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初恋
ベリアル様に抱かれたあのお部屋を好きに使って良いと言われて、そこで数日間療養してやっと体が動く様になった。
ふと、ベリアル様に初めてお会いしたお庭の事を思い出し、私はお部屋を抜け出した。
部屋の外へと出るのはとても恐ろしかったけれど、あの美しい庭園をどうしてももう一度見たかった。
そこはあの日と変わらず、暗く寂しい雰囲気の魔界の中では珍しく美しいお花が咲き乱れていた。
天界で見る花とは違うけれど、どの花も皆美しく、魔界で一人きりの自分を慰めてくれた。
そこに座り込む。
「ベリアル様は、なんてお美しいんだろう…」
ここへ来るまで悪魔というのは、皆恐ろしい容姿をしているのだと思っていた。
けれど、魔界に落ちて初めて目に飛び込んできたなは、今まで見た事もない程に美しい容姿をした魔界屈指の大悪魔だった。
自分が落ちてしまったのは魔界ではなく、上級天使様のお庭だったのではないかと錯覚してしまう程に、ベリアル様の容姿は美しかった。
ふと、視線を降ろせば、一際美しい花が咲いている。
目を奪われ、引き寄せられる様に、その花弁を撫でる。
「綺麗な花…、まるで、ベリアル様のよう…」
ほうっと溜息を吐けば、思い出されるのはベリアル様の事ばかり。
自分の御役目や、仕えていたミカエル様の事、仲間の事。
もっと考えなければならない事がある筈なのに、自分の心はすっかりベリアル様に捕らわれている。
以前であれば、堕落する天使の事など理解出来なかっただろう。
生まれ育った天界で、最高位の天使様にお仕えし、同僚も皆、美しく優しい優秀な天使達。
毎日が充実していて、楽しかった。
なんの不満もありはしない。
それどころか、自分は何と恵まれているのかと、毎日神様に感謝していた。
お優しいミカエル様や同僚達は、きっと今頃、自分をとても心配してくれているだろう。
それを思うと、とても申し訳ない気持ちになる。
でも、それなのに自分の心を占めているのはベリアル様の事だった。
美しい、ベリアル様。
思い返せば、毒を打たれて逃げ惑ったり、手足を拘束をされ辱められたり、良い思い出はないけれど、自分がベリアル様に夢中になっている事は明らかだった。
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