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第3話
その夜、八雲からの文を読んで、彰広はひと月ぶりに遊郭へ足を運んだ。
廊下を進む彰広を男娼達が盗み見た。その美丈夫ぶりにうっとりとため息を吐き、今宵、彰広の相手となる男娼を羨んだ。
お気に入りだった男娼が身請けされて、足が遠のいていたので、遊廓に足を運ぶのは久しぶりだった。
その男娼はよく似ていたのだ。
もう七年も会っていない幼馴染みに。
物腰や声、笑った時の顔も。
その男娼に身請けの話が持ち上がったとき、八雲から彰広が望むなら優先すると、身請けの話を持ち掛けられた。
倍の金額を表示されたが、妾として囲うのも悪くはないかと思うくらいに気には入っていた。
だが、その男娼を身請けしようとしていた男は幼馴染みで、ずっとその男娼を想い、死に物狂いで金を貯めたのだと聞いて彰広は身を引いた。
彰広にも忘れられない幼馴染みがいる。
─────透。
元気でいるだろうか?
極道の道を選び、想いを告げることもせず疎遠になった幼馴染みを想った。
何故かは分からない。
いつまでたっても、彰広にとって忘れられない相手だった。
「きっと気に入りますよ」
八雲にそう言われ、最上級の部屋に通される。この男は自分の好みをよく分かっていた。
障子を滑らせ、彰広は男娼を見た。
朱い褥の上、襦袢姿で後ろ手に縛られ、目隠しをされ猿轡を咬まされていた。
顔ははっきり分からないが、背格好や雰囲気は確かに彰広の好みだった。
………八雲め。遊んだな。
彰広には少し嗜虐趣好がある。
不安げに震える青年は、充分に彰広を誘った。
彰広は笑みを浮かべ、部屋に入り障子を閉めた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
人の気配に青年はビクリと怯えた。
八雲からは、まだ男を知らぬ体だと聞いている。
怯える青年を見て、彰広の瞳に加虐の欲の色が宿った。
顔を見ようと、青年の目隠しに触れると、青年は逃れようと暴れだした。
「んんっ!!」
「顔を見るだけだ」
彰広の声に青年が硬直して動きを止めたので、彰広は青年の目隠しを外した。
「透!?」
行灯の灯りに照らされたのは、間違えようもない、幼馴染み本人の顔だった。
慌てて猿轡も外して抱き上げた。
「彰広!? なんでっ!?」
「お前こそ、どうして遊郭なんかに」
「友人に騙されて………ああ、よかった。解いてくれ。彰広」
「………」
彰広は七年振りに会う想い人の顔を見た。
少し大人びたが、少年の頃の清廉さはそのままだ。
男娼が着る朱色の襦袢で、後ろ手に縛られ、縋るように彰広を見ている。
彰広の喉がゴクリと鳴った。
「彰広?」
透が不審げに彰広を見上げた。
「あ!」
彰広が透を抱き寄せ、顎を取って視線を合わせた。
「ここがどんな場所か分かっているか?」
先程、準備と称して男達に散々鳴かされたのだ。透の頬に朱が走る。
「お前は俺が買ったんだよ」
「な、何を言って………」
信じられないものを見るように、透が目を見開いて彰広を見た。
「夜明けまで、お前は俺のものだ」
「あきひ………んんッ!!」
透にそう宣言して、彰広は唇を合わせた。
熱い舌を差し入れ、戸惑う透の腔内を激しく貪った。
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