ナディは・・・それを・・・」
「恐らく口にしてしまったんでしょうね」
「なんて事だ・・・何も知らずに私は・・・っ!」
「今まで何の為に耐えて第一王子に仕えてきたんだ・・・!俺は・・・っ!もし専属騎士を断れば妹に危害を加えると言われたから俺はっ――!それに了承すれば王家専属の医師を定期的に寄越してくれると言ったから!専属騎士になったんだぞ!」
2人は悔しそうに顔を歪めアルトの目には涙が浮かんでいた
「お2人とも顔を上げて僕の話を最後まで聞いて下さい」
そう言って俺の肩を掴んでいるアルトの顔と
俺を抱きながら俯いてしまっているガードナーの顎の下に手を置き、
前を向くように持ち上げた
「いいですか、今夜お2人の家に行き ご家族の容体を確認してまいりますので・・・僕の治療魔法で治せるようであれば治してきますが」
そこでアルトが俺の言葉を遮った
「無理です・・・ご存知ありませんでしたか?治療魔法は外傷しか治す事は出来ません・・・病(やまい)や毒などの治療は無理なんですよ、王子・・・」
「え・・・」
うっそ!知らんかった・・・
どうして今まで誰もルー君に教えてあげなかったの!?
それに!読んだ魔法用の本にも書いてなかったぞ!
でも!でもぉ!大丈夫だもんねー俺にはサラがいるしー!
食えねぇ女だが 一応あれでも『水の神』名乗ってんだ
本で読んだのが事実ならアイツの水なら病も毒も治せると思うんだよな
「あの、ではもし僕が国王様と同じように良い薬があると言ったら・・・どうされますか?僕はそれを飲めば治ると確信しているので今夜持って行こうと思っているのですが」
「・・・ルーク王子は何が望みなのですか、何か目的があるから私達にそのお話を持ちかけているのでしょう?」
「え?あ・・・いえ、たまたま貴方がたのお話を耳にしたので・・・助けられそうなら助けようかと・・・それにガードナー様とアルトさんはフェルドさんとカルトさんが尊敬している騎士のようなので、あの2人の為でもありますかね・・貴方がたの境遇を自分の事のように辛そうな顔をして語っていましたから」
「フェルドとカルトか・・・まったく、そんな慕われるほど立派な騎士じゃないぞ俺は・・・」
アルトが苦笑いしながら言った後、俺はもう一つ大事な事を聞くのを忘れていた事を思い出した
「あっ!それともう一つお聞きしたい事が・・・この国を捨てる覚悟はございますか?」
「「なっ・・・っ!?」」
「たとえ僕がご家族を治せたとしても、それを知れば王族はまた別な方法でご家族に危害を加える事でしょう・・・僕もこの国をその内出ようと思っています、こんな腐った人間が上に居る城なんて いつまでも居たくないですからね・・・その時で宜しければご一緒に僕とご家族を連れて国を出られますか?・・・貴方がたの実力ならば他の国でも仕事は直ぐに見つかると思いますし、家族一緒に暮らせると思うのですが・・・」
「国を・・・?」
ガードナーは少し迷った素振りをしていた
「ルーク王子もこの国を出られるのですか?」
「はい」
「では、俺はこの国を出る覚悟があります!もう、第一王子に従う意味などないからな!」
「・・・そうだな、私も家族が大事だ・・・今まで国王様の専属騎士になって家族を守れているつもりだったが・・・今度こそ家族の側に居て守りたい、もし・・・っ!本当に妻の病が治るのならば・・・そして妻と娘もこの国を出ると言ったら・・・っ!その時はどうか!私たち家族も一緒にルーク王子と共に・・・!お願いします・・・っ!」
ガードナーは薄っすらと瞳に涙をためて俺の手を両手で祈るように包み込んだ
「もちろんです、奥様と妹さんに今の内容をお知らせするのに、僕が言っても恐らく信じてもらえないでしょうから お2人から手紙を書いていただいても宜しいですか?今夜その手紙を僕が直接持ってご家族の居る家へ伺います、だけどご家族が手紙を読まれたら その手紙は申し訳ないのですが此方で処分させていただきます・・・」
「なるほど、わかりました書かせていただきます」
「私も書きます!一緒に妹に渡して来ていただいても宜しいでしょうか王子!」
「ええ、後で僕が廃棄しても宜しいのでしたら一緒にお渡ししてきますよ」
俺はガードナーの膝の上から降りて車椅子まで歩いて宝石から書くものを出してテーブルに置いた。
「え・・・な・・・に?」
「・・・歩けるのですか!?ルーク王子!」
ガードナーとアルトが俺がいきなり歩き出したので驚いていたが理由を言ったら
納得した様子でその後、2人ともカリカリと真剣な面持ちで手紙を書いていた。
俺はその間に紅茶の用意をする為
宝石から俺が以前無属性で出したティーセットを一式出した。
この世界には取っ手が付いたマグカップはなかったが
部屋にある食器棚には俺では手が届かない為、それを2人に出した・・・
しばらくすると、手紙を書き終わった2人が満足げに俺に手紙を渡してきたので
車椅子についている宝石に仕舞う。
「これは、変わった形の容器ですね・・・ほう、湯呑と皿が分かれている」
ガードナーがカップを持ち上げて言った。
この世界では 熱い飲み物の入れ物には容器が熱くても持てるよう
コップと下の皿がくっ付いていて、飲む時は下の皿を持ち上げて飲むのが普通だ。
俺は簡単に摘めるようにクッキーとマカロンとチョコの3皿を出した後
向かいのソファーに座り自分の分のカップを持ち上げた
「この取っ手を持って飲むんですよ」
「なるほど・・・おお、これは美味(うま)いですな・・・」
「前にもいただきましたが、本当に美味しいですねルーク王子の紅茶は」
この国の紅茶は葉や花びらを潰してお湯に入れたり
お湯に果汁を入れたりして飲むのが紅茶らしい・・・
貴族などは果物や花を丸ごと入れたり花びらを浮かべたりして飲んでいるみたいだが、
俺はこの紅茶が苦手で食後に出される紅茶を毎日時間をかけてチビチビ頑張って飲んでいる。
残すとケルベロスの小言を聞くはめになるからだ。
「お2人とも、この国を出るまではどうか国王様や第一王子に悟られないよう、お願い致しますね」
「わかっております、この事が知られれば私達家族の命も危ういですからね」
ガードナーが心配そうな顔で俯いた
「ああ、命の危険はないので安心して下さい、余り気を張られていては逆に気づかれてしまう恐れがありますので普段通りでお願いしますね」
「命の危険がない?・・・何故そう言いきれるのですか?」
「貴方がたの事は僕がお守りいたしますので安心なさって下さい・・・ですが、不安なのは分かりますよ・・・こんな子供に出来る事なんてたかが知れてますもんね」
「いえ、そんな事はありません!王子が今日私共にお教えしてくださらなければ、家族が苦しんでいるのに気づかず失うところでした・・ですが・・・たしかに、不安がないわけではありません・・・この事が明るみに出た時、大勢の騎士や兵士達に取り囲まれる状況を想像すると・・・私達では到底太刀打ち出来ませんからね」
ガードナーは苦笑いしながらアルトを見る
「そうでしょうね、貴方がたでは太刀打ち出来ないかも知れませんが・・・僕はこの城の騎士と兵士全員を相手にしても勝てる自信はありますよ?」
俺がそう言うと二人ともあんぐりと口を開きアルトは「ご、ご冗談・・・ですよね?」と引きつった笑みを浮かべた
「お2人とも此方へ来て下さい」
俺は部屋の中央の広い場所へと2人を連れて来た
「お2人とも僕を捕まえてみて下さい」
「「え・・?」」
「信じていただけないようなので、少なくてもお2人より強い事を今ここで証明してみせます、剣を使いたかったら斬りかかってきても宜しいですよ」
「そんな事出来ません!貴方を傷つけるなど・・・!」
「では、アルトさん捕まえるだけでいいので どうぞ掛かって来て下さい」
ゆっくりと俺との距離を縮めて勢いよく俺に伸ばしてきた腕を払い落とし
そのまま床へと投げ飛ばした
驚いた表情の2人だったがアルトが勢いよく起き上がった
「ルーク王子!もしや貴方は普通の人より腕力が強いのではないですか!?」
「へ・・・?ああ、そうですね強い方だと思いますよ?」
「やはりそうでしたか!」
何故か投げ飛ばされたアルトが嬉しそうなので、わけが分からず俺は首を傾げた
「貴方のお母様、グローリア様も寝台を片手で持ち上げてしまう程力持ちだったのですよ、ルーク王子はそれをシッカリと受け継いでおられたのですね!」
え~・・・なんだぁ・・・ただの母親の方の遺伝だったのかよ・・・
俺の天性の才能とかじゃなかったのかぁ、ちょっと残念
「それより、お2人で掛かってきてはどうですか?」
その後ガードナーとアルトが俺を何とか捕まえようとしていたが
その場から殆ど動いていない俺を2人は結局捕まえられなかった
「アルト様は全然足が動いてない上に、体力不足です・・・ガードナー様は次の攻撃に移る時の立ち上がりが遅いですね」
床に這いつくばる2人を見て駄目だしをする。
「はぁ・・・これは、参りました」
「ハァ・・・ハァ・・・信じられない、父さんと組んでるのに まったく勝てる気がしない・・・完敗です」
ガードナーとアルトはそう言うと暫く動けずにいた。
そこへ扉の外で待機していたカールとカルトが部屋へ入って来た。
恐らく最後俺がアルトを扉に投げ飛ばしたから、その音を聞きつけて入ってきたのだろう
「何ですか!?今の音は!?大丈夫ですかルーク様・・・!ん?・・・アルト様・・・どうされたのです?そんな所にお座りになって」
扉の横の壁にもたれ掛かっているアルトを見つけカールが声をかけた。
「これは・・・一体何をしていたんですか?」
俺の側で床に座っているガードナーと 扉の近くで座っているアルトを見てカルトが言った。
「フェルドさんとカルトさんがお2人は強いって仰っていたので、どれ程お強いのか見てみたくて、お2人に手合わせをしてもらったのですが、本当に凄かったんですよカルトさん!ガードナー様がアルト様をあそこまで投げ飛ばしたんです!」
俺は扉の横に居るアルトを指差してガードナーに顔を向け最後「ねっ!」っと言うと
ガードナーは俺の意図を察してくれたように答えてくれた
「え・・・ええ!アルトもそこそこ腕をあげていたが、まだまだ詰めが甘いな!」
「まだ、今の俺では父さんに勝つのは無理なようだ」
アルトも苦笑いでそう答えた。
「ちょっ!?ルーク様!どうして立っているんですか!?やたらと歩きまわっては いけません!他の者に見られたら どうするんですか!?もっと慎重に行動なさって下さい!」
俺が自分の足で立って居るのを見たカールが扉を急いで閉めてから俺の元へ早足でやって来て抱きかかえた。
「まあ、そんな心配しなくても その2人なら見られたって大丈夫だろう・・・王子だってそう思ったから その2人の前で歩いたんだろうよ・・・ところでルーク王子、この色とりどりの丸いコレはもしかして・・・甘い菓子ですか?」
カルトが目ざとくテーブルのマカロンを指差してギラギラとした瞳で俺に問う。
「ええ、宜しければどうぞ・・・」
そして、勢い良く食べ出したカルトを見てガードナーとアルト、カールが慌てて席に座り4人でお菓子の争奪戦をしていた。
「コラ!食べ過ぎだカルト!王子が俺と父さんの為に用意して下さった菓子だぞ!少しは遠慮しろ!」
「アルト!お前もだ!両手にそんなに持って!行儀が悪いぞ」
「そう言うガードナー様もお皿を抱え込まないで下さい!私にもそのお菓子を食べさせて下さい!」
アルト、ガードナー、カールのそんな声を聞きながら俺はカールの膝から降り
カールとカルトの分の紅茶を入れて俺も一息付こうと思いソファーに座ると
今度は兵士に伝え終わったと報告に来たフェルドが帰って来て、お菓子を食べていた4人を見つけ
「あ!ズリィ!カルト!俺の分は!?」
そう言いながら此方へ歩いてくるフェルドにカルトは一度も視線を向けずに
急いで最後のチョコとマカロンを口に入れ終ると
「もう、無い」と一言いうとユックリとした動作で紅茶を飲んだ。
フェルドはカルトに詰め寄りカルトに文句を言っていたが
まったく何を言っても動じないカルトを諦めて
今度は俺に泣きついてきたので俺は再び新しいお菓子を出してやったのだが
何だか まだションボリしているフェルドに、俺が作った夕飯を食べて行くように言うと機嫌が直った・・・
ガードナー、アルト、カルト、カール、フェルドの5人とケルベロスが帰ってくる前にと少し早めに夕食をすました後
カールを残して全員が帰って行った。
「今夜、街へ行かれるのですねルーク様」
「うん」
「今回はカルト様がご一緒のようですが、くれぐれもお気をつけて いってらっしゃいませ」
「・・・へぇ~」
「何です?」
「カールの事だから一緒に行くって言うかと思った」
俺がそう言うとカールは少し困ったように笑みをこぼした
「恐らく私が一緒に行ったら貴方がお困りになるでしょうし、止めたところで素直に言う事を聞くような方では無い事くらいわかっております・・・ですから、せめて私の幸運だけでもご一緒に・・・」
「へ?」
カールがニッコリと笑顔で距離を詰めてきたので
車椅子をバックして逃げようとしたのだが
アッサリ捕まり目の前にカールの顔が来た時点で
まあいいか・・・と逃げるのを諦めカールのキスを受け入れる事にした。
「んっ・・・やッ・・・!カールっ・・・ダメな・・・のっ・・・まって・・・」
俺は少し甘えた声でカールにそう言えば
カールは俺が本当に嫌がってない事を悟り
嬉しそうに俺の口に指を入れ開かせようとした
「ふふ、どこが駄目なんですか?そんな顔をして・・・私との口付けが気持ち良いのでしょう?さあ、もっと口を開いて私を受け入れて・・・」
「カール駄目・・・・・・だって」
俺はニヤリと笑みを浮かべると扉に目を向けた
「だって、ケルが見てる・・・」
「え・・・?」
カールが恐る恐る扉に目を向けると冷たい表情で此方を見ていたケルベロスが立っていた
「カール・・・貴方ルーク様に何をなさっているのですか?」
「っ・・・!?けっ・・・ケルベロス様!?これはっ!お帰りなさいませ」
慌てて俺から距離をとり、引きつった笑みでカールはケルベロスに向かって言うと
再び不機嫌な顔をしたケルベロスが少し強い口調で言った。
「カール!答えなさい!ルーク様に一体何をなさっていたのですか!」
ふふん、カールよ存分にケルベロスに説教されるがいいさ!見たか!これぞ我が家に代々受け継がれし秘儀!『天国から地獄へいらっしゃ~い♪の刑』だ!
・・・さて、カールで程(ほど)よく遊んだ事だし
良い子のボクはもう寝る事にしましょう
「ケル、僕眠い・・・」
「これは、失礼致しました。そうですね もうこの時間ルーク様はいつもお休みになられている時間帯ですからね・・・それでは、私共は失礼させていただきます。お休みなさいませルーク様、カール貴方にはお話があるので一緒に来なさい」
「は、ハイ・・・お休みなさいませルーク様」
ケルベロスに素早くハンカチで口をフキフキされた後ベットに寝かされた。
そして、2人が出て行った今の時間は夜8時20分・・・
まだ、カルトとの約束までには時間があるので少し睡眠をとる事にした。
俺はアゲハに12時になったら起こすように言ってから眠りについた。
・・・・12時になり俺がアゲハに起こされツバキの衣装とメイク道具を石から出そうとした時だった
扉の開く音がして、俺は急いでベットへ潜り込んだ
こんな時間にノックも無しに誰だ?
侵入者が俺が居る寝室のドアを開き
徐々に此方へと向かって来る足音に俺は警戒していた。
すると足音が俺の側でピタリと止まり、暫くしてベットがギシリと音を立てた
寝たふりをしているので部屋に入って来た人物がわからない俺にアゲハが耳元でヒソヒソと耳打ちしてくれた。
「金の髪に青い瞳の若い男性です。高価な装飾品をたくさん着けているので多分相当偉い方だと思います・・・この人ずっとルークの顔を見てます」
特徴からして思い当たるのは国王・・・か?
だが、何故国王がいきなり俺の部屋へ?
・・・って!待て待て今一体何時だ!?
もういい加減時間経っただろうが!
何かアクション起こすなり、部屋から出て行くなりしてもらわねぇと!カルトちゃんとのデートに遅れちゃうじゃない!
着替えもメイクもまだ、すんでないってのに!
俺がイライラしていると、俺の額に触れ顔に掛かっていた前髪をゆっくりと払われた
今度はその手が俺の頬を撫でると
その人物が小さな声でグローリアと呟いたので俺は国王だと確信した。
とにかく早く出て行けと思っている俺を裏切り
国王はゆっくりと掛け布団を捲り何と隣に横になり俺の体を抱き寄せた。
何で一緒に寝ようとしてんだ!コイツはよ!
流石にもう起きてもいいだろうと俺はゆっくりと目を開けて相手の顔を確認したらやはり国王だった。
俺は急いで枕元に置いてあったケルベロスとカールを呼ぶ石を握り思いっきり振りながら大声で叫んだ
「やぁぁぁー!!!!誰!!?ケルー!カール!早く来て!助けてーー!怖い!殺されるーーー!!!」
「っ・・・!?待てっ・・・!落ち着け・・・っ私だ!」
いきなり大声で喚き散らす俺に驚いて国王が慌て出した
そこへ、部屋に入って来たケルベロスとカールの声が聞こえてきた。
「―――なっ!?鍵が開いている!?どういう事ですか!?まさかっ!ルーク様に何か・・・!?」
「何があったのですか!?ルーク様・・・ケルベロス様!寝室です!何者かが部屋に!ルーク様の寝台に・・・!」
「カール!早く明かりを点けなさい!」
「はい!すぐに!」
声と共にバタバタと2人の走る音が止み明かりが点くと
ケルベロスがその人物を見て驚きの声を上げた
「なっ!?こ・・・国王様!?何故ここに!?」
「・・・そんな事より、これをどうにかしろ!煩くてかなわん!」
ケルベロスとカールの名を叫び続けている俺に国王は不機嫌な表情をしていた。
「ルーク様、もう大丈夫ですよ さあ此方へ」
カールが俺を抱き上げたがケルベロスが冷たい声でカールへ言った
「カール、その手を今すぐ離しなさい・・・先ほど言った事をもう忘れたのですか?貴方はもう二度とルーク様に触れてはならないと・・・!さあ、ルーク様此方へ」
「いや!ケル早く何とかして僕は寝たいの!」
そう言ってカールの首にしがみ付いた。
俺はカールの耳元で今何時か聞くと
カールは自分の持っている懐中時計をチラッと見て12時45分前だと教えてくれた。
うわっ!?もう完璧に待ち合わせ時間に間に合わねぇ・・・
「しかし、何故国王様が貴方の寝室にいらっしゃるのですか?」
「わからない、寝てたら入って来た」
俺とカールがヒソヒソと話していると
ケルベロスにしては珍しい怒鳴り声が聞こえてきた。
「国王様!一体ルーク様に何をなされたのですか!?」
「私は何もしていない」
「一体ここへ何をしにいらっしゃったのですか!?ルーク様に御用がある時は私共に言って下さらないと困ります!いきなり来られたのでルーク様が怯えているではありませんか!」
「何故自分の息子に会いに来ただけだというのに、お前達にワザワザ報告などせんといかんのだ そんな面倒な事をこの私がする訳ないだろう・・・私はただ馬車は色々と種類があるからな、どのような物が良いのか聞きに来ただけだ」
「こんな夜更けにですか?」
「・・・そうだ何か悪いか?で?第七王子どのような馬車が良いのだ?色は?装飾品はどれほどつけたいのだ?」
煩いと言いたげな顔でケルベロスを睨み付けた国王が今度は俺の方を向いて聞いてきた
「え?あの・・・お風呂が付いていたら何でも良いので、それ以外は適当でかまいません」
「・・・そうかわかった、では私は戻る・・・」
そう言って国王は俺の部屋を出て行った。
その後、ケルベロスとカールも俺の寝室を出た後何やら隣の部屋で2人で話してから俺の部屋を退室して行った。
俺は急いで着替えメイクを済まし 窓から出て街へと向かった。
アゲハはいつもの様に「俺も頑張りますね」と言って見送ってくれていたが
俺はアゲハに言い忘れていた・・・
もうケルベロスの仕事の邪魔をしなくてもいい事を・・・
スマン!アゲハ!その説明をしてる時間が今の俺にはないんだ!だって!もう、1時過ぎちゃってるーー!
何とか【キイの街】へ着いた俺は走って噴水へと向かった。
キャー!大変!遅刻!遅刻~!!とりあえず小腹が空いたので定番の食パンを咥えて走ってた。
ちなみに一枚ではなく一斤である。あれ?これって誰かとぶつかったりするんじゃなかったっけ?
そんなフラグを立てたからか俺は曲がり角で何者かにぶつかった。
「おっと!?」
ぶつかった拍子に飛んで行ったパンをすぐさまスライディングキャッチ!
俺は例え怪我をしても絶対にパンは落とさん!
でも、スカートだったから膝擦り剥いたー!ちょっとイテェ・・・クスン。
「おい!」
ああ、噴水まで後少しだったのに・・・カルちゃん怒ってるかな・・怒ってるだろうな~・・・
だって、もうすぐ2時になっちゃうよ・・・
「おい!コラ!餓鬼!イテェじゃねーか!この俺にぶつかっておいて只で済むと思うなよ!」
何だよ!こっちは急いでんのにさっきからウルセェな!
見ると4人の男が立っていた
「餓鬼がこんな時間にうろついてるって事は売りかお前?おら!顔見せろ!・・・おっ!?こりゃ驚いた!最近【歌姫】って呼ばれてる餓鬼じゃねーか?コイツ!」
「本当かよ!?俺達ついてんな!いいもん拾ったぜ!」
「ほら!一緒に来いよお姫さん、俺にぶつかった侘びにちょっと付き合えよ」
「おい!次俺達にもまわせよ?」
俺が腕を引かれ連れて行かれそうになった時だった
「おい、邪魔だ・・・待ち合わせ場所に来ないと思ったらテメーらが邪魔してやがったのか、その手を今すぐ離さねぇと痛い目を見る事になるぞ、とっとと失せろクズ共!俺は今機嫌が悪いんでな手加減してやれんぞ」
カルトの登場に男4人はすぐさま俺から手を離し距離をとった。
男達は「カルトだ・・・」「ノヴァ家のカルトだヤベェよ」「行こうぜ!殺されるぞ」「おお、そうだな」と行って逃げて行ってしまった。
カルトは俺の前まで歩いて来ると冷たい表情で見下ろしてきた。
あ、やっぱり怒ってる?
カルトは軽く舌打ちをした後スタスタと歩き始めたので
俺はその後について行ったのだが、カルトの歩くスピードが早すぎて俺は再び食パンを銜えて走る羽目になった。
暫くして分かれ道にあたった所でカルトが振り向いた
「遅い」そう一言言うとカルトは俺を抱き上げ歩き出した。
俺はやっと落ち着いて食パンが食べれると一斤の食パンを両手に持って食べ始めた。
「お前、あっ・・・いや、ルーク王子さっきから何を食べているんです?」
「ちょっと、この格好をしてる時は王子って言うの止めて下さいよカルトさん!」
「ああ、そうでしたね」
「敬語も駄目ですよ、今まで通りにしていただかないと困ります!」
「いや、だがそれは・・・」
「ほら、いつも見たいにツバキちゃん♪って呼んで見て下さい」
「嫌ですよ!俺は今まで一度だってそんな風に呼んだ覚えはありません!」
「でも、本当にツバキに対して、そんな態度だと今後困るんですけど」
「・・・わかりました、ではルーク王子俺からもお願いがあります」
いや!わかってねぇじゃねーか!さっそく王子って呼んでんじゃねーよ!
「何ですか?」
「次の戦争が終わったら俺は貴方の専属騎士になるんですよね」
「ええ、そのようですね・・・不本意ですけど」
「何言ってんだ、あの時あっさり俺を見捨てようとしたくせに!俺がああ言わなかったら最悪の事態になっていましたよ!」
「ですが、カルトさんは専属騎士は嫌だって言ってたじゃないですか」
「第一王子の騎士になるよりは何倍もましだ、お前はかなり面白いうえに・・・見ていて飽きないしな、毎回俺に新しい物をたくさん見せてくれるし、作る飯も菓子も絶品だ・・・他の王子の騎士なんて死んでもなりたくないが・・・ルーク王子の専属騎士になるのは悪くないと思ってる」
「そ、そうですか?・・・それはドウモ」
「それでだ、少し早いが【ルーク王子】ではなく【ルーク様】とお呼びしてもよろしいでしょうか」
「へ?」
「今日見ていたらケルベロス様やカールの奴には敬語を使ってなかったし、少し甘えた声を出していましたね。俺もあれくらいまで王子との距離を縮めたいんですよ・・・素の王子と話をしたい」
殆どの場合、王族の名を呼ぶ時には【王子】【国王】【妃】【姫】を名の後ろにつけなければならないが、世話係など専属騎士など側近の人間や神官などは【様】をつけるのが決まりらしい。
「え・・・?まあいいですけど、あれも演技ですよ?」
「ふっ・・・ハハハッ!お前、本当におもしれーな!そーか!あれも演技か!・・・では、本当の貴方は?是非とも見てみたい」
「機会がありましたら、その内お見せいたしますよ」
「楽しみにしております。では、ルーク様今後私に対して敬語は無しですよ」
「カルトもだよ、ツバキの時と僕と2人の時は敬語は無し!わかった?」
「わかった、で?これは菓子か?」
カルトが俺が持っていた一斤のパンを指差した
「あ、これはパンだよ」
そう言うとジッとパンを見つめた後
俺が食べていた反対側からカルトはいきなりパンにかぶり付いた
「甘い・・・それに胡桃が入っているのか」
そうこの食パンは胡桃とチョコを織り込んだものだ。
「半分食べる?カルト」
「ああ」
俺が一斤のパンを半分にしようと思っていたら勢いよくカルトは反対側から食べ始めた。
俺も食われてなるものかと負けじと急いでカルトとは反対側から食べ始めた。
すると近くの店の時計が鳴るのが聞こえてきた。
「不味い!」
「えっ!?不味い!?そんな!これ結構美味しく出来てるほうだと・・・」
「違う!もう2時だと!?クソッ!食ってる場合じゃねぇ!俺の分残しておけ」
そう言ってカルトは早足で歩き始めた
「あの、こんなに遅くなっては流石に今日は止めておいた方がいいかと」
「大丈夫だ!タイラー家には俺がこの時間に家へ寄ると言ってある」
「やだ素敵!カルトさん!何て気の利く騎士なの!私カルトさんと結婚します♪」
「ああそりゃ、どうも・・・ふざけた事言ってねーで、急ぐから黙ってろ 舌かむぞ・・・それにしても何でこんな遅かったんだ?」
ちょっとカルト君!黙ってろって言ってたのに、それを今聞くのかね君は!
「ああ、それが・・・仮眠を取って、そろそろ時間だなっと思ったら部屋に国王様が来てしまって」
「あ゛ぁ!?ちょっと待て!何で国王様が!?」
「いや、なんか馬車どんなのがいい?みたいな事聞いてきたけど、多分自分の妻に似ていた僕の顔を見に来たって感じだったよアレは・・・」
「まあ、そうかもな馬車の事でワザワザ国王様自ら来るなんてありえないからな・・・と、ほらタイラー家についたぞ」
「・・・アラまあ、おっきい家です事・・・ここ何人で住んでんの?」
「あのだだっ広い城に住んでる人間が何言ってやがる・・・タイラー家は貴族の家にしてはこじんまりしてる方だ。住んでるのはアルト様の母親と妹・・・あとは使用人が5、6人って所だろ」
「・・・掃除大変そうだね」
俺は門からだいぶ離れた位置にある屋敷を見て その大きさと庭の広さに驚いていた。
カルトが呼び鈴を押し暫くすると一台の馬車が門の前で止まったしかも、無人・・・?
え、この馬車誰も乗ってないんですけど!?コワッ!夜中に走る無人馬車・・・
一体どうなってんだ?
一頭で馬車を引いていたその馬を近くで見てその理由が分かった
その白い馬は奴隷の首輪を着けていた
人が手綱を引かなくても命令さえするれば動くって事だ。
馬車に乗って家の前まで来ると扉の前で一人の若い女性が立っていた
「お待ちしておりましたカルトさん、予定の時間になってもこられないので今日はもういらっしゃらないかと思いましたわ」
「色々あって約束していた時間より随分遅れた・・・」
カルトが女性と話していたが俺のせいで遅れたので慌てて女性に謝罪した。
「申し訳ありません!私が遅れてしまったんです!しかも、こんな夜更けにお邪魔してしまって・・・」
「あら!随分可愛い子を連れて・・・しかも、珍しいわね・・子供嫌いで有名な貴方が抱きかかえててるなんて・・・もしかして、カルトさんの」
「やめろ違う!コイツはフェルドが求婚してる餓鬼だ!変な勘ぐりをするのは止めろ」
「あら、ごめんなさい。とにかく中へどうぞ」
女性はクスクス笑いながらそう言った。
「それで、カルトさん用事とは・・・?まさか、父と兄に何か・・・」
「いや、用があるのは俺じゃない」
不安な表情を見せた女性にカルトはそう言って俺の方を見た。
「すみません、用件があるのは私です・・・ところで使用人の方の姿が見えませんが」
「家(うち)は使用人の人数が少ないものだから夜中はシッカリと休んでもらって、昼間は母の様子を交代で見て貰っているの 夜の間は私が見ているのよ」
「そうですか、なら良かったです。申し遅れましたが、私はツバキと言います」
「ええ!噂には聞いていたわ!フェルドさんが夢中になっているってお姫さまね!」
「いいえ、姫ではなく僕は王子です」
「え・・・?」
「確かに今はツバキですが、普段はクリストファー・ルークと言う名で第七王子として城で生活しています」
「え?・・・あの、えっと・・・クリストファーって・・・え?なに?・・・どういう事・・・?」
俺の言っている事がよく分からない女性は困った表情でカルトに視線を向けると
それに気づいたカルトがニヤリと笑みを作り答えた。
「間違いなくこの方は第七王子のルーク様だ」
「カルトさん嘘、です・・・よね?まさか、そんな・・・」
「いいや、本当だ まあ信じられんのは分かるが」
「そんな!?だって、どう見ても女の子じゃない!それに、王子がこんな時間に出歩くなんてありえないわ!しかも、第七王子って言ったら確か池に落ちて溺れかけたって・・・その時の後遺症で歩けなくなったと聞いたわ!」
ワ~オ・・・また新しいの来たな・・・
「また、違う内容じゃねーか・・・『病気』『悪魔に攫われた』『高い所から落ちた』の他にも『池に落ちて溺れる』が出てきたか・・・メチャクチャじゃねぇか」
カルトがそう言いながら通された部屋のソファーに座ると
俺は早速女性に母親に会わせて欲しいと言った。
カルトもソファーから立ち上がり付いてこようとしたので
残りのパンとお菓子を置いて此処で待っているよう指示をした。
「あの、どうして母に?母と面識があるのでしょうか?それで・・・あの、本当にルーク王子・・・なのですか?」
女性の母親の部屋へ入る前困惑した表情の彼女からそう言われ
俺は石の中から2通の手紙を出してアルトから渡された方を彼女に手渡した。
「これは!?兄さん!アルト兄さんからだわ!?」
彼女は手紙見て 驚きの声を上げた後、真剣な面持ちでアルトからの手紙を読んでいた。
読み終わる頃には彼女の瞳からは大粒の涙が止め処なく流れ落ちていた。
「悪いのは私達なのに・・・私と母さんのせいで2人とも辛い思いをしているのに・・・どうして、兄さんも父さんも謝るのよ・・・」
「ガードナー様もアルト様も貴方がたを、とても心配しておられましたよ・・・それに貴方だって もし逆の立場だったら同じ事をしたんじゃありませんか?」
「当たり前じゃない・・・だって大事な家族・・・っ!!」
そこまで言うと彼女は突然何かを思い出したかのように俺の顔を見て慌てて両膝を付き頭を下げた。
「も、申し訳ございませんでした・・・!本当にルーク王子だとは思わず、大変失礼な態度を・・・!」
「え!?いえ!別に失礼な事は特にされてませんけど、とにかく僕には普通に接していただいて大丈夫ですから!早く立って下さい!そして、早くお母様に会わせて下さい」
そう言って俺は彼女の手を取り彼女と部屋へと入って行った。
「・・・先ほど兄の手紙に書いてありました、ルーク王子が母を助けに家に来るからと・・・しかし、申し訳ありませんが・・・もう・・母は・・・せっかく来て下さったのに」
俺はベットに横たわる女性を見て彼女の言っている意味を理解した。
「国王様専属の医師もこれ以上は手の施しようがないと仰られました」
あ、娘さんや・・その医師は見てもらったら駄目なヤツだから信用しちゃいかんよ
奴は第一王子とグルだからね。
「とりあえず、試しに僕の持っている薬をお母様に飲ませても宜しいですか」
「ええ・・・勿論でございます・・・母の為に有難うございますルーク王子」
さすがに俺もこんなに悪いとは思ってなかっただけに
サラから貰った この水が効くのか不安になった。
俺はベットに横たわる女性の口に水を流し込んだ。
彼女はもう飲み込む力もないだろうが
サラが言うには俺と契約した時の水球(すいきゅう)と同じで口にさえ入れれば体内にちゃんと入ると言っていた。
「うっ・・・な・・に?」
すぐに効果は現れたようだベットで寝ていた女性はゆっくりと目を開き、声を発した。
「え?・・・え!?母さん!嘘・・・こんな事・・・」
「おー・・・スゲェな・・・これ」
もう、駄目だと思っていた母親が目を覚ましたので驚いている娘の隣で、俺も水が入っていた瓶を見つめ そのとんでもない効果に驚いていた。
「あ、ナディ・・・私どうしたのかしら?急に苦しく無くなったの・・・体も何だか軽いわ」
そう言ってゆっくりと起き上がる母親を見て娘が慌ててそれを止めた
「まだ、駄目よ母さん!そんな体で起き上がるなんて!」
確かに体内の毒は抜けたのだろう・・・しかし、その痩せ細った体を見て俺はまだ油断出来ない状況は変わらないと急いで二人から少し離れた位置で無属性で医療器具を出し、点滴をするように進めた。
「ナディこの子は?」
「母さんを救ってくれたのよ!この方は第七王子のルーク様よ!」
「・・・え?ナディ、何を言っているの?この子は女の子よ?」
「すみません、訳があってこの様な格好をしておりますが 初めまして僕は【クリストファー・ソレイユ・ルーク・グローリア】です宜しくお願い致します」
俺の挨拶に女性は自分の娘に視線を向けた
「え・・・まさか本当に?」
自分の娘が頷くのを見て女性は慌ててベットから降りて両膝を付き頭を下げた。
それを見た俺も慌てて彼女をベットに戻るよう言った
「ちょっと!そんないきなり動いたら駄目ですよ!病人は大人しくしていて下さい!」
そして、女性がベットに戻ると俺はガードナーから渡された方の手紙を奥さんに渡した。
手紙を読んでいる間俺は娘の方に色々と点滴についてなどの説明をしていた。
手紙を読み終わった女性は暫く泣いていたが姿勢を正し俺に視線を向けた。
「いつも主人と息子がお世話になっております。私は【タイラー・ケイシー・ボネット・ヴァレリー】と申します・・・ルーク王子、この度は私達の為にこんな場所までご足労いただき有難うございます」
それを聞いた娘が慌てて自己紹介を始めた
「わ、私は【タイラー・ガードナー・ヴァレリー・ナディア】と申します!ご挨拶が遅れて申し訳ございません!」
「まあナディ!貴方まだご挨拶もしていなかったの!?」
「あー・・・えっと、確かに今の身分は確かに王子ですが その内王子は辞めるので別に普通にして下さっていてかまいませんよ 寧ろその方が僕も話しやすいので・・・それからナディアさんも此方を飲んでおいて下さい」
「はい有難うございます、母も私も病気ではなかったのですね・・・今まで毒によって苦しめられていたのですね」
ナディアは俺から水の入った小瓶を受け取り口に入れると母親と同じように体が軽い、苦しくなくなったと泣いて喜んでいた。
「ナディアさんの方はこれで大丈夫ですが、ヴァレリーさんの方はまだ治療が必要です。今は毒を消しただけなので後はゆっくり休んで栄養をとって下さい・・・ナディアさんは毒が抜けたのに少し顔色が宜しくありませんが・・・食事は摂れていましたか?」
「あ、いえ・・5日程前から食べても戻してしまってたので水分だけ摂っていました」
「そうですか、それでは其方の椅子へお座り下さい」
俺は部屋にあったテーブル席にナディアを座らせると
持って来た石から雑炊とヨーグルトを出してテーブルに並べた。
「あら!とても美味しいわ!それに食べやすい!」
そんなナディアを見てベットから降りてゆっくりとナディアの居るテーブルまで歩いて来たヴァレリーが「良い匂いね・・・私にも一口食べさせてちょうだいナディ」と俺とナディアが止めるのも聞かず
大丈夫だからとナディアの前の席へ座ってしまった。
オイオイ・・・大丈夫かよと思いながらも俺は雑炊を小さな器に取り分けてスプーンと一緒にヴァレリーの前に置いた
「・・・っ!これは、とても美味しいわね・・本当に美味しいわ」
泣きながらゆっくりと食事をしている2人の邪魔をしないように俺は近くの物置台の上でカリカリとヴァレリーさん用の点滴手順と食事内容を書き始めた。
食事が済んだ2人の元へ行き俺はそのメモをナディアに渡した
「ナディさん此方先ほど話していた点滴の手順が書いてある用紙と、食事用の用紙です・・・それと此方は今後お2人が食べられる食事が入った石です。食事用の用紙に書いておきましたが、右から甘いものが入っている石・米類・パン類・麺類・お菓子・飲み物と、6個の宝石をご用意致しましたので用紙に書いてある食べ物の名前と内容を見て食べたい物をお召し上がり下さい」
収納用の宝石を使う時は、入れる時に名前を付けなくてはならない
取り出す時、入れた時と同じ名前を口に出して言うか
念じるかすれば出て来ると言うしくみだ
つまり、高価な物を入れる時などには
他人が予想出来ない名を付けて宝石に入れておけば 例え収納用の宝石を紛失したり盗難にあったとしても中の物を取り出せないと言うパスワードの様な機能がある。
「―――っ!?ルーク王子!いけません!この収納用の宝石はとても高価な物です!?しかも、6個も!」
ナディアが収納用の宝石を見るなり驚きの声を上げた。
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