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恋しい

手を引かれて乗った車は椅子があり、そこに座るように促された。 その隣りにベルゼブブ様が座る。 「さて、何から話せば良いか…」 「あ、あの!ミカエル様が今、ベルゼブブ様のお城へいらっしゃっていると聞いて…!わ、私、いてもたってもいられなくて…!」 「ルノア、残念だが、ミカエルは魔界へは来ていない」 「え…?」 驚いてベルゼブブ様のお顔を見つめると、ベルゼブブ様は困った様に眉を寄せた。 「ミカエル自身が魔界へ降りる事はない。出来ないのだ。天使長という役目から、ミカエルは魔界への侵入は禁止されている。もし、ミカエルが、魔界へと出向く事があるとすれば、それは天界が危機に陥った時か、ミカエル本人が堕天した時だ。…気の毒だが、噂は間違いだ」 「間違い………………」 体の力が抜けて、椅子に深くもたれ掛かる。 ベルゼブブ様が深刻そうなお顔で、覗き込んでくる。 「大丈夫か…?」 「は…い…」 「だが、ミカエルがお前を探しているのは事実だ。ミカエルの所へ帰りたいか?もし、お前が帰りたいのならば、帰る手筈を整えよう。ベリアルには、俺から言っておくから、顔を合わせない方が良いだろう」 「違うんです…」 「違う?」 「私、ミカエル様に何も言わずに魔界へ迷い込んでしまったので…、最後にお別れを言いたかったんです…。きっと、心配をお掛けしていると思うから…」 「…このまま、魔界で暮らすという事か?」 「…はい。私、ベリアル様からお許しを頂いた時から、一生ベリアル様の御側に置いて頂きたいと思っています」 「そうか…。ベリアルならば、もう城に戻っている頃だ。ベリアルの城まで送ろう」 「ベリアル…様…」 ミカエル様が来ていると気が動転して、 夢中で出てきてしまったけれど、 今1番会いたいのはベリアル様だった。 思い出せば、早く会いたくて、心が震えた。 「ベリアル様に…、会いたいです…」 たった数日会えなかっただけだというのに、酷く寂しかった。 お帰りになったのなら、早くベリアル様のお顔が見たい…。 私の呟きに、ベルゼブブ様が何故だか嬉しそうに笑った。

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