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優しい声

とりあえず、争いにならずに済んだと、ほっと胸を撫で下ろした。 「やれやれ、よく吠えるガキだ」 ベリアル様は面倒臭そうに呟いた。 「あ、あの、ベリアル様…」 声をかけると、ベリアル様が振り向く。 何と、声をかけて良いのかわからずに、私は俯いた。 先程、ベリアル様は、『私のもの』と言ってくれた。 そして、無理矢理連れて行かれそうな自分を助けてくれた。 その、理由を聞いても良いのだろうか? まだ、ベリアル様のお側に置いて欲しいとお願いしても良いのだろうか? 今ならば、少しはお話を聞いてくれそうなのに、肝心の言葉が何も出て来ない。 再び突き放されるのが、途轍もなく怖かった。 折角のチャンスなのに、何も言えない自分が情けなくて、じわりと目に涙が浮かんだ。 突然、ベリアル様が、私の手をとる。 「痛っ…」 「こんなになるまで扉を引っ掻いたのか?馬鹿な奴だ…」 私の手は、全ての爪が割れて血が固まっていた。 もしかして、夢中で気づかなかったけれど、血で扉を汚してしまったのかもしれない。 「す、すみません!と、扉を汚してしまって…!す、すぐにお掃除します…!」 真っ青になって言う私に、ベリアル様は深い溜め息を吐いた。 「お前という奴は…、やはり馬鹿だな。そんな事はどうでも良い。どれ、帰って医者に手当てをさせましょう」 ベリアル様のお顔も口調も、今までにない位に優しくて、私は驚いて目を見開いた。

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