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第3話

ーー最悪だ。 ーー気持ち悪い。 そう言われ、俺を汚らしい目で見てきたあの顔は、今でも忘れることが出来ない。 「はぁ……慣れないベットで寝るから、あんな夢見るんだ」 眠っている時ですら蒸し返される過去の話に、そろそろ嫌気がさして来る。 「いや、ベットのせいというより。アイツのせいか」 そうだ。あの餓鬼。アルベルトが俺を番にしたいとか言い出すからあんな夢を見るんだ。 しかも何のためらいもなく俺にキスしてきたということは、あの言葉が嘘というのもありえない。 それに、今まで俺はクソみたいな奴等を山ほどこの目で見てきた。アルベルトがそういう奴等とは違う事くらい目を見ればわかる。 と、なると……。 「後は、俺次第……ということか」 いやいやいや。というか会ったばかりのアイツと番になるかどうかなんて、そんなのすぐに決められるわけがねぇ。 それに一応俺はアイツの奴隷であって、番になれるような立場でもない。 「アイツの親とか、反対するだろ」 親どころの話じゃない。 きっとここにいるメイドや執事達。そして世間からも非難される。 そしたらアイツの立場はどうなる。 きっと、今みたいな生活は出来なくなってしまう。 「やっぱ俺は、ここにいるわけには……」 「逃げるなんて許さないよ?」 「おわぁあ!?は!は?いつから居た餓鬼!!」 「君がずっと下を向いたまま、考え込んでいたとこくらいからかな?」 「全然気が付かなかった……」 いつのまにか……というより、鍵をかけていたはずのこの部屋にどうやって入って来たのか。アルベルトは扉の前で背中を預けるようにして寄りかかったまま、いつもの笑みを浮かべて俺を見つめていた。 その視線を感じていると、思わず昨日の出来事が蘇ってくる。 押し倒されて、キスされて、もしあの時俺が発情していたらーーあのままされていたのだろうか? って、どこまで想像してんだ俺は! だいたい俺があの餓鬼にヤられるとか有り得ねぇし。それに……もしかするとアイツも、キスまでは出来たとしても。いざヤるってなったら無理かもしれないしな。 こんな獣の俺なんかと、セックス出来る人間なんかいるわけがないんだし。 「君は、色々考えこむのが悪い癖だね」 「は?」 「心配しなくても、僕は本当に君を番にしたいと思っているよ。ただ今手を出さないのは、君がヒートしていないってこともあるし。それに、嫌がる君を無理矢理犯したくはないから」 「っ……」 「まぁでも、あんまり可愛い反応されると。我慢出来なくなっちゃうかもしれないけどね」 「か、可愛いわけねぇだろ」 「いいや。君は予想以上に可愛い。中身は勿論のことだが。ほら!昨日お風呂で洗ったから、こんなに毛もふわふわで真っ白で……君はホワイトウルフだね」 「はっ。獣人のΩってだけで珍しいのにな。プラスこの白い毛ってのも随分珍しい方らしい。全く……嫌気がさすぜ」 そういえばずっと汚い牢獄の中だったから、全身を洗ったのは久々だったなと思い。俺はベットから起き上って、部屋にあった姿見で今の自分を見てみる。 白い毛に、大きな体。尖った耳と口。 これのどこが可愛いのか、理解できないな。 「さてと。では僕は仕事に戻るとしよう。あ、君の服はこちらで用意しておいたから」 そう言ってアルベルトが指さした方へ目を向けると、白いワイシャツと黒のジャケットが綺麗に畳まれて机の上に置かれていた。 「ズボンは昨日の夜メイドから貰った……今君が穿いているものでもいいかな?後でもう二着ほど買ってこさせるから」 「別にいい。つか俺はお前の奴隷だ。そこまでする必要はねぇだろ」 「僕は君を奴隷として扱う気なんて毛頭ないよ?これからはこの家で、ゆっくりくつろぐといい」 「は?え?いや、流石に何か……」 「しなくていいよ?何か欲しい物がある時や、用事がある時は、机の上にあるそこの電話でメイドか執事を呼ぶといいよ。あ、でも。僕を呼ぶ時はそのスマホでね?」 確かに机の上に白の電話機と、スマホが置いてある。 ということはアレ、俺のスマホになるってことか? 「そういえば。まだ君の名前を聞いていなかったね」 「あぁ……」 そういえば言ってなかったな。 つうか今更名前って……なんか色々とすっ飛ばしている気がする。 「これから僕は、君の事をなんて呼べばいいかな?」 口元に手を当てて、妖艶な微笑を浮かべるアルベルトに、一瞬喉が鳴った。 まるで何かを求めているかのような仕草に、何かを与えたくなってしまう。俺の何かをーーアイツに。 「っ……ル、ルウだ」 「分かった。これからよろしくね……ルウ」 名前を呼ばれただけなのに、身体がゾクゾクと反応してしまう。 あの口で、あの声で呼ばれた事に、俺はーー喜んでいるのか? 「じゃあ、また仕事が終わったらここに来るから。行ってくる」 「あぁ……いってらっ……じゃなくて!別に来なくていいつうの!」 と言い返した時には既に、アルベルトは部屋から出ていってしまっていた。 なんだか、無駄に広いこの部屋が一瞬で静かになった気がする。 「いかんいかん。余計な事考えるのは止めて、さっさと着替えよう」 気持ちを切り替える為にワザとそんな独り言を呟きながら、用意された服を手にして、シャツに腕を通そうとした時。 コンコンッとドアをノックする音が聞こえた。 「失礼いたします。今日の朝食をお持ちしました」 ノックした後に扉を開けて入って来たのは、一人のメイドだった。 メイドは銀色のティーカートを押しながら部屋の中へと入り、机にサンドイッチとコーヒーを静かに乗せていく。 「わ、悪いなわざわざ……」 「いえ。貴方様はご主人様の大切な番のお相手なのです。もしも何かご要望がありましたら、なんなりとお申し付けくださいませ」 その優し気な微笑みに嘘は見えなかった。 あの餓鬼の命令だからとか、嫌々ながらとか、そういう感じは全く見られない。 ここに来た時から思っていたが。ここにいる奴等は俺を軽蔑もしなければ、怖がりもしない。寧ろ歓迎してくれている感じだ。 まぁそれでも俺は、まだ完全に信用したわけではねぇが……。 だが、あっちが俺を嫌がってねぇなら好都合だ。 「なぁ今、要望があれば何でも言え。って言ったよな?」 「はい。なんなりと」 「じゃあ一つお願いがあるんだが……」 「はい。なんでしょう」 「俺にも、お前達の手伝いをさせてくれ」 「……え?」

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