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第1話

「おい。そろそろ時間だぞ」 ガシャンと南京錠を開けられ、男は俺の首と腕に付けられた鉄製の枷を、繋がれた鎖で思いっきり引っ張る。 大量の毛が身体を覆っているとはいえ、固い枷が食い込めば流石に痛い。 「オイ!いてぇだろうが!もっと丁重に扱えよ人間。仮にも俺は商品なんだろうが」 「はっ!いつまで経っても売れねぇ商品なんかを大事に扱う余裕なんてねぇんだよ!」 その言葉に反論は出来なかった。 人身売買と同じように、獣人も奴隷として売られるこの時代。 俺は、埃と泥にまみれた自分の姿に嫌気がさしていた。 長く尖った鼻先に、大きな口と鋭い牙。白かったはずの自分の毛並は、目が隠れてしまうほど伸びきって鬱陶しい。 手足なんか人間の倍にデカくて、爪なんか軽くナイフだ。振りかざせば人間の皮膚なんて軽く裂けてしまうだろう。 他の獣人からすればこんな姿なんて当たり前の事なのだが。人間からすれば俺のような奴は、怖ろしいもの。危険な生き物と思うらしい。 結果。 よく奴隷として買われていくのは、兎や鳥などといった獣人ばかりだ。 たまに番犬として、俺みたいな狼やトラといった獰猛な獣人も買われることはあるのだが……。 「どうせ、俺はまた駄目なんだろうな」 何度繰り返しても変わらない結果に、思わず俺は卑屈に笑みを浮かべる。 「おらっ。ここに立て」 「はいはい」 人間に引っ張られながらも仕方なくステージに立ち。何度も浴びせられてきた眩しい照明に目を細める。 客席には複数の人間と、少数の獣人。 異様な生き物を見つめるその視線には、もう慣れてしまった。 「さぁさぁ皆様!次の商品はこちら!」 仕方ない。 だって俺はーー。 「世にも珍しい『Ωの獣人』でございます!!」 世界に数人としかいない、嫌われ者のΩの獣人なのだから。 「なんだよ。またアイツか」 「ずっと売れ残ってるわねぇ~あの獣人」 「仕方ねぇよ。αの俺達が好き好んでΩの獣人なんて買うわけねぇし」 「あんな獣、襲いたくもないしな!」 いくら小声で話そうとも、耳のいい俺には客共の声が全て聞こえてくる。 「好き勝手言いやがって。α共が」 俺達みたいな奴隷を買いに来る奴等というのは、基本金持ちしかいない。 つまり、人生の成功者ということだ。 すると、客席は自然とαばかりの集まりになってくる。しかもその大半は人間。 そんなαの人間共が、いつ発情期(ヒート)が来てもおかしくないΩの獣人を買うなんて有り得るわけがない。 だから、ずっと俺だけが売れ残っていくのだ。 「俺が……こんな姿だから。忌々しい……Ωだから」 きっとこれからも、このまま誰からも受け入れてもらうことなく。ずっと汚らわしい目で見られ、Ωだからと隔離され、最終的には殺処分される運命になるだろう。 なんとも皮肉な人生。 なんて残酷な世界。 「なら、せめて次は」 Ωなんてない。人間しかいない。 そんな世界で普通に暮らして。 そして、いつか誰かにーー俺を受け入れてもらいたい。 「一千万で買い取ろう」 「……は?」 その言葉は、確かに客席からのものだった。 「えっと……」 「おや?聞こえなかったのかい?その獣人を一千万で買う。と言ったのだけれど?」 騒めく客席から一人の人間がゆっくりと立ち上がり。黒のシルクハットを取って、その顔を俺達に晒す。 その姿に、俺は思わず目を奪われてしまった。 黒のジャケットと黒のズボンに身を包んだその顔は、まるで女みたいに色白で、ムカつくくらい整っており。首元までまっすぐ伸びたショートの金髪は、薄暗いこの場所ではとてもキラキラ輝いていて、一言で例えると。まるで月のようだと思った。 しかしここに来ている客層からすれば、その人間は随分と若い。 大体十六から十八といったところか……。 そんな餓鬼が一千万とか、商人共も本気にしねぇだろ。 「これはこれは!!アルベルト様でしたか!!いつもご利用ありがとうございます」 まさかの常連だったか。 「しかしこの獣人は、精々五百万くらいの価値しかありませんよ?それでもよろしいのですか?」 「良いよ。僕からすれば、彼は一千万出す価値があると思ったからね」 なんだこの餓鬼。 俺に一千万を出す価値があるだと? 「では、契約書にサインしていただきますので。商品とご一緒にこちらへ」 「じゃあ行こうか。獣人君」 「えっ、ちょっ」 小さな手が、俺の大きな手を掴む。 何が起きたのかいまいち理解が追い付いていないが。 どうやら俺は、この変な餓鬼に一千万という高額で買い取られ。晴れてコイツの奴隷となったらしい。

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