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28カラット~勝敗の音~

「では、ルーク王子開けますよ宜しいですか?」 「はい お願いします」 フェルドが扉を開けると部屋の中にはテーブルとソファーが置いてあり  そこにカールが座っていた  「おや、来ましたね・・・もしかしたら来られないかとも思ったのですが」 「何故ですか?お約束しましたよね?」 「ええ、ですがルーク王子・・驚いた事に貴方は今 もうすでに1位の位置にいらっしゃるのに、私と対戦して本当によろしいんですか?負ければ順位は確実に落ちますよ?勝負をせずに この部屋でお茶を飲んでお帰りになっていただいても私は全然構いませんけど、いかがいたしますか?」 カールがそう言った後、俺がクスクスと笑い始めたのでフェルド、カルト、カールの3人が不思議そうに俺を見ていた。 「・・・あのルーク王子私、何か可笑しなことを言いましたでしょうか?」 「ええ、カールさん本当は僕と対戦するの怖いのではないですか?」 「なにを・・言って・・」 「貴方のところの従業員を全員負かして来た僕にカールさんは勝つ自信がないんじゃないですか?だって従業員全員負かして来たと言う事は、確実にそちらの手の内が全部バレてるって事ですからね・・違いますか?カールさん」 俺の言葉にカールは観念したようにニヤリと笑みを浮かべた 「私を他の者と一緒にしないでいただきたいですね・・よろしいですよ、そんなに言うのであれば早速対戦いたしましょう ルーク王子のおかげで、これから1年贅沢して楽しく生活出来そうですよ」 「それは、どうですかね~もし生活にお困りになったら家(うち)の城で雇って差し上げてもよろしいですよ」 嫌味を言い終えて互いにニッコリ微笑むとカールが俺を抱きかかえソファーへと座らせた 「騎士のお2人は申し訳ありませんが其方の椅子でお待ちいただけますか」 「わかった」 「ルーク王子頑張ってください!俺達なにも出来ませんが此処で応援してます!」 入ってきた扉の横に置いてある長椅子にカルトとフェルドが腰掛けた。 「では、始めましょうか・・私の場合 他の従業員達と違って勝負内容はお客様の方でお決めになっていただいておりますが 何がよろしいですか?ルーク王子」 「では、カールさん 貴方の得意なもので」 「・・・私のですか?」 「はい、貴方の得意なもので勝負したいです」 「ふふ・・そうですか、それでは札で勝負いたしましょう宜しいですか?」 「はい、お願いします」 「何回勝負に致しますか?」 「25回で」 「・・・25回・・ですか?」 「はい!一緒にたくさん遊びたいですし」 「いいでしょう、それでは始めましょう」 ------そして、勝負が12回目に差し掛かった時だった 「もう、いいです・・・降参です・・私の負けです」 「え?でもまだ」 「これ以上は時間の無駄です、私は王子に勝てる気がしません」 「1勝してるじゃないですか」 「ええ!最初の一勝だけね!・・・その1回目の勝負でお気づきになられたのでしょう?しかし何故・・・何故お分かりになったのですか?」 「僕が最初に挑戦したのはダーツ・・じゃなかった【矢投げ】でしたっけ?あれは単純な仕掛けでしたね・・従業員の矢の先端と的の点数の高い場所に磁石が入っていて、ですが・・あれは駄目でしょう・・矢の起動が不自然過ぎますよ よくもまあ、あれで今までバレませんでしたね。そして、カールさんは光の属性の力で札が裏返っていても触れると表の数字が透けて見えていましたね」 「待って下さい、もし王子も光属性で札を読み取ったとしても」 「ええ、そうですね貴方と同じ事をしても貴方には勝てるとは限らない・・では、1枚ではなく全ての札が僕には見えてるとしたらどうです?確実に勝てますよね?」 「全ての札!?そんな!どうやって!」 そう、このカードゲームは神経衰弱のようにバラバラにテーブルに撒かれたカードの中から一番強いカードを探して手札にある弱いカードを捨てて最後 手持ちのカードの数字が多い方が勝ちという単純なゲーム カールはカードの上に手をかざして一枚一枚透かして見ていたようだった だが不自然な動きにならないようにカードを選んでいる振りをして数枚だけ読み取って その中で一番大きい数字を引いていた。 「残念ですが、タネ明かしをするつもりはありませんよ?僕のようにご自分で見抜いて見て下さい」 「そうですか・・・では仕方ありませんね無理やりにでも聞きだすとしましょうか」 カールの表情が変わったと思うとガッシャンっとテーブルに置いてあった花瓶が落ち割れる音がした後 俺はカールにソファーへと押し倒され首には小さな刃物を突きつけられていた。 見ていた騎士2人がとっさに助けに入ろうと椅子から立ち上がるがカールの一言に動きを止めた。 「騎士のお2人!そこから動けば王子の首に傷がつきますよ?いいのですか?ご安心を王子から聞きたいことをお聞きしたら無傷でお返しいたしますよ」 騎士にそう言い放った後、再び俺に視線を向けたカールが驚いた表情をしていた 「・・・っ!これは・・驚きました・・ルーク王子・・貴方ずいぶんと美しいお顔をしてらっしゃいますね・・なるほど、スティング様が目をつけるはずですねこれは・・と、それよりも今回の勝負で私の連勝に傷をつけたのです、どうやって私に勝ったのかお教えいただかないと貴方をこのままお帰しすることは出来ませんよ、さあ全ての札が見えていたとはどういうことですか?」 ああ~・・コイツやっぱり一見まともそうに見えてヤバイ奴だったか だから あんまり関わりたくなかったんだよなぁ 「はぁ・・わかりましたお教えしますので僕の上から退いて下さい」 「駄目です、言うまでは逃がすつもりはありません」 カールはそれはもう実に良い笑顔で否定してきた 「簡単ですよ・・目に光属性の力を集めて札を見ればいいだけです」 「目にですか・・思いもしませんでした・・そんな方法が・・魔法を使う時は手に集中するのが当たり前になってましたからね・・なるほど」 カールはテーブルに散らばっているカードを見た 「ふふ・・確かに透けて見えますね、ですが私では数字までは読み取れません。ルーク王子貴方は噂通り相当強い力があるようですね少なくとも、この私よりも・・・本当に凄い子ですね 完全に私の負けです まさか私の連勝をこんな小さな少年に止められるなんて思ってもいませんでしたが、何故でしょうね不思議と悪い気はしません むしろ」 「楽しくてしょうがないって顔ですね」 「ハハハハッ!そうっ!その通りですよ!よくお分かりになりましたね」 「その綺麗な顔に書いてありますよ・・」 「本当にこれほど楽しいのは久しぶりです!ルーク王子!この【金幸際】での優勝者は間違いなく貴方です!おめでとうございます」 そう言って俺を抱き起こしたカールにギュッと抱きしめられ 耳元で「その幸運を私にも分けて下さい」と言った後、俺の口にカールの唇が重なった それを見ていたフェルドとカルトが慌てて俺とカールを引き離した 「何してんだ!カール!」 「王子になんて事しやがる!まだ子供だぞ!自分が何したか わかってんのか!」 「いや、ルーク王子の幸運を分けてもらおうと思いまして」 騎士2人がカールに怒鳴っていたが当の怒られている本人は楽しそう笑っていた。 そこへカールの腕輪がピピピッと鳴り何やら話した後カールは俺を見た 「ルーク王子、スティング様が直接お会いになって謝罪したいと仰っているのですが、どうされますか?」 「いいですよ、此処へ呼んでもらってもいいですか?」 「王子!止めておいた方がいいですよ!」 「俺も会わない方がいいと思いますよ」 「私もお会いになるのは余りお勧めしませんね」 フェルドとカルトとカールがスティングに会うのを反対してきた 「僕もお話したい事があるので、お会いいたします」 「そうですか分かりました、では此処へ連れて来るように言っておきますので少々お待ちください」 暫くしてスティングが部屋に入ってきて俺の姿を見つけると駆け寄ってきたが 騎士2人とカールが俺の前に立ちはだかる。 いや・・・オイオイ・・邪魔なんスけど・・ デケェ図体の男が3人も俺の前に立ったら話なんて出来ねーよ! 俺に男のケツ見ながら話せってのか!?冗談じゃねーぞ!今すぐ退きやがれ! 「あの・・3人とも部屋から出ていて欲しいのですが?」 「なっ・・!?駄目です!!王子!危険すぎます!」 フェルドが煩い・・・ 「あー、では扉の横の椅子に座っていてもらえますか?」 「・・・っですが!!」 「お・と・な・し・く・座っていて下さいね」 「ハァ・・わかりました。フェルドとりあえず王子の言う通りにするぞ、一応目の届く所に居るんだ大丈夫だろう」 「・・・わかった」 3人が黙って座るのを確認するとスティングが床に頭をつけて謝罪してきた 「この度は大変申し訳ありませんでしたルーク王子!私の息子が!まさかカイザーがあんな事をするなんてっ・・・!どうお詫び申し上げたらいいのやら!」 「頭を上げて下さいスティング様、僕は気にしていませんので それよりも僕のせいでカイザー様は暫く騎士の任を外されるとお聞きいたしました・・・僕の方こそ何とお詫びしてよいのか」 「いえいえ!何を仰っているのですか!悪いのは全てあの馬鹿息子でございます!!ルーク王子がお気にされるような奴ではございません!」 「いえ、スティング様にもご迷惑をお掛けしてしまいましたし・・・そうだ!せめてもの償いに此方をお受け取り下さいませんか?」 俺は1つの宝石をスティングに渡した 「こっ・・・!これはっ!あの時の宝石ではありませんか!いっ・・いけません!こんな高価な物を!それに・・」 「そうです!この【金幸際】で賭け以外での受け渡しは禁止です!私の前で堂々といい度胸ですねルーク王子」 カールが此方を睨みながら俺とスティングの会話に割り込んできた 「カールさん先程貴方が僕にした事は忘れますので、貴方も此処であった事は見なかった事にして下さいますよね?」 「っ・・・!この私を脅す気ですか?」 「いえいえ、取引です どうされますか?」 「っ・・・!いいでしょう!今回だけは目を瞑ります!」 「そちらのお2人もです、ここでの事は他言無用です いいですね?」 「わかりました」 「・・・承知いたしました」 カールと騎士2人は煮え切らないような表情で返事をした。 「さあ、これでこの宝石をお持ち帰りいただいても 大丈夫ですよ?これに懲りずまた来年も僕と遊んで下さいね!」 「え・・・ええ、是非!おお!やはり私の目に狂いはなかったっ!ルーク王子貴方は素晴らしいお方だ!!」 そう言ってスティングは俺の右手を両手でとり手の甲にキスを落とした 「あの、申し訳ないのですが実は僕 この後に予定があるので」 「おお!これは気づきませんで申し訳ありません!私などに貴重なお時間を割(さい)いていただき感謝いたします。 お!そうそう、ルーク王子は奴隷に興味がおありのようでしたのでカイザーの奴隷を近い内にお贈りいたします。それではルーク王子、私はお先に退室させていただきます失礼致します」 スティングが去った後フェルド、カルト、カールの3人がピリピリした空気をまといながら俺の方へと歩いてくる 「なんか・・・怒ってます?」 「当たり前です!私と同じところに口付けて行きましたよ!?あの男!!許せません!!」 「いや!?カール!そこじゃねぇだろ!何であんな高価な宝石を渡したんですか!王子!」 「確かに・・・もったいない、あんな男にやるくらいなら次の戦争の資金にしてくれたらよかったんだ」 カール、フェルド、カルトが文句垂れていたが、それよりも俺は時間が心配だった 「ところでカールさん【金幸際】終了まで後どのくらいですか?」 「え?ああ、そうですね一時間切りましたかね」 「良かった!まだ大丈夫そうですね!カルトさん!勝負です!!」 「え・・あっ!はい!」 カルトは俺が提案した計画を思い出して慌てて返事をした 「札で一回勝負です!一番大きい数字をこの中から選んだ方の勝ちです!さあ!この中から一枚引いてください!」 俺はテーブルにカードを裏返しに並べた 「えっと、確か一番右にあるやつを引けばいいんだったな」 「では、次は僕が引きます・・・僕の負けです」 「はっ?!ちょっと何やってるんですか!?王子!せっかく優勝が決まっていたのに!」 慌てるカールを無視して次はフェルドと対戦して俺の札はスッカラカンになった 「うん、間に合いましたね」 「おおっ!すっげー!!俺2位だぜ!カルト!!信じらんねーよ!」 「うるさい!フェルド耳元で騒ぐなといつも言ってんだろうが!・・・ああ、俺もだ順位が1位になってる、しかも凄い金額だ!これなら兵士達の分の魔石も買ってやれそうだな」 「なるほど、初めからルーク王子はご自分で優勝するつもりはなかったんですね?」 「そうです、言ったでしょう?目立つのは嫌だと」 「そういえば、確かにそんな事を仰っていましたね でも、宜しかったんですか?あんな大金を」 「ええ、僕の欲しい物はカルトさんに購入してもらえるように頼んであるので」 「そうでしたか・・・彼をずいぶんと信用なさっているのですね、あんな大金を譲ってしまえるくらいに」 「えっ!?ええ・・そう・・ですね」 「ですが、フェルド様でもよかったのでは?何故カルト様の方を1位に?」 「えっ!?あー・・・何となくですかね、ほら!彼は僕とカイザー様の戦いの時全額かけて下さいましたし!」 カルトこれで金は倍にして返したぜ? 俺は酒場でツバキへとカルトから貰った金の事がずっと気になっていたので、今回の件で返せてちょっとスッキリした。 「ところで昼食(ちゅうしょく)はもう とられましたか?まだでしたらご一緒に食室(しょくしつ)へ行かれませんか?」 「「いや、いい」」 カールの誘いに騎士2人が同時に断った 「俺達はルーク王子の部屋でとるから大丈夫だ」 「さあ、部屋へ戻りましょうルーク王子」 カルトとフェルドはここの所 俺と一緒に食事をとっていた  どうやら俺の料理に味をしめたらしい  おかげで石に溜め込んでいた俺の非常食がドンドン減っていく こんなイタイケな少年にメシをたかるなんて騎士として・・いや!大人としてどうなのよ!?キミ達! 「・・・・っ!待ってくださいルーク王子!私もご一緒してもよろしいですか?」 何処かウキウキとこの部屋を出ようとする2人の騎士の様子に 何か楽しい・・面白い事があるに違いない!と感じ取ったカールが結局俺の部屋に来て満足した顔で昼食を食べていた。 「それにしても、ここの従業員がまさかズルしてたなんてなぁ・・・思いもしなかったぜ」 「申し訳ございません、私共はこれが仕事なんですよ それに上からのご命令でもありますので。でも中にはルーク王子のようにお気づきになる方もおられますので そういう方には見破られたご褒美として幾らか此方から出させていただいております」 フェルドがぼやくとカールが少しばつが悪そうに答えた 「上って事は国王様もご承知のうえってわけか、クソッ!騙されていた俺達がマヌケだったって事か!」 カルトの機嫌が悪くなっていく空気を感じ取ったカールがその話題から逃げるように話を切り替えた 「ところで3時からの打ち上げは皆さん参加されるのですか?」 「いや、俺とフェルドは金を受け取ったら帰る予定だ」 「そうですか、ルーク王子はどうされますか?」 「僕は・・・あの、お2人と一緒に帰ってもよろしいですか?行き先は同じですよね?」 「はい、それは構いませんが宜しいのですか?ケルベロス様がお迎えにくるのでは?」 「それ以前にコイツの乗ってきた馬車を見たら、乗らなきゃ良かったと後悔しますよ」 「なんでだカルト!うちの馬車は一家全員で自慢してるほど良い馬車だぞ!」 「ここに来る時、俺はアレに乗ってくるのが死ぬほど恥ずかしかったぞ!デフェール家の馬車は趣味が悪すぎだ!あんなのに乗るくらいならウチの馬車に乗った方がまだマシだった!」 「ノヴァ家の馬車の方が誰がどう見たってヒデェーだろうが!男があんな少女趣味のフリフリの馬車に乗れるかってんだ!!」 「えーと、とにかくこの金幸際ではカールさんには色々とお世話になりました。本当にありがとうございました」 フェルドとカルトが口論してる中、2人を無視して俺はカールへ 今回色々と世話になった礼を言った 「いえいえ、此方こそ短い期間ではありましたがルーク王子と出会えてとても幸せな時間(とき)を過ごさせていただきました・・・ええ本当にね・・貴方には今まで味わった事のないような体験をさせていただきましたよ」 最後何故か獲物を見つけたようにニヤリと嫌な笑みを向けてきたカールに俺は引きつった笑みを向けるとまだ口論を続けていたフェルドとカルトに早く帰ろう!とせっついた。 部屋を出る時、何故か夜が不安そうに此方を見ていた 「夜?どうしました?帰りますよ」と俺が手を伸ばし声をかけると嬉しそうに尻尾を振って此方にやってきた。 恐らく置いていかれるとでも思ってたんだろうな  騎士2人が部屋から出たあと夜が出て俺の車椅子が部屋から出る直前  車椅子が勢いよく部屋へと戻り、目の前で扉が閉められた。 あ~・・俺は何で油断したかな~  忘れ物なかったかなーとか考えてる場合じゃなかったぜ・・・俺の車椅子押してるのコイツだったのかよ 俺の後ろから扉に手を突いてる人物を恐る恐る首をあげて見てみると俺の顔をニッコリと笑顔で覗き込んでいるカールと目が合った。 「おや?どうなされましたか?」 それは俺の台詞だろ・・・ 「あの、部屋から出たいので開けていただいても」 「それは、まだ出来ませんね」 「・・・何が目的ですか?」 「おや、話が早くて助かります・・・いえね、考えたのですが私これでも結構この金幸際の中で上の方に居る役割を任されている立場なわけですよ、先程のスティング様に渡していた宝石・・・かなりの値打ち物ですよねぇ それを、この私が見逃すとなると少し先程のルーク王子に対する私の行動だけでは安すぎる取引な気がしたものでね」 「僕の首に刃物を突きつけて口付けをした事ですよね、それ以外にも僕の手料理をご馳走しましたけど?それでは足りないと?」 「足りませんよ・・・そんなのはルーク王子の御付(おつき)の騎士の方々と同じ扱いではないですか、いえ・・それ以下ですね、あの方達はずっと貴方と共にいて この部屋で食事をなさっていたのでしょう?割りに合いませんね」 「では、彼らに与えた以上の食事を置いていけばご満足いただけますか?」 「そうですねぇ・・・それよりもルーク王子からの口付け一つで満足出来そうなのですが、いかがでしょうか?」 カールは自分の人差し指を俺の口につけるとニッコリと微笑んだ 「・・・わかりました、したらちゃんと帰してくださいね」 「おや?これは以外にアッサリと」 「だって、聞こえてますか?さっきから鳴ってますよ?」 カーンカーンと扉が閉まってからずっと呼び鈴の音が鳴り響いていた  外にいる3人が慌ててる様子が目に浮かぶ 「そうですね、先程から通りで煩いと思いましたよ」 「では、外の3人も待ってるので、早く終わらせて扉を開けてもらいますよ」 「ルーク王子、わかってるとは思いますが ちゃんとココにして下さいね」 カールが念を押すように自分の口にトントンと自分の人差し指を置いた。 「わかってます」 「それならば結構」 カールは俺を抱き上げソファーへと座った 「さあ、お願いしますルーク王子」 いや、別に移動する必要なくねぇ? 今んとこで一発ブチュっとかませばすむだけの話だったろうが! そんな事を心の中でブツブツ思いながらも 俺は両手でカールの眼鏡を外し、その唇を包むように何度も角度を変えて口付けた  子供騙しの軽いキスだと こういう類(たぐい)の人間は納得しないだろう  だからと言って舌を入れた濃厚なのをブチかませば煽るだけ・・・なので、その中間にしてみたのだが 結局エロスイッチが入ってしまったらしい カールから唇を離すと、俺はまたもやソファーに押し倒され 今度は舌を入れた濃厚なキスをされた。 俺とカールの甘い吐息とクチュクチュと卑猥な音が部屋に響き渡る中  この状況をどうしようか俺は考えていた、舌を噛んでやろうかと思ったが  恐らくコイツは喜ぶだけだろう・・・その内カールの唇がようやく離れたと思ったが その唇が首へと移動し嘗め回され吸い付かれ その内いつの間にか肌蹴ていた俺の胸へと降りてきた  ヨシ!決めた!コイツの頭を殴ろう!誰に殴られたか記憶がなくなるまでな! そうすれば・・・って・・・ん? 俺は床に人影が映し出されたのに気づき  窓を見るとカルトが窓を割ろうとしている姿が目に入った  -------おっ!?おおぅっ!!!俺のピンチに救世主が現れたぞ!! 窓を割って部屋へと入ってきたカルトは素早い動きでカールを殴り飛ばした  おおっ!?いいぞぉー!!!やれやれーぃ!!美人騎士も中々やるじゃねーか! だけど、何も顔を殴らんでも・・・ああ、カールの口から血が・・駄目だぞ!お前らみたいに、その顔だけで金が入ってきそうな美人さんは顔に傷つけたらいかんよ うん!顔だけはやめなさい!腹にしなさい!腹に!ダメージもそっちの方が大きいしな! いや~俺も昔はよく怒られたよなぁ・・・族と喧嘩した時・・あれ?○○組潰しに行った時だったっけ? うっかり顔に傷作ってマネージャーに怒られたな~  ちょうどモデル業の仕事と映画の撮影やってる時だったからメッチャ怒っててスタッフとウチのメンバーの前で高校生にもなってケツを何度も引っ叩かれたっけな・・・ あれはもの凄く恥ずかしかった・・・皆の前で酷いや・・クスン。 こんな場面でしみじみと、そんな余計な事を思い出して涙目になっていた俺を見てカルトがもう一度カールを睨みながら近付くと 床に倒れていたカールの顔を蹴り飛ばした・・・って!ああ!何もそこまでやらんでも!つーかオレいま顔丸見えだったの忘れてた! マズイ!今の涙目をカールに襲われてたせいだと思われたのか!? 「ちょっ!?あのっ!それよりカルトさん!早く鍵を開けてあげて下さい」 俺の言葉にもう一発蹴りを入れようとしていたカルトがカールを睨みながらドアを開くと ずっと鳴り続けていた音が止みフェルドと夜が入ってきた 「おいっ!カール!テメェ何考えてんだ!いったい王子に・・な・・に・・・!?」 お?どうした?俺なら大丈夫だぞ? 俺のほうを見てフェルドが目を見開いて固まっていた 「ルーク王子少し失礼いたします」と、カルトが濡れたタオルを持ってソファーの前に立った え?なんでタオル? そのタオルをカルトは俺の首へ押し当てるとゴシゴシと拭き始めた。 ------あっ!やめてっ!チョット痛い! 敏感肌なんだからもっと優しく扱ってちょうだい!って・・・ああ、なるほどな・・・前のボタンが全開して上半身肌が丸見えだったわけだ  そして、俺の胸の辺りには鬱血した後が・・・ 待てコラ!キスマークで命落とす人間だっているんだから勝手にこんなの付けんの止めてちょうだいよ! ゴシゴシ・・・ ゴシゴシ・・・  あ、あの・・カルトさん・・マジでちょっと痛いんスけどね・・ カルトの顔を見れば襲われ掛けた俺より何故かカルトの方が震えて辛そうな顔をしていた。 「お、おい!カルトそんなに強く擦るな!もう、それくらいで、いいだろう!?」 フェルドがカルトのタオルを持っている方の腕を掴み俺から引き離した 「っ・・・!離せ!フェルド!こんなガキの内からこんな目にあったんだぞ!しかも!俺達が近くに居ながら!っ・・・クソ!」 「僕は全然大丈夫ですよ?カルトさんがスグに助けに入って下さったので」 「今はまだ実感がないだけだ!時間が経てば経つほどその時の恐怖や感触がよみがえってくる!忘れようとしても、そう簡単に忘れられるもんじゃねぇんだ!」 やけに感情的になってんな・・・何かあったのか? まあ、これだけ綺麗な顔だからなコイツも過去に襲われたりとかした経験があんのかもな 「でも、僕は本当に大丈夫です。嫌な思いや恐怖は 特にありませんでした カルトさん助けに来て下さって本当にありがとうございました」 俺はカルトに礼を言うと離れた位置に居るカールの顔の傷を治した 「・・・っ!そんなに離れた場所から治療が出来るとは、本当に凄い方ですね」 治った自分の顔を手で確認するカールを見てカルトが俺を睨み付けた 「何故こんな奴を治療するのですか!?」 「彼はちゃんと自分がヤリ過ぎたって事をちゃんと分かっていますよ・・・素直にカルトさんに殴られていましたからね、少しは反省しているのでしょう彼だったら避けられたでしょうに」 「おや、お気づきでしたか・・・ルーク王子先程は本当に申し訳ないことを致しました・・あそこまでするつもりはなかったのですが」 「止められなかった・・と?」 「・・・はい」 「ふふっ・・それは嬉しいですね」 「「「は?」」」 「それだけカールさんから見て僕は魅力的に写ったっと言うわけですよね?カールさんのように綺麗な方が僕みたいな子供に理性を無くすなんて・・・何だか勝った気分ですね」 俺がクスクス笑いながらそう言うと、カールは右手を額に当て一つため息をつき困ったように笑みを浮べた 「これは、参りました・・・今日は本当に 貴方には負けっぱなしですよ私は」 「あんな目に合ってそんな!そんなはず・・!」 「強いなルーク王子は、まったく・・本当にスゲェよ・・カルト・・ルーク王子は大丈夫だ・・・お前よりも強いよ」 「っ・・・!」 フェルドの言葉にカルトが眉間に皺を寄せ勢いよく俺を振り向いた 「・・・本当に平気なんですね?」 「はい、大丈夫です!心配して下さって有難うございますカルトさん」 「しかし・・・ちょっとルーク王子は危険ですね なんと言うか、少々危機感が足りないような気が」 カールが床からゆっくりと立ち上がりながら俺を見る 「そう・・ですか?」 「ええ、ルーク王子は今回 取引として私との口付を了承して下さいましたが、もしかして私でなくとも他の方とでも同じ事をなさったのではないですか?」 「ええ、そうですね 誰でもと言う訳ではありませんが・・必要ならばまあ・・減るものではありませんし、今回の取引も金銭とかの要求じゃなくて良かったな・・と思ったぐらいで・・あとは・・そうですねぇ、口付けとか ちょっと面倒だな~って思ったぐらいですかね」 「「なっ!?」」 何故かフェルドとカルトが驚いていて、カールは1つ溜息をついて話を続けた 「駄目ですよルーク王子、貴方はご自分をもっと大事になさってください。貴方の価値は貴方が思っている以上に高いのですから・・・それにしても、私との口付けが面倒・・ですか・・少々ショックです」 「ハハハっ!やっぱりスゲーよルーク王子!大物だわ!カールお前、そんな事いう人間がいるとは思いもしなかったんだろ?幸運をもたらすと言われている白髪のカールに口付けをして貰う為、大金を持って願い出る奴等もいるんだろ?」 フェルドがゲラゲラ笑いながらガックリ肩を落としたカールの肩に手を置いた 「ええ いらっしゃいますね、ですが手の甲に口付けします。ルーク王子もし、私の幸運が必要の際には 特別にいつでも唇に・・もちろん無料でしてさしあげますよ♪」 ニッコリ微笑み楽しげな口調で言うカールに俺もカールのようにニッコリ楽しげな口調で答えた 「大丈夫です♪幸運と呼ばれている貴方に勝った僕には必要ありませんので♪それに勝つ事に貪欲な ここの従業員の方達ならば全員分っているはずですよね、どんな事をしてでも 自らの手で幸運を掴み取る事を・・そう・・幸運なんてものは 自分の手で勝ち取っていくもの・・そうでしょう?カールさん」 俺の言葉に満足げに微笑むとカールは綺麗にお辞儀をした。 「仰る通りでございます」 「フェルドさん、カルトさんちょっと・・・」と俺は2人を手招きして呼び寄せ耳打ちしすると 騎士2人がニヤリと笑みを浮かべ カールのところまで2人して歩いていきカルトはカールを後ろから羽交い絞めにして フェルドは拳を作って素振りをしていた。 「えっ!?ちょっとお2人とも何ですか!?いきなり!?」 「先程のやり過ぎの件ですが・・このフェルドさんの拳一発でチャラにしてさしあげます♪フェルドさん!顔に思いっきりお願いしますよ♪」 「わかりました♪顔の形がかわるくらい思いっきりぶん殴ってやりますよ!」 驚くカールに俺は楽しそうに答えフェルドも楽しそうに拳を振りかぶるとカールの腹に一発重いパンチが入った 「・・・っ!?ゲホッ・・・ちょ・・顔って・・言ってたじゃないですか!・・なんで・・!?」 「それはだな、カールの事だから俺が殴る前に腹に力を入れちまって俺の渾身の一発がきかなくなるんじゃねぇかって事で 顔を殴ると思わせておいて腹に行くって作戦を王子としたわけだ」 「効果はあったようだな・・俺が殴った時よりも痛そうだ」 「まあ、腕力はカルトより俺のがあるからな!」 悪戯に成功した子供のように騎士2人が笑顔で話している側ではカールが咳き込みながら膝をついて暫く腹部を押さえていた。 色々とあったが部屋を出た俺達は会場の外でフェルドの馬車を待っていた 「ああ、来たぞ・・悪趣味の馬鹿馬車が・・またアレに乗るのかと思うと死にたくなるな」 カルトが俺の後ろでそう呟いた 「いや・・・あれは、また何といいますか・・個性的な馬車でございますね」 隣でカールが引きつった笑みをしている 「おう!待たせたな!ルーク王子これが家の自慢の馬車です!どうですか!?」 これは!?・・・デコ車だ!すっげー!デコ車が来たぞ! 色は全体的に黒で薔薇と薔薇の蔓が馬車全体を覆っていて所々に蝶が飛んでいる、前には大きな髑髏がデコってあって髑髏の額から頭に掛けて家紋が入ってた 「ルーク王子!この馬車の見所は後ろなんですよ!見てやってください!」 皆で馬車の後ろに回ると 女の子のシルエットのイラストが描かれていた 「これは、フェルドの母親が働いている酒場で たまに歌いに来ている幼女を描いたものだそうだ・・最近ずっとフェルドがこのガキに熱をあげていてな、正直その話をしてくるフェルドが煩くてウザイです」 俺か!?ってか・・女装してツバキになった俺なのねコレ・・ フェルドにとってツバキはもう完全にアイドル扱いなんだな・・しかし、会ってまだ間もないのにツバキのデコ車・・いや、イタ車か?を作るとは中々見所があるな しかもゴスロリ風・・・うん、ツバキ(妹)が好きそうだ 「とても素晴らしい馬車ですね!特にこの女の子と薔薇と蝶がよく合っていると思います!」 「「え゛っ!?」」 カルトとカールは信じられないものを見るように俺を見ていたが、褒められたフェルドは嬉しそうに俺の隣に立った 「さすがルーク王子!わかりますか!?この良さが!!ん?・・・あれ?おい、カルト・・あれってお前んとこの馬車じゃねーか?」 「あ゛?そんなわ・・け・・ウチ馬車だな・・だが今回、俺以外ウチの連中は参加しねぇはずだが・・・乗ってんのは誰だ?」 カルトの家の馬車は全体的に紫色で白いレースやピンクのレースがたくさん付いていて家紋など所々(ところどころ)の模様が金色で描かれていた お・・おう・・アッチはアッチでスゲーな・・・ 「カ~~~ル~~~く~~~んっ!!!あえて良かったわ~♪」 馬車のドアが開くと可愛らしいレースのフリフリがたくさん付いた女性が出てきたと思ったら小走りで此方にやってきてカルトに抱きついた 「うっ!?母さん!なんでこんな所に来てんだ!・・・それと!その呼び方は止めろって いつも言ってんだろーが!」 「すまないねぇ・・うちの馬車はフェルが乗ってっちまったもんだから、アウラーに馬車を出してもらったのさ」 「えっ!?何で母さんまで!?何してんだ?こんなところで!?何でカルトんちの馬車から!?」 アウラーと呼ばれた女性はどうやらカルトの母親らしい、そして酒場で女将をやってるフェルドの母、カルディアも馬車から降りてきてフェルドと話始めた。 「ああ!良い所で会ったよフェル!アンタお嬢ちゃんが今どこに居るか知らないかい!?」 「あ?ツバキの事か?知るわけないだろ、ずっとこの祭りに参加してたんだからな」 「そうかい・・そりゃ困ったね、ここ数日お嬢ちゃんがよく通っていた【養護施設】と【病院】にも行ったんだけどねぇ・・いないのさ、どこにも」 ん?俺の事か?ツバキになった俺を探してんの? 居ないって そりゃそうだろ、俺もずっとこの祭りに参加してたんだからな 「ツバキになんか用なのか?」 「それがねぇ・・どうもウチの常連客達が この金幸際の打ち上げでお嬢ちゃんの歌を聴きたいって推薦したらしくてね 2週間程前にここの役員の方が来たんだよ・・それで、お嬢ちゃんには来たら伝えておくって言ったんだけどね・・ここ数日お嬢ちゃん、姿を見せないんだよ・・・それを役員の方に伝えたら貴族だけではなく噂を聞いた王族の方もお嬢ちゃんの歌を聴きたがっているから、それは困るって 何としてでも連れて来て欲しいって言われちまってねぇ」 「ウチの店は騎士や貴族なんかが結構来てるからな、ツバキに目を付けるのはわかるが・・あれ?それって、もしかしてツバキを連れて行かないと うちの店の信用とかマズイんじゃ」 「待ってください!それだけではありません!多くのお客様方が望んでいる方を連れて来れなかったとなると、私共の方の信用もガタ落ちです!せっかく舞台まで用意しましたのに!まさか まだ来ていないなんて!?」 カルディアとフェルドの話を聞いてカールが慌てて腕輪に付いている石で連絡をとり始めた なんか会話の雲行きが怪しくなってきた中 俺はそんな事よりも気になって仕方がない事があった ん~・・・ギュッと俺は目を閉じてからもう一度目を開いてフェルドの馬車を見つめる アレってやっぱり・・いやぁ~だけどな~・・・う~ん・・・ 「とにかく、心当(こころあ)たりをもう一度探して見ましょう!その少女の特徴を教えてください!」 「カール、身長はコレと同じだ」 カルトはフェルドの馬車の後ろに描かれている少女のシルエットを指差した 「そして、水色の瞳で背中まで波打ってる黒髪のガキだ」 「わかりました、他の従業員達にも伝えて近くの街を探させます!」 「ルーク王子!申し訳ありませんが俺達はやる事が出来たので、もう一度お部屋へお戻りになっていてください」 「え?ええ、わかりました・・じゃあ部屋で彼と待ってますね」 夜の方を振り向きフェルドに返事を返すと 夜が俺の車椅子を押して部屋に向かおうと移動し始めた・・・が・・・俺はもう一度振り返りフェルドの馬車と、カルトの馬車を見比べた う~ん大きいけど・・やっぱりどう見ても・・・いや・・・でも何で? ねぇ・・どうしてフェルドの馬車だけ【ロバ】なの? 俺の所もカルトのとこも馬なのに!!ねぇ!あれってどう見てもやっぱロバだよねぇ!? 確かにロバも馬の仲間だけど!何でフェルドのところだけ!? そんでもってさっき何で!そこ 誰も突っ込まなかったの!?突っ込んだらいけないとこなのか!? まあもの凄く気になるとこではあるが、 今はやらなくてはいけない事が出来たのでロバは一旦忘れよう・・・ 再び会場へと戻ってきた俺と夜だった・・・が、よく考えたら帰るつもりで居たので部屋のカードキーをカールに返してしまっていて部屋に戻ろうにも戻る事が出来なかった 何で誰も気づかないんだよ!そうだよ!俺もだよ!ロバに気を取られていたからって何で気づかねぇんだ!そうだ!ロバが悪いんだ!いや、ロバ自体は悪くないか・・・ロバを選んだデフェール家が悪い!! 部屋に入れないとなると、どうしたものか・・ とにかくどっかでツバキにならねぇとな・・カルディアには世話になってるし、俺も最後店に出た時に暫く来れないって言い忘れてたからな  あの店の信用を俺のせいで落とすわけにはいかねぇだろ お!そうだ!いい場所があったな、俺は夜と奴隷置き場へ来た ここならば人間は滅多に近づかないだろう 「夜、悪いが車椅子隠して ここで暫く待っててくれるか?」 俺は車椅子に付いている宝石からツバキ用の服とカツラ、水色のカラコン、メイク道具を出して急いで着替え始めた 「・・・ここに・・俺を置いて行くのか?」 「ん~?ああ・・そうだったな・・ちょっと待ってろ」 俺はツバキに変装すると夜の奴隷用の枷を外した 「これだったら他の獣に見つかっても魔法使って反撃出来るだろう?俺は終わったらすぐに戻ってくるから良い子にしてろよ」 「・・・見事に化けたなお前」 「ふふん、可愛いだろう?」 「・・・そうかアイツ等が探してるツバキってお前の事か」 「そうだ、色々あってな・・今は急いでるから その辺の話はまた後でな!じゃあ行ってくるから車椅子隠して待っててくれ」 「わかった、こっちは大丈夫だから安心して行って来い」 夜に見送られ会場へ着くと・・・ 「おい!まだ始まらないのか!」 「いつまで待たせるんだ!」 「俺は今回ツバキちゃんを見る為だけに参加したんだぞ!」 「私達もよ!」 「俺だってそうだ!」 「皆様もう暫くお待ち下さい!」 どうやら一向にツバキが現れないので客達が騒ぎ始めたようだ 「・・・え?あれ!?ああっ!?ツバキか!?キミ何でこんなとこにいるんだ!?」 息を切らしたフェルドが俺を見つけ驚いた表情をしていた 「あ、フェルドさんお久しぶりです。何故か私がこのお祭りで歌うらしいという噂を街でお聞きして、どうなっているのか・・とりあえず来て見たのですが・・」 「そうか!良かった来てくれて実は・・」 俺はフェルドから事情を聞き終わるとカルディア、アウラー、カルト、カールがフェルドの連絡でこの場へと入ってきた 「お嬢ちゃん!すまないねぇ・・こんな事になって」 「いいえ、私は大丈夫です」 「この子がそうですか?でしたら申し訳ありませんが、これ以上お客様をお待たせする事は出来ませんのでお話は後にして舞台へと上がっていただけませんか?」 俺とカルディアが話しているとカールが慌てた様子で俺を舞台の端まで連れてくると しゃがんで俺の首にチョーカーらしき物を着けはじめた そのチョーカーが今着てる服とデザインが合っていなかったので少し俺が眉を顰めて嫌な顔をすると 「申し訳ありません、お嫌かもしれませんが我慢なさって下さい。この広い会場でも此方の石があれば皆さんに貴方の声が届くようになります・・・の・・・で・・・」 そうカールはチョーカーに付いている宝石を指差して言った後、何故か驚いた表情で俺を凝視していた 「あの・・・どうかしましたか?」 「あ・・・いえ、それでは私が呼びましたら舞台へあがって来てください」 そう言い残すとカールは一人で舞台の中央まで歩いて行った 「さあ!皆様大変お待たせいたしました!今、街で評判の【歌姫】が何と!この会場に来て下さいました!!」 「イヨッシヤー!!待ってましたー!!」 「ツバキちゃーん!!早く出て来てー!!」 【歌姫】・・・うっ!懐かしいが・・恥ずかしい・・あっちでも中学までは確かに【歌姫】って呼ばれてたが、いつの頃からか姫から女王になり最終的に【女神(アテナ)】とか他にも色々と変なキャッチフレーズ付けられたりしてたけど  多分俺の知らない所で、あの腹黒マネージャーが何かしてたんだろうな 「いやーこれは凄い人気ですねぇ・・皆様待ちきれないようなのでツバキさんに早速登場していただきましょう!!」 舞台袖に居る俺と目が合うとカールは一回頷いた  その合図で俺はカールの居た場所まで来ると入れ替わるようにカールが舞台袖へと下がった 「きゃー!!今日のお洋服もカワイイわー!!」 「うぉぉぉーー!!本物だ!!ツバキちゃーーーん!!」 「キタァーー!!良かった!推薦してよかったー!!」 「我ら!第3騎士団の姫君!再び貴方にお会い出来て光栄でございます!」 「ツバキー!!頑張れー!俺がついてるぞー!!今日も可愛いぞー・・イデッ!」 「うるせぇぞ!フェルド!隣で喚くな!」 何だか・・・色んな声援が聞こえてくる中  フェルドの声がしたので其方に目を向けると  いつもの調子で不機嫌そうなカルトに殴られていた 「会場の皆様、こんにちは!そして、金幸際お疲れさまでした!初めての方もいらっしゃると思いますので、まずは自己紹介をさせていただきます!私は【ツバキ】といいます!普段はデフェール家の奥様 カルディアさんが営んでいるお店で場所をお借りして歌わせていただいております!どうぞよろしくお願いいたします!そして、いつもお店に来て下さっている方々!今日はこんなに素晴らしい舞台へと私を導いて下さって本当に有難うございます!そんな皆様に感謝を込めて精一杯歌わせていただきます!最後まで一緒に楽しい時間を過ごしましょうね!」 俺の言葉に会場に居る客が歓声を上げた 「おおーーー!!!」 「よっしゃー!負けた事なんて忘れて今日は思いっきり楽しむぞぉー!」 「ワァーーー!!いいぞー!」 俺の歌と踊りで客の方もだいぶ温まってきたな・・・うんうん!別の世界でも この路線で十分やっていけんじゃん俺! イヨッシャぁー!!!いいね、いいね!テンション上がって来たぜ!!・・・って!? ああっーーーーーーー!!!?何やってんだ!!アイツはーーー!!! 会場の窓に一瞬目を向けた俺はうっかり2度見してしまった だって、窓の向こうには車椅子を押している夜が歩いていたからだ 何であんなとこにいんだよ!見つかったらどうすんだ!何が安心して行って来いだ!あんなとこ歩いてたら安心なんて出来るわきゃねーだろ! ハッ・・・!なっ・・・何て事だ・・・ 夜が見える窓から7つ程前の窓から夜の方へ向かって白髪の男が歩いて行くのが見えた  だぁーーー!!!何でカールがあんなとこにっ!!またタイミングの悪い!!! 今さっきまで舞台袖(そこ)に居たじゃんよっ!何でお前もそんなとこにいんのよ!!! お前ら2人して俺の心臓潰す気か!? さあ・・・どうする!どうする!マズイ!マズイぞ!-------・・ん?おお?そうだ!ちょうど いい位置にアレが居るじゃないのよ♪ 「フェルドさ~ん!お願いがあるんですけどー」 「お!?見ろカルト!ツバキが俺を見て俺を呼んでるぞ!俺って凄くねぇ!」 「うるさい・・・それよりお前を呼んでんだったら、返事返さなくていいのか?」 「あっ!そうだった!おーい!ツバキー!!聞こえてるぞー!何だー?!」 「フェルドさんの横の窓から白髪の男性が見えますよね!今すぐここへ連れて来てもらえませんかー?大・至・急・でお願いしまーす!」 「お?本当だカールの奴何やってんだ?あんなとこで・・ツバキー!任せとけ!すぐ連れて来るからな!・・・よっと!」 「おい、フェルド窓から出るんじゃねぇよ」 「仕方ないだろ!ツバキが初めて俺にお願いをしたんだぞ!叶えてやるのが男ってもんだろ!」 「もう、色ボケには付き合ってられん 俺は先に王子の部屋に行ってるからな」 「おう!わかった!------・・ヨシっ!カール確保成功っと!」 「ちょっと!何なんですか!?いきなり!」 「いいから!俺の姫がお前をご指名だ!さっさと来いよ!」 うん♪ヨシヨシ!良くやったぞ!フェルド君!後で君には勲章を授けよう! カールの方はとりあえずこれで良いだろう、問題は夜だな あいつが勝手にウロウロするとは考えにくい さては奴隷置き場で何かあったのか? 「さあ!皆さん盛り上がって来たところで申し訳ないのですが、そろそろお時間が迫ってまいりました、寂しいですが残3曲となってしまいましたが、この後も素敵な時間を一緒に過ごしましょうね!その前に私は衣装を替えて来ますので、その間 司会の方に閉会のご挨拶をしていただきます!それでは皆様次の衣装も楽しみにしていて下さいね!」 「なっ!?そんな勝手に!私は何も聞いてませんよ!?」 「ほら!カール!ウダウダ言ってねぇで、さっさと行って来いよ!」 カールが驚いて俺を見たがフェルドが無理やり舞台へと引っ張り上げてしまったのでカールは仕方なく舞台で挨拶をしていた 俺はその間に会場のスタッフを見つけて窓の外の車椅子を指差し、王子が部屋の鍵を返してしまったので部屋に入れなくて困っていると言って俺はカードキーを受け取り  夜の所へ走って行った 夜に理由を聞くと飼い主へと奴隷を返す為に 従業員達が迎えに来たので見付からない内にソッと奴隷部屋を出て来たらしい 俺は車椅子の椅子から衣装を出して夜にカードキーを渡し部屋で待っているように言ったあと 舞台裏で急いで着替えて、再び舞台へと上がった 何だかバタバタしたが・・・無事に3曲歌い終えた俺は舞台を降りて  コッソリ夜の待っている部屋へ戻ろうとしたのだが  フェルドに捕まった。 もう!疲れてるってのに!勘弁してくれよ 「ツバキ!今日は一段と可愛かったぞ!君はウチの寂(さび)れた店なんかで歌うより こういう大きな舞台で歌う方が何百倍も輝いて見えたぞ!っ・・いってぇ!母さん何すんだ!」 「寂れた店で悪かったね!お嬢ちゃん今日は本当にすまなかったねぇ・・・今度店に来た時にお給料少し多めに入れとくから、また私の店に顔を出してくれないかい?お嬢ちゃんが来ないと やっぱり私もアーネも寂しくてねぇ・・」 「あの、いつも通りのお給料で良いです!いつも多めに入っているので これ以上はいただけません・・・逆に申し訳なくて行きづらいです」 「アハハハッ!まったく本当に欲のない子だね!わかったよ!だからまた店に来ておくれよ」 「はい!必ず行きます!私、あのお店もカルディアさんもアーネさんも、来てくれるお客様も大好きですから!」 「嬉しい事言ってくれるね!じゃあ待ってるよ!」 「私も!私も!今日からカルディアちゃんのお店に毎日通うわ!今日ツバキちゃんのお歌を聞いて、まだ胸がドキドキしてるの~だからツバキちゃんに会いに私もカルディアちゃんのお店で待っているわ」 俺とカルディアが話しているとアウラーが目をキラキラさせて俺に話しかけてきた 「あの、こちらは?カルディアさんのお友達ですか?」 「ああ!そうさ!子供の頃からの付き合いでね!あの副団長さんの母親でアウラーって言うんだ!どうだい!?あの副団長さんと顔は似てるが中身が全然違うだろう?」 「カルトさんのお母様ですか!?そう言えば似ていますね、凄い綺麗な親子ですね」 「まあ!聞いた!?聞いた!?カルディアちゃん!こんな可愛い子から綺麗だなんて言われてしまったわ!どうしましょう!ちょっと年が離れているけどウチのカルちゃんと結婚を前提にお付き合いしてみない!?ウチのカルちゃん顔はチョット怖いけど凄く良い子なのよ~」 「ちょっと!ちょっと!?ツバキはもう俺が結婚を申し込んでるんですから止めて下さい!アウラー小母(おば)さん!」 「フェルちゃん!オバさんは止めてっていつも言っているでしょ!もうっ!」 「ほら!そこまでにしな2人共!お嬢ちゃんが困ってるよ!フェルとりあえず私は店があるから 帰るけど、あんたお嬢ちゃんをちゃんと送っていくんだよ!じゃあまた店で待ってるよ お嬢ちゃん!」 「わかってるよ!アウラーおば・・・っ!!アウラーさん!帰りも母さんの事よろしくお願いします」 フェルドがおばさんと言いかけた時アウラーがギラリとフェルドを睨み付けた やっぱ親子だわ・・その時の顔が一番カルトに似ていた 「まかせて~フェルちゃん!じゃあまたね~フェルちゃんツバキちゃん!あ!カルちゃんに、たまにはお家に帰って来るように伝えておいてね~今年の葡萄は甘いから ちゃんと自分で採りに来ないとなくなっちゃうわよ~」 アウラーの最後の言葉に俺は首を傾げた・・・ん?葡萄?何故ブドウの話が? 「あの、葡萄とは?」 「ああ!カルトの家は果物を専門に商売してんだ!葡萄や桃の木なんかの畑を持っていてな、それがメチャメチャ甘くて美味いんだ!果物に関しちゃあノヴァ家の右に出るものはいねぇってぐらい有名なんだぞ!この国だけじゃなく近隣の国にも評判が良くて大人気なんだ!」 「凄いんですねノヴァ家の方って・・・」 「お話中少し失礼いたしますツバキ様本日はお忙しい中をお越しいただきまして本当にありがとうございました、少しばかりですがお礼の品をご用意いたしておりますので、もう少しお時間をいただけないでしょうか?」 フェルドと俺が話しているとカールが声をかけてきた 「え!?いいえ!必要ありません!だいぶ時間より遅れてしまったようですし」 「いいじゃねぇかツバキ!もらえるもんは貰っておけよ!」 「いえ、でも、私はもう帰らないと・・・」 そう言って汗で首に纏わり付いていた髪を後ろへかきあげ 首にしていたチョーカーを外してカールに返した

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