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第7話
※フリード視点
フリード・ホワイト、10歳…生まれ持った上階級の魔法使いとして家族に期待されて育ってきた、ちなみに1つ上の兄がいる。
ホワイト家は貴族の中でも地位が高い公爵家になる。
先祖から今までこの王都のために尽くす職業を選んできた。
公爵家の人間が騎士になるなどと反対されているが、俺は役所とかそういうのは合わない…どうせなら俺の強さを生かした職業がいいだろう。
野蛮だ何だとうるさい両親だが、たった一人だけ俺の味方がいた。
それは昔は凄腕の騎士団長で王都を守り、今は俺の身の回りの世話を焼く執事をしているギルだ。
今年60歳とは思えないほど瞬時に動き、俺のボディーガードとしてもギル以上なんていないほどにギルは完璧だった。
俺が騎士になりたいと思うようになったのもギルだった……あんなカッコいい男になりたい、そう憧れていた。
俺がもし伝説の聖騎士になれたら家族も認めてくれるだろう…しかしそれは現実ではない。
聖騎士は潜在的な能力だ、努力でどうなるものではない。
この世界にどれほどの多くの候補がいる?考えただけでも頭が痛くなる。
聖騎士を目指すより、人一倍努力して家族に認めさせる方が現実的だ。
ギルも俺を応援してくれている。
俺はギルに教わり5歳の頃から魔法が使えて今はまともにコントロールする練習をしていた。
基本魔法でも火、水、風、土、光、闇の六属性がある。
一つマスターするだけでもかなりの時間は掛かるが魔法学校に入学する前に基本魔法は全てマスターしたいと思っている。
ホワイト家の名を汚さぬように常に優秀でなくてはならない。
そんなある日、城でパーティーを開催するらしく両親とやって来た。
両親の仕事上いろんなパーティーに行っては挨拶に連れ回され作り笑いを強要され、うんざりしていた。
ふと視線を会場の隅の壁に向けた。
全体重を壁に押し付けてつまんなそうに周りを見つめる男がいた。
ジョーカーも来ていたのか、相変わらず何考えてるか分かりにくい奴だ。
ジョーカーの家と俺の家は昔から交流があり、俺達は赤ん坊の頃からの知り合い…幼馴染みというやつだ。
しかし仲がいいというわけではなく暇潰しで遊ぶ程度だった。
趣味が合わず遊びも長続きした事はないけど…
母に手を引かれ、知らないオヤジの前に出された。
ニコニコ笑うオヤジが気持ち悪いけど愛想笑いを浮かべて自己紹介をする。
オヤジに頭を触られそうになったからやんわりと避ける。
顔は笑顔で対応するが内心「触んなよハゲオヤジ」と思っていた。
「お母様、ちょっと具合が優れないのでお外の空気を吸ってまいります」
「あらそう?気を付けなさいね…用事があったらまた呼ぶから」
「はい」
少しでもこの香水や加齢臭くさい場所から離れたくて母にそう言う。
いつもこうして途中でいなくなるから母は特に何も思わず見送った。
いい子ちゃんでいるのも疲れる。
ドアから出て、思いっきり空気を吸い吐き出す。
少しは楽になった、でもちょっと服ににおいが付いたかもしれない。
大きな噴水がある場所までやって来た。
覗き込むと揺れる水の中に自分の顔が写り込んだ。
…やばっ、ちょっと疲れた顔してる。
俺様の美貌が老けるなんてそんな、ありえない。
顔を弄ってみるがあまり変わらない。
どれくらいそうしていただろう、かなり真剣でやっていて誰かが近付く足音に気付かなかった。
気付いた時には噴水の中にいた。
突き飛ばされたととっさにそう思った。
それしか考えられなかった。
初めて感じた屈辱に俺は突き飛ばした相手を睨んだ。
そいつは慌てた様子で俺に手を差し伸ばした。
……あれ、これは夢か幻覚か…天使がいる。
大きな真っ白に今にも羽ばたきそうな翼に舞う羽根。
コイツは魔法使いじゃない、聖霊かなにかか?
俺は真剣にそう思っていた。
謝ってばかりいる天使に怒りは何処かに吹っ飛んでしまい、もう怒ってないから謝らなくていいと言おうとしたらぶっきらぼうな言葉が口に出てしまった。
人に優しくなんて自分からしたいと思うのは初めてでどうしたらいいか分からなかった。
怒っただろうかと天使の顔色を伺うと今にもこぼれ落ちそうなほどの大きな瞳でこちらを見つめていた。
胸に矢が刺さった痛みを微かに感じた。
そうか、この天使は恋のキューピットってやつなのか…よく従姉が恋のキューピットや白馬の王子様とか夢物語を俺に聞かせるからいつも半笑いで聞いていた。
空想の世界だと思っていたが本当にいるなんて驚きだ、しかし恋のキューピットは誰かと誰かをくっつける役割の天使ではなかったか?
自分も恋がしたかったのか?…可愛いじゃないか。
誰かにこんな可愛いと思うなんて初めてだった。
しかし……………ズボンを穿いてるし…男、だよな。
俺はなんで男を可愛いと思ったんだ?
今までいろんなパーティーでいろんな貴族の子供と知り合い、中には女と間違うほどの男がいたが男というだけで一ミリも仲良くしたいとは思わず媚びへつらう顔がナメクジのように見えて気持ち悪く感じていた。
本当に不思議だ、相手は天使だから不思議な魅力を感じるのか?
そう思ったら突然上着を地面に落としシャツのボタンを外し始めて驚いた。
えっ、何?もしかして大人のそういう関係を誘われてる!?
…いや、落ち着け…俺達はまだ出会ったばかりだし壁の向こうには大勢のひとがいる。
それに今は寒いからそう言うと納得してくれたようでホッとしたような、ちょっと残念なような不思議な気持ちになった。
そして安心したのもつかの間、天使は服を引っ張り俺の身体を拭いていた。
いや、確かに脱いだら寒いと言ったがこれだとシャツが水を吸い込み風邪を引いてしまうぞ。
「服、大丈夫か?濡れてる」
「このくらいすぐ乾くから平気だよ」
そう言って笑う彼に俺は何も言わず黙った。
……俺、今かなりの重症かもしれない…やべぇ、抱きしめたい。
そして天使は俺の頭を拭きたいらしい。
人に触られるのは正直嫌だったが、拭いてくれるというなら断るのも悪いだろうと思いしゃがむ。
服が伸びるのではないかと思っていたが、俺は開いた口が塞がらなかった。
なんだこれ、なんだこれ、なんだこれ……
俺の目の前には小さなおへそが見えていた。
無駄な脂肪がないのにマシュマロみたいに柔らかそうな腹を出していた。
チラッと上を見上げようとした。
俺には分かっていた、上には今まで見た事がないような絶景が待ち受けていると…
そう思っていたのに…
「フリード様、フリード様ぁ!!」
俺を大きな声で呼ぶのは執事のギルだった。
もう少しで高みに上れると思ったのにギルのせいで天使は驚いて目を丸くしたと思ったら服を下ろしてしまった。
これ以上大きな声で叫ばれたら恥ずかしい、仕方なく立ち上がった。
別れの挨拶なんて俺の柄じゃないし、何も言わず立ち去ったら格好いいだろうと思い天使に背を向けた。
「俺のせいでごめんなさい!俺が大きくなったら弁償します!」
後ろからそんな声が聞こえて慌てて振り返ろうとしたら俺の腕を誰かが掴んだ。
目の前には探し回ったのか息を切らせたギルがホッとため息を吐いた。
そのまま手を繋がれ歩き出した。
後ろを振り返るとそこには天使はいなかった。
俺は天使の言葉を脳内で何度も何度も往復した。
大きくなったら…弁償ってなんだ?何を?
まさか俺の心を奪った責任を取って結婚するという事か?
この王都は自由恋愛主義で同性だろうと異種だろうと恋愛結婚は出来る。
だから魔法使いの俺と天使が結婚しても何の不思議はない。
「ギル」
「どうかなされましたか?フリード様」
「俺、婚約者が出来たからお見合いとかはいらないって母様に伝えといてくれ」
「!?」
ギルはしばらく固まっていた。
今までは早く騎士団に入りたくて大きくなりたいと思っていた。
…でも今は早く天使を自分のものにしたいとそう思うようになっていた。
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