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毒
「ぇ…?」
急に視界がぐにゃりと歪む。
「!?」
急に襲ってきた視界の霞みと手足の痺れに、その場に倒れ込む。
「効いてきたみたいだな…」
蠱惑的な美しい声に、耳まで麻痺する様な錯覚を覚える。
「お前に毒を打った。私から逃げ切れたら、解毒剤を打ってやろう」
冷たい瞳は、それが趣味の悪い冗談等ではない事を物語っていた。
言われるがまま、慌てて上半身を起こす。
四つん這いのまま、満足に動かない手足で、必死に前を目指して進んだ。
痛めた羽根は少しも動かず、手足を使って進むしかないのに、手足すら自分のものでない様にいう事をきかない。
よたよたと覚束ない足取りで必死に逃げる自分の姿を、嘲笑う様にベリアル様は妖艶に微笑んで眺めていた。
前へと進もうと動かす四肢は、イメージとは程遠く、必死に動かしているというのに、何度も崩れ落ち、ベリアル様との距離は縮まるばかり。
一歩、一歩と、ベリアル様が歩き始める。
「ヒィッ…はっ、ハァッ………!」
一歩、
また一歩と、
ベリアル様が近づいてくる。
「あ…、か…は…!?」
肩を掴まれ、勢いよく引き戻されれば、這いつくばって地面を見ていたはずなのに、
見える世界は暗い空だった。
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