27 / 146
誘惑
私が誘惑なんて出来る筈もない。
そんな事は分かっているのに、ベリアル様は面白がって強引に私の腕を引いて歩き出す。
そして、辿り着いたのはベリアル様の寝室で泣きたくなった。
「ほら、誘ってみろ」
そう言って、ベリアル様はベットの上に座り、喜々として私の反応を見ている。
「う………」
仕方ないので覚悟を決め、ベリアル様の手を握って
「す、好きですっ…」
と、精一杯の気持ちを告げる。
これが、私が出来る精一杯の誘惑だった。
先刻まで楽しそうだったベリアル様の表情は、みるみるうちに呆れたものに変わっていく。
「お前に期待をした私が馬鹿だった」
「も、…申し訳ございません…」
恥ずかしい…。
ベリアル様の期待に添えないどころか、呆れられてしまった。
「まさか、この世の中にあれ程つまらない誘惑があるとはな…」
「か、返す言葉もございません…」
申し訳なさに小さくなっていると、ふいに何かを思いついた様に、ベリアル様がにやりと笑った。
ともだちにシェアしよう!