5 / 10
第5話
目元が熱くなる、また俺は家族に迷惑を掛けてしまった。
喉が詰まり、何も言えなくなり、震える拳を握りしめた。
周りの冷めた瞳が怖くて、まともに人の顔が見れなくなった。
なにか話し声が聞こえるが小さな声でよく分からないが周りの表情からして良い内容ではない事が分かる。
ごめんなさい、ごめんなさい…口で言っても震えた小さい声…誰にも届かなかった。
この場合どうすればいいんだろう、片付ければいいのかな。
床に散乱している割れた皿の破片に手を伸ばしたら寸前で母に腕を掴まれた。
「怪我をして余計な仕事増やさないで、外で頭を冷やしてきなさい」
そう言われ、母に引きずられるように腕を引かれて歩かされる。
庭に続くドアを開くと秋の冷たい風が肌を突き刺さり身震いした。
背中を強めに押されよろけながら数歩歩き、後ろを振り返った。
母は俺の顔を見ずにそのままドアを閉めて、去っていくのが見えた。
外で反省しろという事だと思うから勝手に戻ったらいけないだろうと庭を歩く。
風が吹くとカサカサと木が揺れて綺麗だと思っていた照明の光が謎の目のように光って見えて怖かった。
少し早足で庭を回り、照明の光だけじゃ前が見えず足元を確認して歩く。
余計な事を考えてしまいどんどん暗い気持ちになりため息を吐く。
ゲームの世界なら…って思ったのに、やっぱり俺はいらない子だったのかな。
助けようとしても誰かに迷惑掛けたら意味ないじゃないか。
涙でぼやけた視線を下に向けながらとぼとぼと歩いていたら肩に軽い衝撃を受けて下を向いていた顔を上げる。
その瞬間バシャンと大きな水しぶきの音が聞こえて慌てて周りを見渡す。
下を見ていて近くに大きな噴水があるのに気付かなかった。
そこになにかが浮いていて顔を青くして腕を伸ばして引っ張る。
「ご、ごめんなさい!!気付かなくて!!」
「…うっ、ごほっ…」
「ごめんなさい、ごめんなさい」
「…うるさい、もう謝るなっ…俺も、噴水の中覗いてたからお互い様だろ」
噴水から出てきた少年は眉を寄せて苦しそうにしていた。
咳き込んで背中を撫でると話せるまで落ち着いたみたいで俺を睨んでいた。
また、やってしまった……本当に今日の俺は浮かれすぎていたのだろうか。
服を絞ると水が染み出し地面にポタポタと水滴が落ちる。
このままにしていると風邪を引いてしまうだろうな。
でも俺よりも年上っぽいし、身長も高いから俺の身体に合わせたオーダーメイドの服は小さすぎて着れないだろうか。
上着を脱いだ、ちょっと上着は生地かたいからシャツの方がタオルにしても痛くないかもしれない。
脱いだ上着を地面に置いてシャツのボタンを外すと目の前の少年は目を見開き驚いていた。
「な、何してるんだよ…寒いだろ」
「…あ、そうだね」
俺のせいだから俺が寒くても別に構わないと思っていたが相手はそうは思っていないようだった。
俺と妹の部屋が適温だったのは誰かの魔法の力だろう。
この世界は料理する火でも魔法を使う、電気も魔法で魔法は必要不可欠のものだ。
魔法を学ぶ年齢は家庭ごとに違い、両親から子に教えるのが一般的だ。
お金持ちの家は専属の家庭教師を呼ぶらしい。
俺はまだ魔法を学んでいない、もし魔法が使えたら落ちこぼれでも服を乾かすくらい暖かい火の魔法で乾かせたのに……今思っても魔法が使えるわけではないけど…
上半身裸だと俺も風邪引いちゃうか、看病させて迷惑掛けちゃダメだよな。
シャツを引っ張り何をするのか少年はジッと俺を見つめていた。
そのまま服を持ち上げて背伸びして少年の濡れた服を拭う。
これなら脱がなくても拭けると浅い知恵で考えた精一杯だった。
後でちゃんと着替えた方がいいのは当然として少しでも服が乾けばいいなと思いながら一生懸命に拭う。
髪も吹いた方が良いだろうが俺の服じゃ嫌かもしれないから拭くのをためらっていたら少年は俺がやりづらそうに見えたのかしゃがんでくれた。
「…えっと髪、拭いてもいい?」
「…………」
何も言わないが嫌だとも言わないからいいのだろうか。
恐る恐る服を伸ばし、髪を撫でるように優しく拭う。
艶のある綺麗な黒髪だ、今は水分を吸ってペタッと張り付いているが乾いたらきっとさらさらなんだろうなと思いながら拭いていた。
少年の頬がほんのりと赤く染まっていて首を傾げる。
風邪引いてしまったのだろうか、そろそろ濡れた服を着替えないと…
そう思っていたらタイミングよく誰かの大きな声が聞こえた。
「フリード様、フリード様ぁ!!」と呼ぶ男性の声が聞こえた。
「…え、フリード…って」
「チッ、もうちょっとだったのに」
呼び掛けに答えたフリードと呼ばれた少年は立ち上がった。
俺は謝るなと怒られてしまったけど最後に「俺のせいでごめんなさい!俺が大きくなったら弁償します!」と謝った。
チラッとフリードと呼ばれた少年は俺を見て、何も言わず声がした方向に歩いていった。
どうしよう、風邪引いたら…俺のより服も高そうだし…
低階級魔法使いを雇ってくれる職業の給料何ヵ月分の服だろうか…迷惑料も掛けたら一年じゃ返せないかもしれない。
パーティーも空気を悪くしてしまったから請求書が大変な事になるだろう。
俺の将来、幸せになるどころか今から借金地獄になるとは思わなかった。
子供でもアルバイトって出来ないのかな、ゲームでは具体的なお金の話なんて勿論なくてそこのところよく分からない。
ベンチに座り足を曲げて小さくなる、給料がいいところは確か力仕事の職業だったよな…魔力がダメなら身体を鍛えてそういう職業に就くしかないな。
大きな窓から見えるパーティー会場から楽しそうな笑い声とクラシックのゆったりした音楽が流れて踊っていた。
妹はどうしているのだろう、攻略キャラクターと出会ってなければいいがここからじゃ分からない。
……フリードがいると分かり、会って余計にそう思った。
ともだちにシェアしよう!