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黒い羽根

目の前の美しい御方は、変わらず優しく微笑んでいた。 そんな表情とは裏腹に、白く美しい手に信じられない力で、ギリギリと怪我をした羽根を掴まれる。 そして、そのまま捻り上げるように上へ持ち上げられていく。 何が起こったのか分からず、ただあまりの痛みに息が止まる。 「…ひっ……!か……は…!?」 「低級悪魔が私の庭に紛れ込んだのなら、すぐに始末してやろうと思って様子を見にきましたが…」 「っ…あ………!?っ、………!!」 「まさか、天使とはな」 「ひ…、が……はっ………!」 あまりの痛みに、ボロボロと涙が溢れ出る。 「しかも、あの忌忌しいミカエルの手中の者とは…」 フンと鼻で笑われ、急に勢いよく放り出される。 酷い痛みなのに、もう、羽根のつけ根から先の感覚が無い。 一瞬、羽根が千切れてしまったのではないかと、恐々背中を振り返れば、羽根は繋がっていた。 「ひっ……ひぃっ……」 ただ、歪(いびつ)に歪んでひしゃげていて、痛みと恐怖に喉が引き攣る。 「は…ぁ…、はっ………」 バサリッという音に、相手の方を向く。 「っ……!?」 そこには、 空よりも真っ黒な、大きな羽根が広がっていた。 それは、自分達の様なふわふわした羽根とは違い、 書物で読んだ事のある、悪魔の羽根だった。 ふいに稲光が起こり、その姿を照らし出していく。 あまりの恐怖に、声も出なかった。 それなのに、 痛みと恐怖に戦慄きながらも、 なんて、 美しいのだろうと思う自分がいた。

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