メイドや執事の仕事つうのは、予想以上に楽なものじゃなかった。 「ではルウ様は、そちらの方の掃き掃除をよろしくお願いします」 「分かった」 「ルウ様。先ほどの部屋、最後のゴミ捨てをお忘れでしたよ？」 「ゲッ。しまった」 「大丈夫です。私がやっておきましたから」 「……わりぃ」 「ルウ様！爪痕が！」 「あぁあ！！」 「ルウ様。すみません……とても言いにくいのですが……その、掃除した場所に毛が……」 「わ、わりぃ」 バカでかい部屋の掃除から、玄関、庭まで徹底的に綺麗にし。それが終われば食器や、食品の補充管理。アルベルト宛へ届く手紙や書類の整理。服やタオル等の洗濯と。朝から晩までみっちりと仕事生活。 たった半日しただけで、俺の身体と頭はパンクしてしまいそうだった。 「大丈夫ですかルウ様？」 「あぁ、大丈夫だ」 本来獣人は、人間の倍近くの体力を持っているはずなのだが……。 コイツ等の体力は、獣人以上だな。 「……もうお休みになられてください。本来ならルウ様にこのような事させるわけにはいかないのですから」 「いや、一応俺は奴隷だしな。それにこれからここに住むなら、何かしねぇと恩ばっか貰うのは気持ちわりぃしよ」 とか言ったものの。今日だけでこんなヘトヘトになってるのに大丈夫か？俺。 「……成程。アルベルト様が気に入るわけですね」 「は？」 隣にいたメイドが呟いた一言に、俺は思わず反応してしまった。 すると、まさか俺が聞こえていると思っていなかったのか。メイドは慌ててさっきの言葉の意味を教えてくる。 「あぁいえ！ルウ様は真面目で優しい方なので、アルベルト様が番にしたいというのも納得だなぁと思いまして！」 「アンタ視力大丈夫か？俺はそんな奴じゃねぇよ」 つうか、今日で散々な仕事をしてきた俺に対してそう思えるのが凄いな。このメイドは。 普通だったら、迷惑とか役立たずとか思うとこだろ。 真面目で優しいのはどっちだよ。 「わ、私だって人を見る目くらいはあります！いいや、私だけじゃない。多分ここにいるメイドや執事さん達だって」 「よくまぁ、そんな自信もって言えるな」 「それはそうですよ。だってここにいる人達のほとんどが、今まで酷い目に遭って来たのですから。良い人と悪い人の判別くらいはすぐに出来ますよ」 「……どういうことだ？」 ここにいるメイドや執事達も、今まで酷い目に遭ってきただと？ ということはつまり。 「お前等も奴隷で、Ωということか？」 「全員……というわけではありませんが。元々奴隷として扱われていた方もいれば、Ωの方もいらっしゃいます。因みに私はβで、子供の頃両親に捨てられたのですが。ある日、独り飢え死にしそうだった私を、アルベルト様が拾ってくださいました」 「そう……なのか」 一瞬、嫌な記憶が思い出されてしまった。 お互いに獣人でαだった両親は、獣人なのにΩで生まれてしまった俺を、なんのためらいもなく見捨てた。 誰にも信用されず。誰も信用せず。何も知らないまま一人で生きて、αから逃げて、生きていくのが苦しくなっていた俺を、ある日アイツが拾ったんだ。 けど。 それでも結局はーー。 「ルウ様？」 「あ、いや。何でもねぇ」 余計なことを考えないように頭を振って、俺はメイドに話の続きを聞く。 「私はあの日からアルベルト様に感謝し。そして、アルベルト様の為に尽くそうと決意しました。だからこうしてメイドとして働けて嬉しいのです。それはきっと、ここで働いている皆さんも同じように思っている事だと思います」 「だろうな……」 実際俺も、アイツには感謝してるしな。 「だから誰も、ルウ様を不快に思う方なんていませんよ？安心してください！」 成程。どうして俺を見ても嫌な顔一つされなかったのか、これでようやく理解した。 ここにいる奴等も、俺と似たような境遇だったからか。 といっても、獣人Ωってのは流石に俺だけみたいだが。 「こんな私達にも手を差し伸べて下さるアルベルト様は、本当にお優しい方ですよね」 「……優しい？」 「はい。とてもお優しい方だから、私達のような人達を助けて下さるんですよ」 アイツが優しいから、アイツが苦しんでいる奴等を放ってはおけない性格だから、俺みたいな奴も助けた。 「……だから、番になるなんて言いやがったのか？」 「ルウ様？」 そんなのはただの同情で、アイツの自己満じゃねぇか。 それなのに俺はーー。 「っ……」 「どうされました！？」 俺は、何を期待してーー。 「この、匂い……もしかして」 ゾクゾクとした快感が、一気に湧き上がってくる。 身体が熱くて、クラクラする。脳まで溶けてしまいそうだ。 「こ、れは……」 随分と久しぶりだったが、それでも分かる。 この忌々しい症状。これはΩ特有のーー。 「発情期……」